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【ぷりかる】迅雷風烈

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【ぷりかる】迅雷風烈

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プロローグ

 プロローグ

 大きな屋敷だった瓦礫を踏みつぶして、迅雷はゆっくりと歩を進める。
 コックピットでその様を見ながら、玄白は視線を下に下ろした。
「なんだ……まだ逃げてなかったんだね。ひょっとして、攻撃を仕掛けようとしてるのかな?」
 独りごちながら、玄白は楽しそうに頬を吊り上げる。
「そっかそっか……ならやってみればいいんじゃないかな……これが最後の勝負だ……負けないよ楊霞……」
 玄白は喉を鳴らすように笑い始めた。



一章 足止め

「おおーいのろまー! オレはこっちだ! 踏みつぶしてみろ!」
 白銀 昶(しろがね・あきら)は機晶マウンテンバイクに跨がって迅雷の足下を駈け回る。
「……」
 だが迅雷は昶の存在に気付いていないのか気にせず前進を続ける。
 その一歩は地面を揺らし、柔らかい土の表面が波のように昶を襲う。
「うお!?」
 昶は慌てて進行方向を変えて、瓦礫や木の枝を含んだ波を回避する。
「くそ! 完全にこっちを無視する気かよ……なら、これでどうだ!」
 昶はマウンテンバイクのサドルに足を乗せて、迅雷の足下に飛びつくと膝のあたりまで上っていきナタを構えて疾風突きを仕掛ける。
 装甲が無く人工の筋肉のような部分にナタが突き刺さり、ドロリと血のようなものが流れる。
「……ダメか。こりゃ本格的に吹き飛ばさないとどうにもならないな……」
 昶は舌打ちをしながら膝から飛び降りて再びマウンテンバイクを疾駆させる。
「やっぱり、刃物で傷つけるくらいじゃびくともしないか……」
 小型の飛空艇を乗り回していた清泉 北都(いずみ・ほくと)は昶の様子を見つめて小さく呟く。
 飛空艇は迅雷の丁度顔のところを飛行しており、迅雷の巨大な目が北都の機体を捉えた。
「グッオオオオォッッォォオオオオオオッッッッッォオオオオオオオオオオオオオオ!」
 何かが爆発したような音が空気をゆらし、北都の飛空艇が揺らめく。
 その隙を狙うように迅雷はゆっくりと手を上げてそれを真っ直ぐに振り下ろす。
「っ!」
 北都はふらつく頭をなんとか持ち直して、飛空艇を飛ばして回避する。
「グウウウッッルッッルウウウウウウウウ……!」
 迅雷はかわされたことに苛立ちを覚えているかのように唸ると、胴に仕込んでいた機関銃とミサイルを露出させて、全て撃ち尽くすように北都に向けてぶっ放した!
 北都は超感覚で弾の軌道を読み切り、ギリギリ回避していき飛空艇の道筋を作るように爆炎が上がる。
「さあさあ僕はここだよ撃ち落としてごらん!」
 かわしながら挑発するように弓を放ってみせると、本格的に北都を敵と認識したのかさらに弾薬の量を増やして、迅雷は北都を撃ち落としにかかる。──その足はいつの間にか止まっていた。
「北都はしっかり囮してるみたいだな……おかげで上りやすくなった」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は迅雷の足下からアブソリュート・ゼロで半球体の氷を生み出しながら、迅雷の背に上り詰めていた。
「さて……それじゃあ一丁やってやるか」
 エヴァルトは右手を離すと握り拳を作り、
「喰らえ! 銀色の波紋疾走──メタルシルバーオーバードライブ──!」
 叫びながらその拳を叩きつけ、ショックウェーブを発生させた。
 背中で発生した衝撃波は迅雷の背中から胴体に伝わり、正面に仕込まれていたミサイルが誤作動を起こして爆発が起き、その衝撃で機関銃の砲身が抉れた。
「グウウウッッッッッグウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 悲鳴を上げるように迅雷は吠えて、身体を無茶苦茶に震わせた。
 その瞬間、
 エヴァルトは足場から手を離してしまう。
 そのまま身体は迅雷から離れていき、エヴァルトは空中に投げ出されてしまう。
「こ、このままじゃあと数秒で地面にぺしゃんこだ! この状況……どうする!」
 エヴァルトは必死に脳味噌を回転させる。
 3択ーひとつだけ選びなさい
 答え?ハンサムのエヴァルトは状況打開のアイデアを閃く。
 答え?仲間が助けてくれる。
 答え?助からない。現実は非常である。
(俺が○をつけたいのは答え?だが期待できない。後数秒の間に誰かがアメコミのヒーローみたいにジャジャーンと現れて『まってました!』と間一髪助けてくれるわけにはいかねーぜ……ってことは)

 答え?ー助からない。現実は非常である。

 脳が自動的に答えを弾きだすのと同時に──エヴァルトの身体は落下のスピードを緩めて、地面に数センチの間を浮遊していた。
「大丈夫ですか?」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はサイコキネシスを解除すると、エヴァルトの身体は地面にポトリと落ちた。
「こ、答えは?だったみたいだな……」
「? とにかく、お疲れさまでした。エヴァルトさんはそこで休んでいてください」
 そう言って、さゆみはパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)と迅雷を見上げる。
 迅雷は胴体から黒煙を上げながら、再び歩きだしていた。
「また動き出したのね……。アデリーヌ、お願いしていい?」
「ええ、もちろん」
 アデリーヌはニッコリと微笑むと、迅雷に向かって天のいかづちを放った。
 耳をつんざくような雷鳴と同時にさゆみたちの視界が雷光で真っ白に塗りつぶされる。
「ッッッッ!??!??」
 雷が直撃した迅雷は身体のあちこちから火花を迸らせて呆然と立ち尽くしていた。
「どうもショートしたみたいね。それなら、これも仕掛けちゃいましょう」
 さゆみはそう言って、木の陰に隠していた大量の爆薬をサイコキネシスで宙に浮かせる。
「さゆみ、まだ爆薬を仕掛けようとしている人もいるみたいですが?」
「分かってるわ。だから仕掛けるだけ仕掛けて、発破は他の人に任せましょう?」
 さゆみは微笑むと、迅雷の膝に大量の爆薬を仕掛けた。
 仕掛けたといっても動かなくなった迅雷の膝の部分に爆薬を置いただけだが、今の迅雷には十分な脅威となりえた。
「さ、ここも危ないから逃げましょうか?」
 さゆみはアデリーヌと共に迅雷から離れていき、エヴァルトも遅れながら二人についていく。
 周囲の人達が離れていく中、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は迅雷に接近していく。
「動きを止めたなら今がチャンスね」
 呟きながら祥子は膝の部分に近づいていく。
 迅雷の膝の装甲は周りと比べて薄く、さゆみの置いた爆薬はその厚みの差で無造作に置かれていた。
「……今は止まっているからいいけど、動き出したら全部こぼれちゃうわね……私も吸着させるような物は持ってないし……どうしようかしら」
 祥子は困り顔になりながら、とりあえず持ってきた機晶爆弾をさゆみに習って置いてみる。
「お困りのようだな」
 そんな祥子に声をかけたのはマーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)に憑依されたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)だった。
「これだけの爆薬を爆発させるとなったら、避難が必要になる。だが、避難していては迅雷が動き出す可能性がある。危惧しているのはそんなところか」
「ええ、そんなところね。何か案はあるのかしら?」
「もちろん。そのために接近したのだ」
 テレジアはグリースを塗りたくったソックスを取り出した。その中には機晶爆弾が仕込まれていた。
「グリースを塗りたくれば問題なくへばりつくだろう。これで、動き出しても簡単に零れ落ちたりはしないはずだ」
「すでに仕掛けられている物に関してはどうするつもりですか?」
 祥子の問いにテレジアはチューブ状のグリースを取り出した。
「我の毒虫が仕込んでおく、抜かりは無い」
 テレジアは毒虫の群れで毒虫を呼び出すと膝のところまでグリースを運ばせる。
「後は毒虫たちがグリースを撒いてくれるだろう」
「後は逃げるだけってことね」
「そういうことだ。爆発に巻き込まれないうちに逃げ出すぞ」
 テレジアは言うなり、走って迅雷から距離をとった。
「さて……これで壊れなかった時は……もうお手上げね」
「結果は神にでも祈ればよい。……もっとも、神がいればの話ではあるがな」
 そんな事を話し合いながら二人は迅雷から離れていく。


「よおーっし! 一丁やろうか!」
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は気合いを入れながら白鐘 伽耶(しらかね・かや)と共に迅雷と対峙していた。
「ほ、本当にこの距離からやるんですか? ……爆発に巻き込まれたりしませんか?」
 伽耶は心配そうに訊ねる。
「大丈夫! ……っていうか、これ以上離れたらサンダーブラストもファイアストームも届かないし」
「それ……大丈夫っていう理由にならないと思うんですけど……でも、ここでやらないとコンロンに被害がでるんですよね? なら……頑張ります!」
「うん、ありがとう伽耶さん。合図したら爆弾が設置されてる膝に向かって総攻撃をかけるよ」
「はい! 任せて下さい!」
 伽耶は自分を鼓舞するように答える。
 その姿を見て、ユーリは黙って頷き手をかざす。
「それじゃあ……いくよ!」
「はい!」
 ユーリは叫んだ瞬間ファイアストームを放ち、伽耶はそれに続くようにクロスファイアを見舞った。
 ユーリが放った炎はうねりながら迅雷に向かって行き、爆弾を飲み込んだ瞬間──あたりの景色が一瞬で吹き飛んだ。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
 二人は短く悲鳴を上げる。
 火傷しそうなほどの熱風が巻き起こり、迅雷の周辺の木々は爆発で根元から吹き飛ばされる。
「ッグウウッッッッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?!?」
 迅雷は目に光りを取り戻すと口から轟音を吐き出し、爆ぜた膝から人工の血液が溢れてその場に片膝をついた。
「う、うわ〜思ったより凄いことになりましたね……」
「とりあえずこれで私たちの仕事は終わったね。後は他の人に任せよう」
「はい!」
 荒れ地と化した迅雷の周囲から二人は離れ、迅雷は低く唸りながら煙を上げていた。