リアクション
エピローグ
「あ〜あ……これはもうダメだね」
額に穴が空き、ボロボロになって地に伏している迅雷を見て玄白はため息をつく。
「ダメだと言うわりに気落ちしていないように見えますが?」
玄白を捕らえている楊霞が訊ねると、玄白はニヤリと口元を歪めて見せる。
「そりゃそうさ。俺の考えは間違っていなかった。そうだろ? あの巨大兵器を生身で破壊できる人材が君に仕えているんだ……やっぱり君は俺が考える理想の主だよ」
嬉しそうに笑っている玄白に楊霞は黙って首を横に振る。
「貴方の考えは根本的にずれていますよ」
「……どういう意味だい?」
笑みが消えた玄白に楊霞はゆっくりと語り始める。
「僕も間違えを起こすし、それを止めてくれて叱ってもらわないと分からないことだってあるんです。きっと、貴方が探しているような主は存在しないんですよ。……こうやって、間違いを正して互いを支え合う世界で主も従者も本来なら必要無いのだと僕は考えます」
その言葉を聞いた瞬間、彼の目から火が消え熱を失った鉛のような瞳で楊霞を見つめた。
「びっくりするくらいつまらない。ここまで考えが違ってるとは思わなかったよ、どうやら僕たちの考えが交わることはなさそうだ」
「ええ……残念ながらそのようですね」
「でも、僕の考えは変わらないよ。だって──間違っているのは君たちで僕が一人、正しいのかもしれないんだからね……ま、次の主は誰にしようか獄中で考えるとするよ」
「それでは……行きましょうか」
楊霞は玄白と紅玉を連れて行こうとすると、
「楊霞おねえちゃんは帰ってくるんです?」
ヴァーナーは心配そうな声で、楊霞を呼び止めた。
楊霞は振り返って、安心させるように微笑んでみせる。
「大丈夫ですよ。先程お父様にご連絡して近くまで出向いてもらっています。引き渡しに行くだけですから」
「絶対、絶対帰ってきてくださいです! おねえちゃんがいなくなったらイヤです!」
泣きそうになりながら声をかけ、楊霞はもう答えることなく契約者達から遠ざかっていった。
***
水上都市ヴァイシャリー。
その都市の小さな一角に佇むメイド喫茶『バーボンハウス』のキッチン内で男の笑い声が響いた。
「あっはっはっは! 楊霞くんがいなかったからお店の経営が滅茶苦茶だよ。僕一人じゃワークスケジュールも作れないからね!」
「しっかりしてください店長」
楊霞も別段怒ったりせず、涼しげに微笑んでみせる。
「でも良かったよ楊霞くんが無事に戻ってきてくれて。いよいよ愛想尽がつきたのかと心配してたからね」
「僕はどこにもいきませんよ……ここも、百合園学園や他の学校の人達にも何も恩返し出来ていませんから。少なくとも、それが終わるまではここを離れる気はありませんから」
「……そうか。うん、それがいい恩返しは焦らなくていいよ、ゆっくりやっていけばいい」
「はい、そうします」
楊霞が笑顔を見せると、来客を告げるベルの音が鳴り響いた。
「おっと、お客さんだ。それじゃあ楊霞くん、よろしくね」
「かしこまりました」
楊霞は笑顔のままキッチンを出ると、入口に立っているお客の前に立ち、
「ようこそ、バーボンハウスへ」
ペコリと一礼して見せた。
──了──
こんにちは、本シナリオを担当させていただいた西里田篤史というものです。
今回のシナリオに参加してくれた方々にこの場を借りて、厚く御礼申し上げます。
無事に楊霞のシナリオもハッピーエンドを迎えることが出来ましたのも多くの方がシナリオに参加していただいたお陰です。本当にありがとうございました。
短い挨拶となりましたが、プリンセスカルテットの楊霞のシナリオはひとまずここで終わりとなります。
また、何かのシナリオで皆様とお会いできるのを楽しみにしております。
それでは、失礼致します。