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冬のSSシナリオ

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1


 紅茶の薫る匂いでメニエス・レイン(めにえす・れいん)は目を覚ました。重い瞼を開き、朝日に顔をしかめてから、テーブルの方へと視線を移す。
 テーブルの前には、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が立っていた。上質なメイド服をきっちりと着て、背筋を伸ばして、しゃんと。
「おはようございます、メニエス様」
 メニエスが起きたことに気付いたミストラルが、いつも通り、隙のない凛とした声で告げた。
「おはよう」
 ベッドから身を起こしながら、挨拶に答える。身を起こすまでに、ミストラルはベッドの傍に来ていた。手には銀のトレイがあり、トレイの上には白磁のティーカップが乗せられている。
「どうぞ」
 差し出されたカップを受け取って、一口含んだ。相変わらず、味も香りも文句なしに素晴らしい。
「朝食の準備が出来ています」
「そう。いただくわ」
 空のカップをトレイに戻し、ミストラルが支度を手伝ってくれるのを待った。さほど待つ必要はなく、すぐにミストラルはメニエスのシャツを用意しやって来た。
 シャツのボタンが一番上まで留められたので、ベッドから立ち上がる。テーブルへつくと、朝食が運ばれてきた。
 ナイフとフォークを手にし、オムレツを食べながらふと思う。
(そういえば、自分で料理したことないな)
 ミストラルと契約して以降、料理や家事は全て彼女に任せきりなのだ。家事だけじゃない。先ほどのように、着替えさえもミストラルに任せている。
 このことについて、ミストラルから見返りを求められたことはない。ゆえに気になった。どうして自分に付いてきてくれるのか、と。
 過去、疑問を口にしたことがある。するとミストラルは上品に微笑み、こう言った。
「わたくしはメニエス様を助けたいと思った。
 だから契約できて、今ここにいるのではないでしょうか」
 自分が仕える人を求めていた――ということなのだろうか?
 メニエスは、傍らに立つミストラルを見た。しかし涼しげな表情からは何を考えているかは読み取れない。逆に気持ちを読まれそうで、すぐに視線を外した。
 いつもこうして傍にいてくれて、頼もしい存在ではあるけれど。
(距離感は、変わらず一定なのよね)
 時が経ち、共に過ごし、考えてみればみるほど、そう思うのだ。
(こういうものなのかしら)
 諦めにも似た結論と共に、ナイフとフォークを並べて置いた。食事の終わりを告げる置き方に、ミストラルが黙ってトレイに食器を乗せる。
「では」
 一礼し、短く言ってミストラルは部屋から出て行った。メニエスもすぐに立ち上がり、書斎へと向かう。
 今日の予定は、特にない。
 何もない日は、魔道書を読むか、魔法を試すかして一日が過ぎていく。
 きっと今日も、そうなるのだろう。