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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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【メルメルがんばる!】老夫婦の小さな店を守ろう!

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「可哀そうに……こんなにボロボロになって」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はスキル<ディテクトエビル>でイコンのコックピットに見つけたヌイグルミに害意がないことを知った。
「ヌイグルミが、どうしてイコンに?」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ) は誰に呟くでもなく口を開いた。非不未予異無亡病は脚を進めながら答える。
「操縦してたんだと思います」
「操縦?こんなかわいらしいぬいぐるみが、この商店街を壊すために?」
「……違うと思う」
「え?」
「このぬいぐるみからはちっとも悪意を感じないから」
「ぬいぐるみにも意志なんてあるんですの?」
「人形には魂がこもるものです」
「稲妻の札!」
 破られたバリケードを越えてくる敵に電撃を喰らわせながら、ユーリカも歩を進める。
「とにかく、このままじゃこのぬいぐるみが可哀相です……お店のご主人に補修をしてもらいましょう」
 非不未予異無亡病は風馬 弾(ふうま・だん)らが、守っている老夫婦のもとへとたどり着く。
「あれ?」
 店舗の奥へと急いだユーリカは、素っ頓狂な声を上げる。
「どうしました?」
「風馬さん達がいない」
「どうしました?」
 老婦人が声を掛ける。
「風馬さん達は?」
「彼らなら、バリケードが破られたと言って、外に出て行きましたが」
 ご主人が答える。
「そうですか……」
 風馬さん達が持ち場を離れるだなんて……怪訝に思いながらも非不未予異無亡病は、抱えていたヌイグルミを老夫婦に差し出し、
「このヌイグルミなんですが……」
 と、非不未予異無亡病は抱えていたヌイグルミに強い力を感じ、思わず手を離してしまう。
「え?」
 床に落下したヌイグルミは、磁力を帯びたように、もう一体のヌイグルミに引き寄せられ、床を滑るようにして移動し、クマのヌイグルミにぴたりと寄り添った。
「今の……なんですの?」
 ユーリカは目を見開いて、非不未予異無亡病を見上げる。
「このヌイグルミ……?」
 ボロボロのヌイグルミが引き寄せられたのは、メルメルが購入したクマのヌイグルミであった。
 と、突然、非不未予異無亡病は部屋にみなぎる害意を肌で感じ取り、脊髄反射の速度でユーリカを抱え上げて、大きく退いた。
「ど、どうしたんですの?」
「……アレを見てください」
「アレ?」
 非不未予異無亡病はゆっくりと指先を上げ、一点を指し示した。そこには3体のヌイグルミが転がっている。
「アレって?」
「見覚えがないですか?」
「え?」
「風馬さんと、ノエルさんと、榊さんに、似てると思いませんか?」
「……あ、そう言えば」
 ユーリカの顔から血の気が引いていく。
「そしておそらくあの、銀髪のヌイグルミは……」
 もう一体のプラチナブロンドのヌイグルミを指し示す
「メルメルさんです」
 そう言い放った瞬間、主人は表情一つ変えないまま、二人に向けて呪文を唱え始めた。
「どういうことですの?!」
 ユーリカが叫んだ瞬間、店舗の天窓を破り、香 ローザ(じえん・ろーざ)がガラス片と共に毛足の長いじゅうたんに着地する。
「失礼します!」
 振りかえった呪文の主との距離を一気に詰め、首筋に手刀を喰らわせる。
「!」
 とさっ、っと崩れ落ちる店舗主人を小さな肩で抱え、香はゆっくりと床に下ろした。
「ヘリュ!」
 相棒の賢狼を呼ぶ香の声は、いささか、悲しそうに聞こえた。
「これでよかったの?」
 いつの間にか、ガラス片にまみれた絨毯にたたずんでいる賢狼はコクリと頷いた。
「君達は?」


「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!ククク、蛮族どもよ、そのキマク商店街征服活動に、我らオリュンポスも協力しようではないか!」
 街宣車に立ち、キマク商店街に演説を売って出ているのはドクター・ハデス(どくたー・はです)である。どうやら、自らの悪の哲学の流布に勤しんでいるらしい。
「よいか!まず、お前たちのやり方は悪として美しくない!破壊活動は、正義のヒーローをおびき出すためだけに行ない、目的はあくまで商店街の征服に絞るべきだ!」
 破壊活動に勤しんでいる蛮族にスピーカーを向ける度に、ハデスに向かって投石が行われるが、その投石を一つ一つ粉々に打ち砕いているのがパートナーの奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)である。【鬼神力】【オーダリーアウェイク】で角の生えた姿になったあと【平家の籠手】による二刀流の【疾風突き】で刀を振るっている。
「めんどくさいのう」
 最初こそ、角をいちいち元に戻していたが、投石の数が思いのほか多かったのか、すぐに奇稲田は、角を生やしたまま、鬼神のような姿で街宣車の窓から半身を出して箱乗りしている。
「これじゃあ街宣車だか山車だかわからねーだろ!」
 と、奇稲田につっこみを入れるのはダーク・スカル(だーく・すかる)である。
「よって、契約者の排除を第一目標とし、必要以上の建物や住人への危害は加えないことだ!征服すべき街を破壊してしまっては、統治する対象がいなくなるからな!」
 もっともなことを言っているように聞こえるが、耳を貸す版族ではなかった。というか、この三人の立ち居振る舞いは普通に怖い。子供が指をさして鳴いているのは、ダークの骸骨姿と奇稲田の鬼神の姿であるし、途中から投石がなくなったのは、街宣車のいきついた先が、バリケードの前だからである。
「けけけっ!蛮族どもよ、この俺様が征服活動を手伝ってやるぜぇっ!さあ、このダークスカル様に続けっ!」
 ダークスカル様に続く者がいないのは、バリケードに近寄る敵をバッタバッタとなぎ倒す九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)のおかげである。
 九条も負けじとリングサイドのマイクを握り、マイクにかじりつくようにして大声を張っている。
「よく聞けジャブローニども黙ってろざりぃぬ様に注目…何か言ったか?身の程を知れ、そして黙れ!」
 いつバリケードの外がリングになったのかは九条から後で聞けばいいのであるし、聞いたところで九条の世界は九条のものなのだから、どう答えようが九条にお任せするのだが、一言だけ言わせておけるのであれば、ハデスと九条のマイクロフォン対決は、近所迷惑そのものであり、せっかくの休日に惰眠をむさぼろうとしている最中、選挙活動のために午前8:00ぴったりにスピーカーから発せられるウグイス嬢の「××でございます!××をよろしくお願いいたします!」アナウンスくらいに耳に痛いんですよコノヤローーー!
「貴様ら一人一人スマックダウンホテルにぶちこんで……!ケツを四つにかち割られる覚悟はできたかぁぁぁ?!」
 リングに敵が上るたびにマイクを放ち、プロレス技を決めまくる九条。
「ろざりぃぬ様の妙技を、たっぷりと味わうが良い!」
 ハデスはその光景を見ながら、次々と刺客をリングへと向かわせている
「九条ぉおおお!今まで俺が送りこんできた刺客を随分と可愛がってくれたようだなぁ!!次に送りこむのは@@@@@@@@@@!@@@@@@@@@@!」
 がなりすぎて、スピーカーが壊れているらしい。ハデスが全然何いってんのかわからない。
「武器なんぞ使ってんじゃねえ!フ○ック!!痛くねーんだよ!(【痛みを知らぬ我が躯】【リジェネレーション】)」
 ハデスが送りこんでいる(送り込まれている敵も何が何だかわからないままリングに立ち、何が何だかわからないまま九条の技の餌食になっている)刺客相手一人一人にソバットを食らわせた後にシャープシューター(サソリ固め)で痛め付けている。
「さあ、ハデス殿に触れたくば、わらわを倒してみるのじゃな!」
 ハデス様に触れたい者はいるわけもないので、奇稲田は相変わらず、鬼神のような表情で観客席から投げられる石を、粉々に打ち砕いている。時折ハデス様に白いタオルが投げられるが、
「ハデス様はギブアップなどしない!」
 と、ボクシングのルールを持ち出しながら白いタオルを疾風突で撃ち落とす。
 一方、いつの間にかリングに上る羽目になっているダークスカル!
「その程度で、俺様達を止められると思うなよっ!」
 急きょこしらえた覆面をしているが、サランラップで出来ているので、あまり意味がない、それどころか呼吸しにくくて悶絶しているダークスカル!
「蛮族の頭には特別にマジカル☆ピープルズエルボーをサービスしてやんよ」
「わらわが解説しよう」
 鬼神の姿にも飽きた奇稲田が、解説者席のマイクを握り、九条の技の解説を始めた!
「おおっと!ここで魔法少女ろざりぃぬ(九条のこと)ロックボトムでダークスカルを仰向けに倒した。倒れこんだダークスカルの頭をふんづけて!自らのマントをはいだ!腕をふり、ダークスカルを飛び越えながら……リングロープを大きくたゆませるように……左右に一往復!ダークの横に静止!片足を上げながらエルボードロップ決まったああ!」
 カン!カン!カン!とゴングが鳴り響いた!
  
「いい加減にしやがれ」
猫井 又吉(ねこい・またきち)が黒塗りの高級車で、マイク合戦をしていた4人を躊躇なくはねた。
 ドーン!
 きらーーーん! 
 どっがーん!ばごーん!
 
 遠くで、何かが爆ぜる音がした。おかげさまで、やっと、あたりに静寂が訪れる。
「悪い夢でも見てるのかと思ったぜ」
 猫井は黒塗りの高級車から出るが、バンパーは大きくへこんでいる。
「ああ。あんまりやかましいから、ついはねてしまったが……バンパーが……凹んでいる」
 グスンと鼻をすする猫井であったが、すぐに険しい顔をして「不殺刀」を使った「抜刀術」で襲いかかる敵を切り倒した。
「九条があんだけ倒したってのに、うじゃうじゃ湧いてきやがる」
 猫井の言うとおり、九条の世界観で敵の多くはリングに散って行ったはずである。にしても、生き残りはまだ数多くいるようだ。
「誰の指図でこんな事してるのか知らねーが、舐めた事してくれるじゃねーか。暫く動けなくしてやるから覚悟しろ」
 猫井はどすの利いた声で睨みを聞かせる。が、敵の人数は10人を下らない。じりじりと距離を詰める蛮族の足元に注意を向けながら猫井は不殺刀を上段に構えた。
 ♪♪♪
 と、けたたましい音楽と共に一気に10人の蛮族をキャタピラーが轢いてぺしゃんこにしていく。ついでに猫井も轢かれ、
「あが?」
 咄嗟に横っ跳びで難を避ける猫井。
「何だこりゃ!」
 ソレを見上げた猫井は顎が外れてしまったかのような表情をしている。
 目の前には【黄金の機晶戦車】がきゅらきゅらと機動音を上げている。マネキ・ング(まねき・んぐ)の乗る無駄に豪華な戦車である。
「蛮族どもが我の邪魔をするか……いいだろう逆らったものは降伏すら許さん!!」
 雄たけびを上げるマネキ。
「同じ猫の形をした者として一言言わせてもらっていいか?」
 猫井は呟いた。
「なんじゃ?」
「突拍子もない登場の仕方するんじゃねーボケー!」
「猫はハンターぞ。攻撃されたと知られぬうちに攻撃をすませる。基本じゃ」
「俺まで引こうとしたろ!?」
「……案ずるな……見かけは少々派手だが弾頭は【トリモチ】にすげ変えてある」
「意味がわからん!」
「殺さずの精神。分かち合えようぞ」
 トリモチを発射するマネキ。粘着性のトリモチなだけに、発射口はべっちゃべちゃである。
「ヤレヤレ」
 と口にする猫井はその発射口にひらひらと舞うピンクの一筋を見つけた。
「何だこれ?」
 猫井は発射口に飛び乗る
「土足厳禁じゃぞ」
「うるさい」
 猫井はピンクの一筋に手を伸ばし、引っ張った。
「おーい!マネキ勝手にどこかに行くなってばー!」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が駆けてくる。
「我を守るのはセリスの仕事であろう。今すぐこの猫に似た生物を戦車から下ろすのじゃ」
「あ?」
「お前これが何か分かってるのか?」
 猫井はマネキを睨みつけるように聞いてみる
「ほう…我を狙う者が、いるか……おしいな!さあもう一度突いてみるがいい!」
「こいつ殴っていい?」
 猫井は額に血管を浮かび上がらせながらセリスに顔を向けた。
「……思う存分殴ってほしい。そして意味不明な行動をとるマネキのために俺がどれほど苦労しているのかわからせたやってほしい。さっきだってそうだ。調子に乗って、某世紀末救世主伝説の聖帝様ごっこがしたかっただけなのだろうが、その間に俺は何十人もの蛮族を倒して、その揚げく空から降ってきた女子プロレスラーやらドクターなんとかやらの下敷きになって死ぬ思いをくぐり抜けてここにたどり着いたのに、たどり着くや否や、我を守るのは俺の仕事だって、キリっとしやがって、ほんとうにもう割れてしまえばいいんだ」
「愚痴がなげーよ!」
 猫井が叫ぶ。
「いいから、これを届けに行くぞ」
 猫井はセリスに呟く。猫井が手にしたのはピンクのリボン。風をたゆ立って、ここに張り付いた、メルメルのリボンだった。
「そうはさせるか!」
 どこから現れたのか?蛮族が3人を虜込み始めた。
「後から後からぞろぞろと」
 セリスが呆れたように呟く。
「加勢しよう」
 蛮族を蹴散らして、現れたのはイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)である。
「いや、ここは俺たちに任せてくれ……それよりこれを」
 と猫井はメルメルのリボンをイグナに手渡した。
「あ。可愛いリボン」
 アルティアが声を上げた。
「これってもしかして」
「メルメルに渡してやってくれ」
 隣ではマネキがトリモチ砲を乱射している。
「承知した」
 イグナはリボンを小さくまとめて懐にしまい込んだ。
「アルティア。いくぞ」
 イグナはアルティアの手を握り、一気に加速する。
「バーストダッシュ!」
 目にもとまらぬ速度で、一気に蛮族の群れをかいくぐる。
「待ちやがれ!」
 蛮族があとを追うが、そこに立ちはだかったのはセリスである。
「こちとら、マネキの暴走でむしゃくしゃしてるんだ!いつもより多めに痛めつけてやるから覚悟しろよ!」
 
 *
「この方たちどこからわいてくるんでしょう?」
久遠・古鉄(くおん・こてつ)はバリケード内からドワーフの火炎放射器で敵を炙りつつ、六連ミサイルポッドで攻撃している。白銀 風花(しろがね・ふうか)も敵の攻撃をスキル弾幕援護でことごとく撃ち落としている。
「とにかくこのお店には指一本触れさせませんわ」
 白銀の身につけたわたげうさぎは、長い防衛戦のせいか心なしかくすんでいる。
「リカバリーシステム起動。治療いたします」
 時折、久遠は防衛戦に加わっている仲間の治療も欠かさない。
「わりいな!」
 馬車馬のようにバリケードの修復に精を出すテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は肩口を貫いた銃痕の治療に礼を言った。
「いえ。バリケードの補修をしていただいているのですから、体の補修は私に任せてください」
バリケードを越えてくる輩を打ち倒す。バリケード内で負傷したものを治療する。機械的な作業ではあるが、一言も文句を言うことなく働く久遠の行動に魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
は感心した様子で頷いていた。
「うむ。長引く戦闘で皆少なからず負傷している現状。治療の術を知っている彼女がいてくれて助かります」
 大刀を振るって襲ってくる蛮族を竹槍で突きながら魯粛はバリケードにうずたかく蛮族の山を築きあげていた。