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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 “フリューゲル”に押され気味だったトリグラフが遂に押し切られようとかというまさにその瞬間。
 不意に“フリューゲル”はトリグラフから光刃を離し、後退して距離を取った。
 その直後、“フリューゲル”がいた場所をビームの銃撃が通り過ぎていく。
『二世代器、量産型のカスタム機とはいえ、悪い性能ではないと思うんですけどね……シュヴェルツェは』
 はっとなって“フリューゲル”が振り返ると、その先には銃剣付きビームアサルトライフルを向けているシュヴェルツェ シュヴェルトの姿がある。
『またアンタか、えぇ? シュヴェルツェなんたらァ!』
 前回の因縁を思い出したのか、“フリューゲル”は激昂したような声を上げながらシュヴェルツェ シュヴェルトに向かっていく。
 “フリューゲル”は動き出したその瞬間にトップスピードへと到達し、まるで瞬間移動のような超高速移動で一気に距離を詰め、シュヴェルツェ シュヴェルトに大出力の光刃を叩きつける。
『“鳥”さんに会えるとは。これは迅竜に乗ってきて正解でしたね――!』
 シュヴェルツェ シュヴェルトは推進力を全開にし、かろうじて光刃を避ける。
 ただ避けただけに留まらず、シュヴェルツェ シュヴェルトはビームアサルトライフルの銃剣を振るい、超高速のイコン剣技を繰り出す。
『遅ぇってんだよ! シュヴェルツェなんたらァ!』
 だが、“フリューゲル”はまたも一瞬でトップスピードに達しての『瞬間移動』でシュヴェルツェ シュヴェルトの背後に回り込む。
 そのまま“フリューゲル”は、ビームアサルトライフルを握るシュヴェルツェ シュヴェルトの腕を掴み、攻撃を押さえ込んだ。
 力比べにもつれ込む両機。
 その時、シュヴェルツェ シュヴェルトは遮蔽効果が高まって発見されにくくなる代わりに機体の出力が下がった状態へと変化し始める。
 しかし、既に超至近距離で掴まれている状態では、発見されにくくなるもなにもあったものではない。
『まぁ、これぐらいはハンデですよ』
 接触回線を通し、余裕の声音で言うのはシュヴェルツェ シュヴェルトのメインパイロットの鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)だ。
『まさかワザと……ナメやがって……!』
 “鳥”が感情を乱した隙を逃さず、今度は貴仁のサブパイロットである鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)が語りかける。
「“鳥”さんの動きとか見てると誰かを探してるみたいだね? 前回、ファスキナートルに痛い目に合わされてたし、ジナイーダさんを探してるのかな?

 返事がないのも構わずに、黒羽は更にまくしたてていく。
「わるいね、この後、ジナイーダさんとデートするんだよ」
 PiPiPi!
 黒羽がそうまくし立てた直後、互いのコクピットで鳴り響いた接近警報が通信を介して唱和する。
 シュヴェルツェ シュヴェルトと“フリューゲル”が同時に振り返ると、二機のイコンが突っ込んでくる所だ。
 一機は、愛機が修理と調整の最中である神条 和麻(しんじょう・かずま)が代替機として乗ってきたプラヴァー。
 そしてもう一機は蒼いカラーリングの高機動タイプの機体――ファスキナートル
 即ち、ジナイーダ・バラーノワこと富永 佐那(とみなが・さな)の愛機である。
『お待たせ。вороначка(ヴォロナーチカ)――焦らしてしまったけど……一曲お相手願える?』
 通信帯域に流れ込んでくる佐那の声を聞き、“鳥”は上機嫌な声をあげる。
『ジーナ! 会いたかったぜ!』
 “フリューゲル”はシュヴェルツェ シュヴェルトを離すと、一直線にファスキナートルへと向かっていく。
『で、だ――早速で悪いんだが、ヴォロナーチカって何のことだ?』
『――鴉クン、という意味よ。“フォーゲル”は鳥全般を指すし、黒いから勝手に鴉クンって呼ばせてもらったの』
 すると“鳥”は声をたてて笑う。
『ハッ! コイツぁいい。それじゃ、早速、この前の続きといこうぜ! ジーナ!』
 今回、佐那は魔道レーダーの魔力回路に風術で風の力を込め、風や気流の流れを詠むセンサーとして応用していた。
 どんなに強い敵でも、どんなに素早い敵でも攻撃に移行する瞬間は同じ。
 それまでとは異なる攻撃をする為のアクションを取らねばならない為、僅かでも攻撃への動作を取れば、センサーの感知する風はその流れに生じた乱れを逃さない。
 これに数々の戦いの中で培った殺気を看破する勘も加え、敵の攻撃を事前にある程度、予測を立てつつ佐那は操縦桿を切った。
 一瞬でトップスピードに到達後、一気に超至近距離まで肉迫してくる“フリューゲル”が振り下ろす光刃に対し、ファスキナートルは推力偏向装置を使った凧の様な推力偏向『Jターン』で光刃を躱し続ける。
『やるじゃねえか! ジーナ!』
『ありがと。でも、まだこんなものじゃないわ』
 言葉を交わしつつ、激しいマニューバ勝負を繰り広げる二機、そこにプラヴァーが割り込んでいく。
 プラヴァーに乗る和麻は自分に言い聞かせるように、胸中に呟いた。
(ツァンダの時では”烏(フォーゲル)”と名乗った漆黒の”フリューゲル”に撃墜された。天学で訓練しているとはいえ、俺は感覚だけで戦っていた。それで戦い続けられる訳がないって分かっていた筈だ、だから俺はマニューバを頭に叩き込んだ)
 エース級の腕前を持つ佐那程のスピードもないが、付け焼刃の空戦機動でもなんとか和麻は“フリューゲル”のスピードに食らいつく。
(俺にはエースパイロットと呼べるの人達程の実力も経験もない。俺にあるのは何かを守りたいという意志だけだ)
 そしてプラヴァーは、ファスキナートルの攻撃を避けた瞬間の“フリューゲル”を捉えることに成功する。
『限界を超えろッ!』
 自分を叱咤するように和麻が雄叫びを上げると、プラヴァーは剣を“フリューゲル”に叩きつけた。
『なッ!?』
 咄嗟に回避行動を取ったものの、プラヴァーの剣は“フリューゲル”の左腕部に直撃し、切断寸前まで装甲を削り取っていく。
『どいてろッ!』
 すぐに振り返った“フリューゲル”は光刃を一閃し、プラヴァーを斬り払った。
 幸い、コクピットやエンジンに重篤なダメージが入らなかったおかげで、プラヴァーはゆっくりと落下し、不時着していく。
 そして、プラヴァーを切り払った僅かな隙をファスキナートルは逃さなかった。
 佐那はここにきて一気に奥の手を出す。
 ファスキナートルはフランカー戦闘機の御家芸ベクタード・スラスト――とある偉大なるパイロットが行ったという有名なマニューバである『プガチョフ・コブラ』をしつつ機首を90度まで引き起こした。
『今回はプガチョフ・コブラか! やってくれるぜ、ジーナ!』
 更にそこから嵐を起こす術を発動。
 それにより生じる竜巻に敵を巻込み跳ね上げつつ、自らもその爆発的エネルギーに乗り急上昇したファスキナートルは“フリューゲル”の上を取ると同時に変形する。
 間髪入れずファスキナートルは太陽を背に大型超高周波ブレードを一閃。
 太陽光の直射という相手にとっての好条件がありながらも、“フリューゲル”は凄まじい反応速度で大型超高周波ブレードの斬撃を回避する。
『ッとぉ! なかなかやるじゃねえか! けどよ――』
 だが、佐那にはこれが避けられる事は折込み済みだった。
『Но на самом деле(でも現実はね)――』
 冷静に告げながら、佐那は操縦桿を倒した。
『Легко сказать,чем сделать(言う程には簡単じゃないのよ)』
 佐那がそう告げると同時、ファスキナートルは間髪入れず爪先を繰り出した。
『「そのдоля(ドーリャ)、今こそ清算の刻です。амин……」』
 ファスキナートルが奥の手を叩き込むのに合わせ、サブパイロットのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)も静かに告げる。
 爪先に仕込まれた新式ダブルビームサーベル。
 それを超高速のイコン剣技であるファイナルイコンソードの要領で振り抜く必殺の回し蹴り。
 ――それこそが、佐那の用意していた真の奥の手だ。
『ンだとォ!?』
 驚愕に声を震わせながらも“フリューゲル”は反撃の光刃を振り抜く。
 両機の光刃が交錯した直後、宙を舞っていたのは、“フリューゲル”の左腕とファスキナートルの右脚だった。
『こっちは前回と同じく腕一本、対するそっちは前回とは違って脚一本で済むとはな――随分とやってくれるじゃねえか、ジーナ』
 どこか楽しそうにそう告げると、“フリューゲル”は撤退に全力を注ぎこみ、その場を離脱していった。