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 とっぷりと陽が暮れて、空京島にも夜の帳が降りはじめていた。
 みんなとお別れの挨拶を済ませていたところに、ひと組の男女が現われた。
「イルミンの制服とは懐かしいなあ。みんなで合コンでも始めようってところか」
「い、いえ、そういう類いのものではありませんけど……」
 白砂 司(しらすな・つかさ)の問いかけに、リースはやや当惑気味の様子である。
「確かに引率が付いてる合コンなんて、空大じゃあ聞いたことないな」
「なんだてめえも俺様の同胞か。そこにいる渚ちゃんの一日体験入学が無事に終わるところだぜ」
「なるほどな」
 そう言った男は腕組をしてしばらく考え込んでいた。
「いや。空大の学園生活は、まだ終わってないんじゃないかな。まったくお前ら、肝心なことを教えずに彼女を家に帰すつもりなのか?」
「肝心なこと? なんだあそりゃあ。おい三鬼、心当たりあるか?」
「あ? 知らねえ……イコンとかは見せたのかよ」
「そういや、そんなのもあったか。まあ次回だなっ」
「司の言いたいことが、なんとなく分かりました」
 司と一緒にいた女子はサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)。彼のパートナーである。
「サクラコには分かるか。まあ、アレだな」
「……そうですね。必要かと言われたら、確かに禁じることはできませんね」
「もお、ちょっとハッキリしなさいよねっ。一体何なのかしら?」
 マーガレットの指摘に、司は答えを空かすことにした。
「よーし、みんなで飲み会にしようじゃないか。ハネの伸ばし方をキッチリ教えてやる」

▼△▼△▼△▼


 ラグエルを連れていたリースとマーガレットは、ここでみんなと別れることになった。渚は別れ際に、再会する約束を取り付けることができたのである。
 空京大学のキャンパスには、闇夜に輝く月光が降りそそいでいた。
 空大の外れにある学生寮のパーティルームにおいて、盛大な飲み会が開かれようとしていた。
「ホホッ……これはいただけない」
 開口一番、司主催の飲み会に注文を付けたのは老執事だった。
 テーブルに並べられたアルコールを含んだ飲食物を手にすると、アルコールの含まれないお酒っぽい飲み物に次々とすり替えていく」
「ちょっ!? おいおいジイさん。勘弁してくれよ。おれは20歳すぎてるんだけど」
「渚お嬢さまは、17才でございます。どうかひとつ、お察しくださいませ」
「いーじゃん別に、堅いこと言わなくってもさ。ホント、渚のジーさんって堅物だよねー。過保護すぎるじゃん」
「確か、魔威破魔さまや、浦安さまも、二十歳には今一歩、届いていらっしゃらないはずでしたな」
「ちっ……別にいいけどな俺は」
「そうそう。みんなで楽しく騒ぐのがいいんでしょう。そうでよね、司っ」
「まあ、そりゃそーだ。楽しくやろうぜ。みんな、グラスを持て。乾杯しよう」
「うわあ、みんなでパーティするなんて久しぶりかもっ」
 純粋な気持ちを打ち明けた渚に、みんなは同情を寄せざるを得なかった。
 司とサクラコが音頭を取って、グラスにジュースを注いで周っている。
「箱入りも大変だねえ。あたしパラ実でよかったあー」
「あははっ……」
「ホホッ……ご心配めさるな。お嬢さまが空大へ入った暁には、爺やもこちらへ付いては参れませぬゆえ。これからはお嬢さまが自らのご判断で行動なされませ」
「……爺や」
 渚は少々不安なそぶりを見せていたが、三二一を筆頭とした面々は大いに喜んでいる様子だ。
「それじゃみんな、グラスを持って準備してくださいね。みんな飲み物は揃ったかしら」
 ジュースがなみなみと注がれたグラスを一同が掲げ、司の音頭を待ちわびる。
「それじゃあ今晩は、渚さんの空大デビューを祝して……だなっ――」
「そうですね。ああ……私も空大に入り直したくなっちゃいます」
 そして老執事は、渚の側にグラスを持ち寄って、そっとささやきかける。
「ホホッ。お嬢さまの社交界デビューを祝して。親御様もきっと、お喜びになっておられるはずでしょう」
 渚は笑顔で老執事に応えた。
「――渚さん、お疲れさまーっ! カンパーイっ!!」

「「「「「「カンパーイッ!!!」」」」」」

 彼らの宴会は、夜を徹して盛り上がったのである。