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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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 ティル・ナ・ノーグ。それは鈿女のコンピュータにハーティオンから流されてきた言葉。
 鈿女はその言葉を薫とダリルに転送する。そしてそれは当然、ダリルの懐に潜入したヘルガイアのスパイ十六凪にも察知される。
(ティル・ナ・ノーグですか……ふむ……そこに目をつけましたか)
 十六凪は一人訳知り顔でほくそ笑む。
 
 殆どの敵を倒し、静かになったかに見えた戦場。だが、まだ終わってなどいなかった。
「転移反応あります!」
 国軍のオペレータがそう報告した途端、基地の上空に新たな機体が現れた。その機体は荷電粒子砲、ライフル、ミサイル、マシンガン……搭載されているすべての兵装をフルオープンにして基地への攻撃を始めた。
「いかん! 結界を!!」
 薫が魔術で結界を張るが、基地全体を覆うことはできない。基地内部の生命と研究施設と格納庫、それだけを守ることで精一杯だった。
 そして、膨大な料の弾幕とエネルギーが途切れ、煙と炎が立ち昇る中、結界に守られた人々は安全な場所を目指して移動を始めた。それ故、それを見ていたのは三船甲斐拠点移動ラボで難を逃れていたラボのメンバーだけだった。
「甲斐、ゴリ、エメラダ、国軍の人間をラボに収容せい。人的被害はおそらく出とらんはずじゃ……」
 薫の指示を受け、甲斐と剛利とエメラダは基地内部にいた者達の避難誘導を始めた。
 そして、そんな中で突如襲ってきた機体は空中で静止していた。
「女狐よりヘルガイアへ。ゴミの焼却は終わったぜ」
 当然その通信はダリルが傍受している。
「声門パターンを解析……これは!」
 そう、それは以前の戦闘で行方不明になっていた元勇者柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)のものと一致した。
「つまんないね相棒、まさかここまで弱いだなんてさぁ」
「そうだな、馬 岱(ば・たい)
 恭也がそう答えたのは、ヘルガイアの一員で恭也の監視役として付いている女性武将だった。恭也は前回撃破された後にヘルガイアに回収され、洗脳されてヘルガイアの一員として戦闘に加わっていた。
「勇者だ? 俺はただの傭兵、そんなつまんねぇ奴しらねぇよ」
 ただ、元勇者のせいか耐性があるからなのか中途半端な洗脳になっており、自身をヘルガイアに雇われた傭兵と思い込んでいた。
「そう、ここにいるのはヘルガイアに雇われた怖い傭兵、勇者なんてもういないんだよ」
 だから馬もそれに同意する。
「さて、撤収するか……」
 そう言って恭也が機体を動かそうとしたその時、何もない空間から突如として荷電粒子砲が飛んできた。
「クッ!」
 緊急回避をする恭也。
「何奴!」
 だが、相手は答えない。
「ベリアル、すべてを蹴散らすのです」
 コクピットに乗っている魔王 ベリアル(まおう・べりある)に声をかけたのは転校生の中願寺 綾瀬その人であった。
 そしてベリアルの乗機ディノブレイカーは敵も味方も存在しないかのように、恭也にも、勇者にも、国軍にも荷電粒子砲を撃ち込んだ。
 突然の第三勢力の出現に誰も身動きが取れず、ただ、防御するしかなかった。
 だが、突然恐竜に似たその機体は大きく衝撃を受けて吹き飛ばされる。
「痛いじゃないか……誰だよ!」
 ベリアルの言葉に応えたのは、一見するとただの生身の人間に見えた。
 そして国軍の人間には、鳴神 裁(なるかみ・さい)のように見えた。だが、彼女は瞳が赤く、髪の色が銀色だった。
「我は灰色の魔王。アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)。世界のため、バランスを保つ……」
 そう宣言すると、ディノブレイカーに襲いかかった。
 荷電粒子砲を数歩動いただけで回避し、一階建ての建物に飛び乗る。そしてサンダービームを二階建ての建物に飛び移って避ける。そしてさらに跳躍してディノブレイカーの頭部に蹴りを叩きこんで転倒させる。
 起き上がったディノブレイカーの爪をバックステップで躱し、噛まれそうになったら逆に口の中に飛び込んでアッパーを撃ちこむ。
 サイズもパワーも上であるはずのディノブレイカーが生身の人間に翻弄されていた。
「どうなっているの……」
 綾瀬は我知らず冷や汗をかく。
「わからないけど、これ以上相手にするのはやばそうだよ!」
 ベリアルがそう言って苦し紛れにはなった荷電粒子砲が、民家を直撃しようとしたその瞬間、2機の天使型の機体が割り込んでそのビームを弾いた。
「何をしているの!?」
 その機体の中で、アルジェンシアが恵に詰問する。
「これでも、国軍の人間だから、ね……」
「どういうことなの!?」
 驚くアルジェンシアに、恵はサングラスを外してみせる。
「つまり、恵に打った注射はただの栄養剤だったってことさ」
 そして接触回線の通信から、下川忍がそう告げる。
「未来予知のためのデスティニーシステムが告げた未来を避けるべく、こうして動いているのですよ」
 そしてその回線越しにそう告げたのはサビク・プロトスコープ(さびく・ぷろとすこーぷ)。ザビクこそが未来予知システムそのものであった。
「騙したのね!?」
「まあ、そういうことになるかな……さて、忍はそろそろヘルガイアに戻ったほうがいい。これから攻撃をするよ?」
「任務了解」
 そして、恵の天使型の機体デスティニーゼロは忍の天使型の機体ジェネシスセンチネルに一方的な猛攻を加える。だが、それは実際には攻撃が入っておらず、機体には大したダメージを与えていない。
 それは劇場型格闘技、すなわち派手な戦いを演出することによって観客を興奮させるタイプのイベント的な格闘技で行われている技術で、攻撃は派手に見えながらも実際にはパフォーマンスに終始しているという、それと同じようなことをロボットで行なっているのだった。
 そして、忍は恵が撃ったダブルスレイヤーライフルにわざと被弾し、そのままヘルガイアに繋がるゲートをくぐって撤退した。
 その一方でディノブレイカーと恭也の機体は撤退し、裁は行動を停止した。
「くっ……肉体を酷使しすぎたか……支配が、解ける!!」
 裁は苦しそうにそう叫んでから
「勇者たち、ティル・ナ・ノーグへ行きなさい……」
 と静かに告げた。一瞬、瞳の色が青、髪の色が黒に変わったようであった。
 そして、そのまま彼女は明らかにその魔王の力で、何処かへと消えた。
 ヘルガイア本土
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は開いてしまったゲートを見ながら、呆れたようにため息を吐いた。
「あの招き猫……まだ時が足りないというのに……余計な事を……」
 そして、ゲートを閉じようと試みるが、何故か閉まらなかった。
「まさか、あの勇者が?」
 光とともに消え去ったハーティオンのことを脳裏で思い浮かべる。
「…………」
「おや、おかえりアーマード」
 と、いつの間にか戦場からいなくなっていたアーマードが、ようやく帰還したようであった。
「ネームレスは残念だったね。まあ、しばらくは奴らも攻めてこないだろう。あそこまで壊滅的なダメージをうけたんだからな……」
 そう言い残して、セリスは姿を消した。