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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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 屋上――
「さ、食べよう?」
 美羽はそう言うと、お弁当を広げる。
「ほら、このお弁当、ベアトリーチェが作ってくれたんだよ」
「おかず、交換しましょう?」
 そしてベアトリーチェの言葉に、リリーが涙ぐみながら頷く。
「……ありがとう」
 そして午後の授業が始まる。
 担当教師は紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。アシスタントにはエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がついている。
「おらおらおめーら、スパイだか失敗だかなんだか知らねーが、んな下らねー事ばっか気にしてんじゃねーぞ! そんなコトきにしている暇があったら勉強しろ。次のテストで80点以上取れないと追試にすんぞー?」
 唯斗のその言葉に生徒たちからブーイングが上がる。
「ということで、テスト対策の模擬テストを行う。なお、この模擬テストで70点以上とった生徒には、放課後唯斗のおごりで焼肉食べ放題じゃ」
「なっ!」
 エクスの突然の言葉に唯斗が抗議をするが、それは生徒たちの歓声でかき消されてしまった。
 郊外。とある名士の館――
 カシス・アルケケンジ(かしす・あるけけんじ)は陰鬱な表情で館をあとにする。
「……しかし、おかしいですわね。今までのつてで仕事の依頼を探してましたが……引っ越し中? しかも、同時期から一斉に……」
 軍やら政治やら経済やらの有力者が、ことごとく引越し、あるいは一時的に留守にしていた。
「たしかに、危険なこの街から逃げ出す、というのはありなのでしょうが……」
 そこまで言った時、ハンドバッグの中で流行歌が流れだした。これは、妹のフィサリス・アルケケンジ(ふぃさりす・あるけけんじ)から電話がかかってきた時にだけなる着メロだった。
「もしもし? ……うん。もうすぐ買えるわ。 トマト缶を買っていけばいいのね? わかった。それじゃあ……」
 カシスは電話を切ると、目についたスーパーに入っていった。
 ――翌日
 子どもたちの前に、新しい協力者がやってきた。勇者ロボット工学専攻の大学生の高天原御雷。だがその実、服装を変えメガネをコンタクトにしたヘルガイアの科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)その人であった。
「初めまして、大学でロボット工学の研究をおこなっている、高天原御雷です。
 勇者ロボットについては、祖父が色々研究していましたので、皆さんのお役に立てるのではないかと、ご協力させていただきにきました」
 いけしゃあしゃあとそう挨拶したハデスは、ついで言葉を発し、爆弾を投げ込む。
「ところで、皆さんの中にスパイがいるらしいですね。実際、ヘルガイアの連中に、内部情報が漏れているらしいですし。ですが、スパイは教師や国軍の人たちがきっとみつけてくれます! 学生の皆さんは、大人を信じて、戦いだけに専念してください!」
 その言葉を聞いて、リリーに視線が集中する。
「おいおい、大学生さんよ、あんまり子供たちの不安を煽らないでもらいたいんだがな?」
 唯斗がハデスにそう苦言を入れる。
「おっと、これは失礼……」
 ハデスは慇懃無礼に応じて、目頭に中指を押し当てた。
「……っと」
「どうした?」
 唯斗の疑問に
「いえ、なんでもありません」
 とハデスは答える。
 ハデスのこの動作はメガネを掛け慣れた人物がたまにコンタクトにした時にやりがちな行動なのだが、生憎と唯斗はメガネの経験がなかったので気が付かなかった。
「…………」
 そんなハデスを、同行したイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が不審げに睨んでいる。
「どうしました? アカーシ先生」
 唯斗が不審に思って尋ねるが、イーリャは「いえ……」と答えて曖昧なままにしておくだけだった。ちなみにイーリャは普段からメガネをかけている。
「いい? 君たち! スパイなんていないわ。誰かをスパイと疑った人は勇者でも厳しく処罰するわ。もちろん出撃も認めません。仲間を疑う人に背中は預けられませんからね。いいですね!」
 ざわつく生徒たち。
「いいですね!?」
 イーリャが再度大きな声で念を押す。
『はい!』
 と生徒たちが唱和する。
「ちっ……余計なことを……」
 ハデスが誰にも聞こえないように小さく呟いた。
 それを、目隠しをしているはずの綾瀬が見ていた。
(あの男……)
 綾瀬はハデス扮する大学生に疑念を抱く。
(とはいえ、私が何とかして差し上げる義理はないのですけれども……)
「さて、次は合同体育だから、みんな、急いで着替えてね。はい、更衣室まで駆け足」
 イーリャがそう言うと生徒たちは一斉に立ち上がって更衣室へと向かった。