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【若社長奮闘記】動物とゆる族とギフトと好敵手、の巻

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【若社長奮闘記】動物とゆる族とギフトと好敵手、の巻

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★第一話「もふもふもふもふもふもふも(略)」★


 本番前の控室には、人だけでなく多くの動物たちが思い思いに過ごしていた。
 控室へと案内された白波 理沙(しらなみ・りさ)チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が目を輝かせた。

ジヴォートが司会の動物番組ですって?
 これは是非、出演させていただくわ!
 小動物も大好きだけど可愛いゆる族も大好きよ♪』

 と、名乗りを上げた理沙は、自慢のパートナーピノ・クリス(ぴの・くりす)チョコ・クリス(ちょこ・くりす)とともにやってきていた。
「ウチのパートナーのピノなんて可愛い以外に何と言えば良いのかしら、このもふもふ具合が素晴らしいわ!
 でも、あっちの子も可愛い〜♪」
「理沙ちゃん、くすぐったいよ〜」
 理沙にもふられてピノがそう言うも、つぶらな瞳は嬉しさに輝いていた。いや、理沙だけではない。ちまちまと動く姿に周囲ももふらーたちの目も引き付けている。さらにはその人懐っこい性格も相まって、可愛さ倍増だ。
「ふふ。理沙さん、ピノさんのもふもふ感も捨てがたいですけど、チョコたんのオドオドした感じも愛らしいですわよ。あの守ってあげたくなるような所が可愛いのですわ」
「ふぇっ?」
 大勢がいることにおどおどしてチェルシーの頭にしがみついていたチョコは、突如自分の名前を呼ばれてびくりとした。
 うむ。たしかに可愛い。
「もっちろんよ! チョコも自慢のパートナーだわ」
「ありがとうでしゅ」
 パートナー間の絆を深めていると、「おはようございます」と言う声が聞こえた。理沙の耳が動く。その声は――。
 見上げた先にいたのは白い兎――空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)その人(?)だった。

「あ! 向こうにたいむちゃんが…っ!! たいむちゃーん♪」
「わーい♪ ピノも行くー!」
「わたくしたちも行きましょうか」
「うん。あたしたちも行くでしゅ。理沙しゃん、ピノおねえしゃん。待ってくだしゃいでしゅ」

 本番開始まで、たっぷりともふもふを堪能する理沙たちだった。


◆少年には刺激が強い。
「おまっな、なななっ」
 エリスジヴォートの楽屋を訪ねると、彼は顔を赤くして良く分からない言葉を口に出していた。
 というのも、エリスは今、体型がばっちりくっきりわかるパワードインナー姿なのだ。
 しばし慌てまくっていたジヴォートだが、良く分かっていないエリスに身につけていた上着をかけた。
「なんて格好してんだよ」
「? 良く分かりませんが、着ぐるみがまだ届いていませんので。以上」
「……はぁ」
 そんなやり取りをしていると、洋孝が完成した着ぐるみを持ってきた。
「対刃、対弾、対爆装甲を兼ねたパワードスーツ。旧世代型だけどヤクザ程度が使う拳銃や日本刀クラスなら防げるよ。バックパックも小学生が使用するランドセルをベースにデザインをカスタマイズ。
 ちなみにランドセルは元々軍用の革製背嚢が元となっていたりする。これ豆知識ね」
「へえ、そうなのか」
 見た目は愛らしいのに、高性能だ。
 エリスがその着ぐるみを纏う。
「ふう……いかがでしょうか? こういう着ぐるみは? 以上」
「うん。可愛いな」
 それからジヴォートへと向き直る。
「私も記憶がないのですよ」
「え?」
「何故記憶がないのか? それすらわからない。ですから似ているのですよ。私とあなたは」
「…………」
「では番組、頑張りましょう。以上」
 笑顔を浮かべてそう言ったエリスは、完全に着ぐるみを纏った。ジヴォートはしばし固まっていたが、
「ああ。そうだな。頑張ろうぜ」
 同じように笑顔を返した。


◆↓ここにいます!
「へえ、思っていた以上にたくさんの動物が出るんだな」
 シオン・グラード(しおん・ぐらーど)は、レン・カースロット(れん・かーすろっと)凛・グラード(りん・ぐらーど)西条 桃華(さいじょう・とうか)を連れてスタジオに見学へとやってきていた。普段あまり一緒にいてやれない分、今日は一緒に楽しもう。
 今彼らがいるのは動物たちの控室。本番前ではあるが、今もカメラは回っている。動物たちのいろんな表情を撮影するためだ。
 シオンは「そうそう」と動物豆知識を同行者に披露する。
「知っているか? パンダの鳴き声ってヒツジに似ているらし……あれ?」
 振り返った先には、誰もいなかった。

「あれ? シオンどこ行ったんだろう……う〜ん?」
 そう首をかしげて黄色の髪を揺らしたレンだったが、すぐに「ま、いっか」と動物たちに向き直る。
「シオンの気配が薄いのは気のせいだから気にするなって桃華が言ってたし、気にしないことにしておこうかな。
 きっと修行とかで何か失敗しちゃったのかもしれないし」
 え、何その修行。失敗したら影が薄くなるとか、怖い。
 しかし同じく凛も首をかしげていた。
「父さんに誘われてついてきたのはいいんですけども……動物が溢れるにつれてどこにいるんだかさっぱりわからなくなってしまった気がするのですが。
 どうしてですかね…最近父さんの影がやけに薄くなってるような」
 考え、最終的には「まぁ、見当たらないのは仕方がありませんね。今はお母さんと動物との触れ合いを楽しむとしましょう」という結論になった。
「爬虫類とかはいないといいなぁ……ドラゴンとかは大丈夫なんだけど……あ、可愛いわんこだ! 凛ちゃんこっちこっち−!」
 苦手な爬虫類に会わないようにとおどおどしていたレンだったが、豆柴犬(「ご主人さま。この科学の犬、優秀なハイテク忍犬の僕に任せて下さい!」と胸を張っている)を見つけて歓声を上げた。
「お母さん……動物は頭から撫でるんじゃなくて顎から撫でたほうがいいんですよ、
 頭の上にいきなり手を出したら大抵は怯えてしまいます」
「おびっ怯えてなんかいませんよ」
「怯えてないんだって」
「……他の子にする時は下からの方がいいですよ。ほら、この子とか」
「ホントだ怯えちゃった。ごめんね……きゃっ」
「ふふ。許してくれたみたいですね」
 しゃがみこんで教えた通りに動物を撫でていくレンを見て、凛は穏やかに笑った。凛のいた未来では、こうして親子で動物と触れ合うことなどできなかったから。

「子が未来からの来訪者で母親はまだ結婚すらしてないとはいえ、母娘のやり取りは見ていて和むものだねぇ」
 さすがに茶々いれる気にはならないね。
 桃華はレンたちを見てそう笑い、それにしてもと周囲を見回した。
「で、私たちをここに誘った張本人であるシオン君は……いるかわからない程に気配がないのはなぜだろうねぇ。
 もう彼は朧の衣が無くても影が薄いままなきがするよ」
 実はこの時シオンは桃華の斜め後ろにいるのだが、まったく気付かれない。
 どころか
「いてっ」
 聴覚や嗅覚が鋭い動物たちにすらあまり意識されず、ぶつかりまくっていた。……誰か、彼に巨大な看板でも渡してあげてください。

 桃華もシオンのことを考えるのはすぐにやめ、自分も動物と戯れようと笑顔で手を伸ばす。
「……おや? なぜ逃げるんだい? おかしいなぁ」
 近くにいたウサギに逃げられる。何度やっても駄目なので他の動物にも手を伸ばすが、逃げられる。
「虎にまで逃げられるんだが……何かの血の匂いでもついてたっけ、服に」
 檻に入った虎に近づけば、檻の端に逃げる虎。
 いや、あの……アボミネーション(おぞましい気配を発するようになる)が発動してますよ?

「ええい、面倒だ……どこぞの怪盗三世宜しく飛び込んでしまおう」
 宣言と同時にダイブした。

 見事な再現率のダイブだった。


◆もふもふしたいんです!
「やっほー、ジヴォート君」
「こんにちは」
「おお、来てくれたのか」
 動物たちの様子を見に来たジヴォートへ声をかけたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だ。
「社長就任おめでとうございます。スーツ、お似合いですよ」
「うん、おめでとう!」
「ありがとう」
 照れくさそうに笑いながら、2人の祝辞を受け取る。
「ジヴォートさん、そろそろリハーサルなので準備を」
「分かった。じゃあ悪いけど、またあとで」
「頑張ってね!」
 声援を受けながらスタッフに呼ばれたジヴォートは控室を出ていく。

 その際、近寄ってきた動物たちを優しく撫でていたのを見た猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が、首を縦に振る。
「なるほどな。あんな感じで撫でればいいんだな」
 戦いばかりだったので、たまにはのんびり過ごそうと今回の話に乗った勇平。動物たちへ手を伸ばす。
 逃げられた。しかもしなり怯えた様子で。
 「な、なんで……?」
 
 おそらく、だが。
 勇平の中に眠る龍の存在が原因だろう。見ただけでは分からなくとも、動物たちは本能で察知したのだ。

 体育座りして落ち込む勇平の肩を、ギフトのオーダーと龍のヴォンヌがぽむぽむと叩いて慰める。
 そんな勇平の後ろ姿を見ていたウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)は「勇平君と二人きりでないのは残念ですが」と呟いた後、
「最近は戦いばかりでしたものね。たまにはこういうのもいいでしょう」
 微笑んでゆっくりと息を吐きだした。その時、ちょうど勇平も立ち上がった。

「……こうなったら意地でももふもふしてやる!」
 と、動物たちと追いかけっこを始める勇平。本人は必死だが、鬼のような形相で追いかけては逆効果な気も。動物たちが雲の子を散らすように逃げていく。
 ウイシアは勇平の背をちらと見てから、足元で震える兎へ優しく手を伸ばす。
 
「私も久しぶりの休暇思いっきり楽しまなければなりませんわね」
 そっと、優しく、穏やかに。
 柔らかい毛並みを撫でていると、兎もいつしか震えを止めてウイシアに身をゆだねる。兎を見つめるウイシアの瞳は温かで、胸に飛び込んできた兎を笑顔で受け止める姿は美しい。
 ……もしも勇平に余裕があったのならば、そんなウイシアに見とれていたかもしれない。……今は決死の鬼ごっこ中なので無理だが。

「もふらせろー!」
「にゃー」
「みー!」
「わんわんお」

 騒がしい鬼ごっことは無縁に動物たちとの触れ合いを静かに行っている者もいた。勇平のもう1人の同行者、ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)である。
 ウルスラグナは控室の隅にただ座っているだけだった。動物たちへ声をかけることも、手を伸ばして触れることも、追いかけることもしていない。
 だというのに彼の周りには動物たちが集まっていた。小鳥やリスといった小型の動物から、馬やゾウなどと言った大きな動物まで、彼の傍に座り込み、同じ時間を共有していた。
 時折ウルスラグナや動物たちの表情が微かに変わるのを見ると、目に見えない。耳にも聞こえない。不思議な会話をしているかのようだった。
 その周辺だけ、他とは別の時間が流れていた。

 もっとも

「うおーっもふらせろー! いや、その、もふらせて。マジで」

 すぐ近くでは決死の追いかけっこが行われているわけだが。