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雪の女王と癒しの葉

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雪の女王と癒しの葉

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第一章 白い闇の中で
「孤児院の為にもツァンダの街の人達の為にも、そして精霊の為にも、止めてみせる!」
 白い雪が乱舞する、数メートル先さえ見えない中。
 イコン・バロウズのコックピット内で夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は吼えた。
 被害は出させないのは勿論だ。
 だが、精霊との和解目的で山に入った者もいる現状、余計な禍根も残したくなかった。
 故に何としても止めねばならない、被害ゼロで。
 それが甚五郎の決意だった。
「とはいえ、結構、位置取りが難しいですね」
 そんなパートナーの胸の内を推し量りつつ、周囲の状況を把握したホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は少しだけ考えるように告げた。
「ほんと近づき過ぎてもダメですし……下手に雪原に踏み込むよりも、爆撃形態に変形して横向きで防波堤代わりに雪崩を受け止めるぐらいですかね?」
「だが、あの規模になってしまえば、いかにバロウズとはいえ完全に止められるか」
 決意は熱いがそこは年の功か、冷静さを失わないまま甚五郎はやんわりと却下した。
 バロウズは人型イコンとしては確かにデカい。
 それでも、あの規模になってしまえば、体当たりで止めるのは難しいだろう。
 そして失敗は決して、許されないのだ。
「二連機砲の単発射撃で狙ってみるのもアリですけど・・威力はもちろんセーブしなきゃですし・・どーしましょう?」
「雪崩そのものを止めることは難しいかもしれません、だからその流れを変えましょう」
 割り込んだのは、叶 白竜(よう・ぱいろん)だった。
 元々、パートナーである世 羅儀(せい・らぎ)と共に愛機のアンズー黄山(ホアンシャン)で警戒しており、駆け付けたのだ。
「足場は任せるであります!」
 同じく新たな声は、【機動要塞】航空戦艦『伊勢』からのもの。
 声の主は葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。
「当艦がイコンの整備と補給のサポートを受け持つであります!」
「だから皆、思いっきりやっちゃってね♪」
 吹雪に続いて、躁艦を担当するコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の声。
「いやだから、やりすぎはダメだって」
「ですが何はともあれ、心強いです」
 ただ問題があるとすれば、白竜に羅儀は「ん?」と首を傾げた。
「雪崩の誘導先ですね。ずっと下った所……西にずれた所の川が、川幅が広くてどうかと思うのですが」
「うん、とりあえずそこでいいと思う……ていうか、近いトコだとそこしかないかなって思う」
 新たな声はイコン・フライトスターからのものだった。
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)のパートナーでありフライトスターのメインパイロット、鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)だった。
 その声は確信にあふれていた……何故なら。


 半日ほど前。
「いやぁ、今回は楽な仕事よねぇ」
 望美は鼻歌混じりに、フライトスターで除雪作業に勤しんでいた。

1:雪をシールドですくって、コンテナに入れる。
2:コンテナが一杯になったら、コンテナの雪を別な場所へ捨てに行く。

 という簡単な工程を延々と繰り返している望美。
 確かに簡単だがよく飽きないものだな、と搭乗席でお菓子を食べつつマンガを読んでいた剛太郎は思った。
 サボッているわけではないですよ?
 イコンに関しては望美が専門であり、特に今回は除雪作業における簡単な操縦である為、剛太郎は殆どする事がないのだ。
 決してサボっっているわけではないのである。
「……望美、ほら」
「ん……美味し、ありがとお兄ちゃん♪ あ、そこのスイッチ、入れて」
 時折、望美の口にお菓子を放りこみテンションを上げたり、指示に従って何かよく分からないスイッチを入れたり切ったりもしているし。
「……望美」
 そんな和やかな作業が終わりを告げたのは、カメラで外の状況監視をダラダラと行っていた剛太郎の、鋭い声だった。
 瞬時に望美の表情が引き締まった。
「……雪崩? にしても不自然に大きくない?」
「詮索は後だ……山頂付近よりの雪崩の発生を確認、速度はゆっくりなれど規模は大きい、フライトスターはこのまま対処に当たる」
 麓へと通信を入れ、そして、剛太郎と望美はそのまま雪崩を止めるべく行動を開始したのであった。

 回想終了。
 つまり、その時にコンテナの雪を捨てていたのが、白竜が示唆した場所なのだ。
「そうですか、ありがとう。では、何とかその位置に誘導しましょう」
「ただ、あれ全てを受け入れるのは正直、厳しいかもしれないが」
 剛太郎が見るそれは、既に雪崩というより雪の津波とでも呼べる様相を呈し始めていた。
「だが、とにかくやってみるしかない」
「そうですね。山に入った人達もまだ見つかっていないようですし」
 ただ黙して手をこまねいているわけにはいかない、甚五郎に頷いてから白竜は小さく続けた。
「冬山には近づくもんじゃないねえ・・よほど事情があったんだろうけど」
 黄山に搭乗してもイマイチ浮かない顔の白竜に、羅儀は気楽さを装い声を掛けた。
 その気遣いに、白竜は僅かに入っていた肩の力を抜いた。
「本来は雪崩というエネルギーは人間にはどうにもできないものです」
 普段山岳部に所属し山に登る趣味がある白竜は、山に対する畏敬の念を抱いている。
 勿論、それに引き換えなければならないほど村人にも事情はあったと思うけれども。
「ですが、やるしかないでしょう……遭難した村人も麓の人達も、誰も死なせない為には」
「……だな」
 迷いのない瞳に、羅儀は口の端を微かに釣り上げると、白竜から操縦を受け取った。
 幸運な事に、突然空の雪雲が散り始めたのも、決行を後押しした。
 そして。
「バロウズ、参る!」
「フライトスター、いっきま〜す」
 バロウズは真っ直ぐ立ち狙いを定め。
 そして機動性に優れたフライトスターは操縦者の駆るまま、空中にピタリと静止し。
 襲い来る白銀の波に立ち向かうべく、その軌道を変えるべく、それぞれ獲物を構えて。
「「待っ!」」
 剛太郎と白竜の制止が、その動きを止めた。
 晴れた視界やや前方、まさに攻撃しようとした雪崩と白竜達の間、合図のように光の柱が上がったのだった。