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第二章


 観客席では避難が進んでいる。
 しかしながら、避難できない人物たちもいる。
 それは、チョコにされてしまったルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)を含めた被害者達だ。
「舐めるな! いや、嘗めるな!」
 ぺろぺろとチョコルシアをなめていたDSペンギン。
「ルシアに手を出す奴は俺が許さん!」
 その所業許すまじと、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が見参。
「貴様ら、吊るしてくれる!」
 張り巡らせた【不可視の封斬糸】。それらを【光術】で発光させ、目の眩んだDSペンギンの足を絡め取る。
「何人たりとも近づかせん」
「悪いルシア、遅れた!」
 そこへ運の悪いことに大会参加のため、控え室に居たせいで駆けつけるのが遅れた神条 和麻(しんじょう・かずま)が。
「ルシアは……既にチョコだと!?」
「お前も不貞の輩か!」
「ちょっと待て! 俺は――」
「問答無用!」
 助けに来たはずなのだが、唯斗に勘違いされてしまう和麻。弁解する時間も与えられないまま、封斬糸が絡み、一瞬でDSペンギンの仲間入り。
「ちょっと待てって言ってるだろ!」
「何を言う。お前もルシアを嘗めに来たのだろう?」
「違う! 俺はルシアを守りに来たんだ!」
 ようやく叶った弁明。
 だけど、気になる単語に質問を投げずにはいられなかった。
「嘗めていた……それはどいつだ!?」
「そこに吊るされている奴らだ」
 全身を使って振り向くと、逆さに吊るされた鳥類。それはまるで鶏が血抜きをされる光景に酷似していただろう。見る者が逆さ吊りでなければ。
「DSペンギン共め……っ! ルシアをチョコにして、あまつさえ……」
 怨敵を前にし、和麻の怒りは背中に阿修羅が浮かぶほど燃え上がる。但し、逆さ吊りだが。
 その形相に威圧され、本当に血抜きをされたかと見紛うほど血の気が引くDSペンギン。
 それほどまで激昂する和麻に唯斗は話しかける。
「頭に上った血を押さえろ」
「誰の所為で頭に血が上ってると思ってるんだ!」
 ポンッと手を叩く唯斗。起因はもちろん彼だ。
「くっ、このままじゃルシアを守れない……」
「お前、本当にルシアを守りたいのか?」
「当たり前だ!」
 唾が飛ぶほどに主張。そして、封斬糸から逃れようともがく。
 唯斗は考えた。
「どうやら本気のようだな……どうだ、ここは一つ手を組まないか?」
「手を組む、だと? 俺をこんな目にあわせておいて……」
「それは侘びよう。俺もルシアを守るためならば手段を選ばん」
 目的は二人とも同じ。
「……先ずはこれを解いてくれ」
 絡めていた糸が解かれ、和麻も考える。
「一人よりも二人の方が守りやすい、か。……しょうがない、協力する」
 自分が受けた仕打ちよりも、ルシアの保護を優先。
「では、安全なところに退避するぞ」
 彼らはルシアを担ぐと、争いの穏やかな方へと走り出す。
「絶対に壊すなよ!」
「無論、ちゃんと考えてある」
 封斬糸がルシアを守るように覆っていた。

――――

「わーい、お・か・し!」
 お菓子に目のないクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は高揚感に打ち震えていた。
「あのDSペンギンが居れば、お菓子食べ放題にゃん! エース、オイラあれが欲しいあれが欲しい!」
 そして、じたばたとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に駄々をこねる。
 エースは考えた。
 自分達がびーむの餌食になるのは勘弁願いたい。
 そのためにこの混乱を収めないといけない。
 しかし、殺してしまうのは寝覚めが悪い。
 となると、生け捕りにするのが得策か。
「でも、どうやるか……」
「あの『すいーつ☆キャノン砲』を口から穿り出すか、ペンギンごと我が物にすれば問題ないのにゃ!」
「クマラ、お前はどこの悪人だ」
 ペシッと頭をはたく。
 しかし、期待でおめめキラキラ状態のクラマには関係ない。
「ふふふふ、いい子だからそのキャノン砲をオイラに捧げるのにゃ。それかその身をオイラに差し出すのにゃ!」
 獲物を見つけた獣のようにDSペンギンをねめつける。
 このままだと、混乱が収まってもまた、クマラによって被害が出る可能性がある。
 だからエースは釘を刺して置く。
「持って帰るのは駄目だからね、クマラ。ウチでは飼えません」
「えーっ! なんでにゃ!?」
「それが守れないと、捕獲はしないよ?」
「うぅ……」
 未練たらたら。しかし、背に腹は変えられない。
「わかったにゃ……今だけで我慢するにゃ……」
「よしよし。それじゃ、捕獲作業開始だね」
 手近なDSペンギンを狙う。
 そんな二人を眺めていた菊花 みのり(きくばな・みのり)は、
「鴨を……捕獲……ですか?」
 DSペンギンを鴨と勘違いしていた。
「みのり、あれはペンギンよ」
「そう、なの……? 鴨だと……思う、けど……」
 アルマー・ジェフェリア(あるまー・じぇふぇりあ)が間違いを正すが、みのりは気にしていない。
「にしても、俺達はどうするよ?」
 辺りを見渡し、グレン・フォルカニアス(ぐれん・ふぉるかにあす)が二人に尋ねる。
「悪意が無ければ……殺さず……とも」
「みのりがそう言うならアルマーもそうするわ」
「つまり、傍観と言うわけか。ま、襲われなけりゃいいわけだしな」
 とは言うものの、この状況下でそれは難しい。
「念願の『すーいつ☆キャノン砲』を手に入れたにゃー!」
 エースがエバーグリーンで植物を生い茂らせ、植物のツタを使ってDSペンギンを捕獲。それをクマラが抱えていた。
 決して殺してでも奪い取ったわけではない。
「これでお菓子、ゲットだにゃー!」
 砲口が狙う先は近くに居たみのり。
「ワタシですか? 止めた方が……良いですよ……?」
「おいおい、こっちを狙うつもりかよ」
「そんなことさせませんわ」
 みのりを庇うよう立ち塞がるグレンとアルマー。
「みのりを狙うなんて、お仕置きが必要ね」
「鉄拳制裁ってやつだな。悪いが、手加減する気はねぇぞ?」
 二人は手持ちの武器を構える。そして――
「こらクマラ!」
「痛いにゃ!?」
 それらが振り下ろされるより先、エースの拳が落ちた。
「素敵なお嬢さん。うちのクマラが失礼しました。お詫びの印として、これをどうぞ」
 懐から薔薇を取り出し、みのりへ授ける。
「……ありが……とう?」
 呆気に取られる三人。
「クマラ、狙うのなら向こうにしなさい」
「わかったにゃ……」
 頭を抑え、狙いをDSペンギンへ変えるクマラ。
「それでは皆さん、ご迷惑をお掛けしました」
 一礼して去っていくエース。
「……あいつら、何だったんだ?」
「さあ……」
 疑問符が飛ぶグレンとアルマー。
「とにかく、みのりが無事だったわけだし、よしとしましょう」
「だが、また襲ってくるやからがいるかもな」
「その時もまた、みのりを守るだけよ」
「だな。それまでは傍観しているか」
 また様子見へと戻る二人。
「不思議な方達……でした。あなたは……どう思います……か?」
 みのりは誰も居ない何かに語りかけていた。