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リアクション
「やっぱりお餅つきには、チームワークだよねえ」
吹雪の餅がなんとかつき終わると、次は清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)。
「はっ!」
ぺったん。
「ほっ!」
ぺったん。
「……なんだか、餅つき大会が行われて3度目にして初めて普通の餅つきを見たような気がするよ」
とは、審査員の三月の談。
モーベットの杵さばきは、最初は慣れないためかたどたどしかったものの、次第に慣れてきてどんどんスピードアップ。
対する北都の返しは互いに気心の知れた間柄であるためか、常に安定したもので。
「主、なかなかやるな」
「モーちゃんこそ」
三月の言葉通り、大会始まって初めて危なげなく餅つきパフォーマンスが終了したのだった。
「ムティルくん、ムシミスくん、どうだった?」
つきあがった餅を厨房へと運ぶ途中、北都は誘っていた二人に声をかける。
ジャウ家の兄弟、ムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)とムシミスだ。
「お餅って、こんな風に作っていたんですね。面白いです」
「……」
素直な感想を述べるムシミスに対して、ムティルはどこか不機嫌そうな様子の無言。
睨むような視線を北都とモーベットに向ける。
「二人もいつか共に餅つきができるといいな」
そんな視線に気づかないのか意にも解さないのか、モーベットが餅を分けながら口を開く。
「そうだな。お互いの呼吸を合わせてやるものだから杵が攻め、臼が受けだと思ってやれば問題はない」
「モーちゃんその説明はどうかと思うよ」
「では僕が杵がいいです」
「即答もどうかと思う」
モーベットのあまりといえばあまりな比喩に北都が注釈を入れようとするが、その間もなく答えるムシミスに思わず声が漏れる。
深刻なツッコミの人材不足。
モーベットは黙るときな粉と餡子を並べている。
「ねえ兄さん。僕たちもやってみませんか」
「……断る」
ムシミスはムティルのつれない返事に文句を言おうとするが、そのどこか思い詰めた表情に何も言えないままその場を去る。
「ムティルくん、どうかしたの?」
「……なんでもない」
暫しムシミスを見送ってから、考え込む様子でため息をつくムティル。
その様子に、何か含みがあるように感じ北都は声を掛けようとする、が。
「……いい度胸だな」
「え」
「な」
モーベットの声に、慌ててそちらの方を見る。
その声に、含んではならない感情が含まれていることに気付いて。
モーベットは、きな粉まみれだった。
犯人は、先程のムティルのため息だ。
「……我の眼鏡を汚した者には、おしおきだ」
「い、いや、あれは」
「いい加減学習したらどうだ。ひとまず、先日も使った人気のない庭の倉庫まで来い。でなければ庭の植え込みか」
「……またこの流れか」
どこか観念したような様子でモーベットに引きずられていくムティルだった。
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