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リアクション
第4章 ピンクのお餅に……
そう。
青い餅と茶色い餅は、あくまでも餅つき大会の副産物。
真の恐怖はピンク色の餅だったのだ。
「あ、あんっ、もう駄目ぇ……っ」
最初にその毒牙にかかったのは、仁科 姫月(にしな・ひめき)だった。
ピンク色の餅は、姫月に飛び掛かると容赦なくその身体を刺激し始めた。
「あ、や……っ」
最初はマッサージするように優しく。
次第に激しさを増して。
そう、ピンク色の餅はくすぐっていた。
姫月の服の上から、膨らんだ部分を、窪みを、彼女の敏感な部分全てを。
「や、や、やだ……っ」
姫月はたまらず服を脱ぎ捨てる。
くしゃくしゃに脱ぎ捨てた服を、ピンク色の餅はまだくすぐっているのが見えた。
「は……あ……」
未だ先程の余韻が消えず、水色の下着のまま火照った身体を外気に晒す。
そこに、ふわりと何かが被さった。
成田 樹彦(なりた・たつひこ)が、彼の来ていたコートをかけたのだ。
「あ、兄……」
ぎゅっ。
そして次の瞬間、姫月は樹彦の腕の中にいた。
「あ、ありがと、兄貴。私、その……」
「……」
樹彦は無言のまま、その腕の力を強くする。
だから姫月も、それ以上何も言えなくなる。
暫くの間、無言の時間。
それはお互いにとって、どんな意味を持つものだったのだろう。
「……気にするな。それより、急いでここを離れるぞ」
「あ、うん……きゃ」
姫月の身体がふわりと浮かんだ、ように感じた。
樹彦が姫月を抱き上げたのだ。
横抱きに、いわゆるお姫様抱っこに。
その腕に込められた力は、姫月には、そして当の樹彦にも気づかなかった独占欲。
姫月を抱えたまま、樹彦は足を速めるのだった。
◇◇◇
「餅つきとは、面白い企画ですね」
「そうだね。あたし的には、出来上がったお餅の試食タイムが楽しみ!」
「もう、またそんな事ばかり……」
笑顔で歩いているのはミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と和泉 真奈(いずみ・まな)。
そんなミルディアは、ふと気になる物を視界の端に捕え足を止めた。
思えばそれが最悪への選択肢の分岐だったのかもしれない。
「あれ? こんな色のお餅あったっけ?」
「ピンク色のお餅……ですね。何を混ぜてこんな色になったのでしょう」
庭の真ん中に、餅。
ピンク色の餅が、野良餅とでもいうように不自然に置かれていた。
「珍しい色だよね。あれ、これ、動いてる?」
よくよく見ると、それはぷにぷにと動いている。
ミルディアは餅に近づくと、そっと指でつん、つん……
「やっぱりただのお餅ね……って、やぁあっ!?」
しゅるるるる。
お約束通り、ピンク色の餅は突如として動きだすとミルディアの指に絡みつく。
「え、え、何これ?」
しゅるるるる。
餅は当然、ミルディアの横にいた真奈も見逃さない。
「え、これ動くんですか?」
二人の抗議にならない講義を聞きながら、餅はどんどん二人を浸蝕していく。
「あん……そ、そんな所……っ」
早くも袖口から服の下にまで餅に入り込まれ、ミルディアの息が荒くなっている。
餅はミルディアの腕に絡みつきながら、本体への侵入を図る。
「そんな所くすぐっても、こそぐったいだけ……あっ」
何処なら良いというのだろう。
「そ、そこまでは駄目えっ!」
一見餅に好きなようにされているように見えながら、意外に注文?が細かいミルディア。
餅が動く度、何度も何度も小さな悲鳴を上げる。
「ちょ、変な所に入り込まないで!」
真奈は真奈で、胸を揺らしながら餅の刺激に耐えていた。
餅は真奈の服の上から身体に吸い付き、とうとうその大きな胸へと登頂を果たす。
真奈の胸が餅と共に大きくその形を変えていく。
「あ……あぁっ」
餅から与えられる刺激に、真奈もなすすべなく陥落していく……
◇◇◇
「おい、おいおいおいおい何だよコレは!」
レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)にピンク色の餅が取りついた瞬間、即座に彼の身体は反応した。
餅が与える甘美な刺激。
それは超感覚のせいもあり、彼の心とはまた別な所で肉体に変化を起こさせる。
「こんなモノ、とっととはがして……ぁあっ!」
引きはがそうと手を逃すが、後方に回った餅が彼の尻尾に巻き付いた。
「あ……あ、そこは、やめっ」
餅はまるで弄ぶかのように、執拗に尻尾に絡みつく。
「……っ、く、ふっ……ぁ……あぁ……」
押し殺していた声が、次第に次第に彼の外へと漏れていく。
それは、彼の中の快感が高まってきたことを如実に表していた。
十分に彼を刺激し満足したのだろうか、餅は尻尾から離れていく。
「あ……」
彼の口から零れた言葉。
それは安堵だろうか、それとも……
しかし餅は容赦なかった。
「あ、な、馬鹿っ、そんな所に……っ」
そう。
餅は、彼の全面へ回ると腰布の中へ、中へ……
「こ、これ以上されたら、俺、俺……っ」
レグルスの懇願を聞き届ける耳は、餅にはなかった。
◇◇◇
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、いつになく上機嫌だった。
「この餅っていうのは面白いものだな」
手に持った餅を咥え、ぐいと伸ばす。
餅はつきたて特有の柔らかさで彼の歯を受け止めると、手の動きにあわせてみゅいーんと伸びる。
「感触といい、この伸びる所といい。それに美味いしな」
そこまで言うと、ふとアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)の手に持っている餅に視線を移す。
「アウレウス、何を持っている?」
「はっ、これも餅です」
「いや、だけど俺のと色が全然違う」
「ああ、これはキナコという物で……」
「キナコ?」
「はい、豆を……え、主!?」
ぱくり。
グラキエスはアウレウスの手を取ると口を近づけ、きな粉餅を口にした。
「うん、これも美味いな」
(主が、主の顔が目の前にっ!)
「あ、指にもついてるじゃないか」
ぺろり。
(舌がっ、主の舌が指をぉおおおっ!)
アウレウスの動揺などまるで気づかず、餅を堪能するグラキエス。
しかしそこでグラキエスは気づいてしまった。
「あれも……餅か?」
庭の端に、ピンク色のモノがある。
ピンクの餅はぐにょん、ぐにょんと動くと移動しているようだ。
「何だ、あれは……」
動揺のあまり硬直しているアウレウスは放っておいて、グラキエスは好奇心のままにそれを追いかける。
「こっちか……うわっ!」
角を曲がった途端。
多数のピンク色の餅が、グラキエスを出迎えた。
ピンク色の餅の上に、餅が乗る。
更に餅の上に餅が。
ぴょぴょぴょぴょぴょ、ぽん。
キングピンク餅の誕生!
餅は狙いを定め、グラキエスへと襲い掛かってきた。
「なっ! こ、これは……っ」
グラキエスの全身を包み込むようにしてくすぐるピンクの餅。
しかしグラキエスはかつて、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)によって『くすぐったい』という感覚を別の物にすり替えられていた。
『気持ちいい』という感覚に。
餅は必死になって、グラキエスを笑わそうと彼の全身に刺激を与える。
「はっ……ぁう……っ」
「グラキエス様、どこへ行ったかと思えば……」
その時、救いの手が現れた。
いやそれは本当に救いだったのだろうか。
グラキエスの現在のトラブルの張本人、エルデネストだった。
「餅をお取りしますよ」
「はっ、エルデネスト……っ」
「ついでに、こちらも楽にして差し上げましょうか?」
「ぁあ……」
「主!」
エルデネストとグラキエスの睦み事の丁度その場に、グラキエスを探していたアウレウスは遭遇してしまった。
「やっ、アウレウス……」
「主になんてことを!」
「おっと、止めさせるのは契約違反だからね」
思わず間に割り入ろうとしたアウレウスを、エルデネストは余裕綽々で制止する。
「くっ……」
「あぁ、エルデネスト……っ! そ、それ以上は、怖い……っ」
「主、主、私が側におります!」
アウレウスはグラキエスの手を取った。
グラキエスがエルデネストに声を上げさせているその間中、最後の最後まで主の手を握り続けていた。
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