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水晶

「ユニコーンの方は大丈夫かなぁ……」
 鍾乳洞を歩きながら清泉 北都(いずみ・ほくと)はそう呟く。
「俺たちの目撃情報はつたえてあるしなんとかなるだろ」
 あっちにも結構な数の契約者が行ってるはずだしと白銀 昶(しろがね・あきら)は返す。
「けど、水晶かぁ……ただの珪石ならすぐに見つかるんだけどねぇ」
 二人は今回の依頼の中で陽光の当たっていない水晶の採取に取り掛かっていた。
「それに、野盗達が鍾乳洞の方へ向かったっていう話もある。気をつけたほうがいいな」
 今更野盗たちに遅れを取るとは思わないが、それでも油断すれば何が起こるかわからないのが冒険というものだ。
「……っと、話をしてたら早速か」
 行く手を阻むように現れた野盗に昶はそう言う。
「ねぇ、昶。あの武器って……」
「あぁ、嫌な臭いがする。気をつけたほうがいい」
 野盗の持っている武器を見た二人はそう感想を漏らす。
(下手をしたらオレらが使ってる武器と同じレベルの威力があるかも知れないな……)
 一見してへんてつもない武器だが何か力が込められているのはすぐに解った。一介の野盗が持つはずもないようなものであり、契約者を傷つけるのになんら支障のないものだった。
「確かに武器は脅威だけど、使い手がお粗末だねぇ」
 行動予測を使い、北都は武器を狙って弓矢を射る。あっけなく落とした武器を昶は素早く拾った。
「貰いっと……ん? これは……」
「どうしたんだい? 昶」
 武器を失った野盗を捕縛し、北都は変な顔をしている昶に聞く。
「オレが拾った瞬間に武器から嫌な匂いがしなくなった」
 そう言われて北都が野盗の持っていた武器を観察すると、それはどっからどう見てもただのナマクラだった。
「これは……早く水晶を取って村に帰ったほうがよさそうだねぇ」
 北都の言葉に昶は頷き、二人は水晶の探索を急いだ。


「ふむ……マッピングが済んでいるのも合って探索にはそれほど苦労はしないな」
 鍾乳洞を進みながら夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はそう言う。
「たまに出てくる野盗がうっとうしいだけじゃな」
 甚五郎の言葉に草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はそう続ける。その野盗にしても武器が少し厄介な以外は問題なく対処できるし、逃げ出したのは半数だけなので数もそう多くない。
「水晶がある場所についてはルルゥが覚えているんだったな」
 甚五郎の言葉にルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)は元気よく頷く。
「うん。おっきくて綺麗な水晶がある所を知ってるんだよ。というより甚五郎も羽純も一緒に見ているはずなんだよ」
「覚えてないな」
「覚えてないのぉ」
 そんな話をした覚えがあるが、からかい的な意味と、実際に水晶があった場所は覚えていないので二人はそう言う。
「二人とも鉱石に対する扱いが雑なんだよ!」
 ひどいとルルゥは言う。
「そういえば水晶はどれくらい必要なんだ?」
 ルルゥをあやしながら甚五郎は阿部 勇(あべ・いさむ)にそう聞く。
「その辺りは出発する前に前村長に聞いていますよ。ルルゥの話と合わせて今から向かっている水晶が採取出来れば問題無さそうです」
 甚五郎にそう返して、勇は少しむずかしい顔をする。
「? どうかしたのかの?」
 勇の様子に気づいた羽純がそう聞く。
「いえ、感染源のことについて前村長に聞いたんですが、それについては心当たりがあるから調べると言ってまして。大丈夫なのかなと」
 契約者を意識不明にする難病だ。その感染源の調査となれば当然危険を伴うものになる。
「その時はその時でまた薬を作ればいいだろう。今は瑛菜だ」
 村興しの中心である瑛菜が倒れている状況は想像以上に大きいと甚五郎は言う。
「まぁ、あの御仁なら大丈夫じゃろ。わらわたちより村のことを知っているよう出しの」
「前村長のおじーちゃんは物知りだよ。ルルゥが温泉何に聞くか聞いたら教えてくれたんだよ。美容・健康・意志薄弱に効くんだって!」
「……なんですかその胡散臭い効果は」
 気合が入るということなのだろうかと勇は思う。
「この仕事が終わったら入るとするか」
 意志薄弱に効くと聞いて甚五郎はすっかり乗り気だ。これ以上気合要らないでしょうと勇は思ったが言っても仕方ないことなので黙り、水晶のある場所へと急いだ。