天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

チョコレートぱにっく!

リアクション公開中!

チョコレートぱにっく!

リアクション


プロローグ


 時間が経つに連れて見物客も増えていく中、セイニィとラナがコントラクターたちを連れて戻ってきた。
 コントラクター達は互いに自分の為すべき事を見つけて、作業を始めるとチョコレート展が幕を上げた。


一章 チョコアート(王道)

「パッフェル〜! 手伝いに来たよ〜!」
 チョコの準備をしているパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)に向かって桐生 円(きりゅう・まどか)は駆け寄ってくる。
「円……来てくれると思ってた。ありがとう……」
 パッフェルは小さい声で礼を言うと薄い笑みを浮かべる。
「でも、円はチョコアートを作れるの?」
「それなら大丈夫だよ、この子達がいるから」
 円は後ろに控えさせていたコック帽を被っているDSペンギンを前に出すと、ペンギンたちは手際よくチョコの固まりを彫って何かを作り始め、お客さんからはその姿が可愛いと茶色い声援が飛び交った。
「アートはこの子達に任せて、ボクたちはお客さんが作るチョコアートのフォローに回ろうか」
「名案だね」
「クエッ」
 ペンギンの一羽が円の足をポンポンと叩いて視線を向けさせる。ペンギンの翼の平の部分には何かのポーズを取っているペンギンの小さい像が二つ。
「クエッ」
「えーっと、右がヘラクレスで左がヴィーナス? ごめん……よく分からないけど、可愛いからその調子だよ」
「クエッ」
 褒められたペンギンはヨタヨタと仲間達の場所に戻り、円たちもチョコアート造りに挑戦したがっているお客さんの相手を始めた。
「あっちも大盛況だな、こっちも負けてられないなセイニィ」
 円たちの様子を見ながら武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)大量の星型のチョコ型を持っているセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)に声をかける。
「それで、この星型でなにするの?」
「うん、ちょっとこれで子供たちに星座の成り立ちでも覚えて貰おうかなって……そうだな、今の月だと水瓶座かな。そんなわけで、はいこれ」
 牙竜は根回しであらかじめ手に入れておいた星座の絵本を渡した。
「これの水瓶座の部分だけ読んでおいてくれ。子供に説明できるようにね」
「う、うん……やってみる」
 セイニィは絵本を開くとジッと熟読を始める。
「ねえおにいちゃん、早くせいざ教えてよ〜!」
「ああ、分かった分かった。それじゃあ、この位置に星を並べて薄くチョコを入れてくれるかな?」
 子供たちに急かされて牙竜は大きな板状のクッキーをテーブルに置いて、そこに水瓶座が出来るように星型を並べると、子供たちはそこにチョコを流し込んだり、適当な場所にチョコ型を置いてチョコを流すが牙竜は注意することなく笑っていた。
「おねえちゃん、これなんていう星座〜?」
 チョコが固まるまで退屈になった子供の一人が質問するとセイニィはビクッと身体を震わせる。
「え!? あ、これはね水瓶座っていう星座なんだって……えっとね、ゼウスって神様のお酒を注いでいる男の子がモデルなんだって。それでこの男の子が水瓶を担いでるのが星座になってるんだよ?」
「え〜? どこがそうなってるの?」
「えっとね、ここが水瓶で、これがそこから流れる水でこの辺が身体なんだって」
「全然みえな〜い!」
 子供たちは口々にみえなーいと言い出すと、
「ね〜? 見えないよね〜?」
 セイニィも子供たちに混じって笑い始めた。
 そんな子供たちと一緒になって笑っているセイニィを見て、牙竜は満足そうに微笑んだ。
「どうしたの牙竜、ニヤニヤして」
「いや、セイニィはいいお母さんになりそうだなって……」
「な……! ただ星座見て笑ってるだけで、そんなこと分からないじゃん!」
 牙竜の一言にセイニィは顔を赤くして、子供たちの輪に再び戻るが、子供たちに慕われる姿は牙竜の予感を確信に変えるだけの光景だった。

「いやぁ、凄い賑わいですねぇ……」
 客として遊びに来ていたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)を連れて、チョコアートに挑戦していた。
「レティはどんなチョコを作ったの?」
 リアトリスが訊ねた。
「いえいえ、こっちでは造っていないんですけど手土産的な感じでチョコの花束を用意してみました」
 そう言ってレティシアが見えたのは細かく花びらの一枚一枚が細かく造られている精緻な花束のチョコだった。
「凄いねレティは……こんなのを簡単に造るなんて」
「あ、もちろん旦那様には特別なチョコを用意していますからね? そう……レティパフェをね」
 レティシアはニヤリと微笑んだ。ちなみにレティパフェとはレティが作ったパフェではなく、レティがパフェの一部になったものを指す。早い話は女体盛りである。
「いや……それは遠慮しようかな……そんなことより、はいこれ」
 リアトリスとはレティシアの言葉を遮るようにチョコを口に入れてあげた。
「どうかな? ドライフルーツのイチゴをホワイトチョコでコーティングしてみたんだけど」
「まさか……今のが今年のバレンタインチョコですか?」
「ううん、とんでもない。ちゃんと用意してあるよ、特別なバレンタインのプレゼントはね。……でも、今はお祭りを楽しもうよ」
「それもそうですね」
 レティシアも同意してチョコをせっせと作り始める。
 リアトリスは今からプレゼントを渡すのが待ちきれなくなり、自然と口元から笑みがこぼれていた。


「はあ、デコペンで絵を描くので、粉末食用色素をサラダ油で溶かした物を数種類用意せいじゃと?」
 ユーラ・ツェイス(ゆーら・つぇいす)は怪訝そうな顔をして紅坂 栄斗(こうさか・えいと)を見つめる。
 ユーラの周りには子供連れの親子がユーラと同じようにチョコ作りに勤しんでいた。
 ちなみにユーラの手元には小さい鳩の形をしたチョコが置いてあった。
「そんなもの、何に使うんじゃ?」
「いや、俺もちょっとだけアートに参加しようかなって……」
「ふぅ……仕方の無い奴じゃ。ほれ」
 呆れながらユーラはチョコを渡すと、栄斗は礼を言ってユーラから離れていってしまう。
「……全く、人の気も知らんで……勝手な奴じゃ」
 ユーラはため息をつき栄斗の背中を見つめながら、プレゼント用に包装されたチョコをそっと隠した。
 
 チョコアート展の奥では実際のモデルを使ってチョコ作りをしようとする人達が集まっていた。
 白波 理沙(しらなみ・りさ)もアート展を盛りあげるために気合いを入れて彫刻刀や細い針金を用意して大きなチョコの固まりに対峙し、その向こうのピノ・クリス(ぴの・くりす)に目を向ける。
「ピノもお手伝いしましょうか?」
「ううん、ピノちゃんはそこで動かないでいてくれればいいから。あ、そうだジッとしてても退屈でしょ? チョコあげるよ」
 そう言って理沙はチョコを渡し、ピノは口に含むと両手を上下にパタパタさせて美味しさを出来るだけ動かないように表現している。
「さ、あの子たちの目とか口の位置がずれると、それだけで可愛さが半減しちゃうからね……気合い入れないと」
 理沙は乾いた唇を舐めると、ガンガンと彫刻刀でチョコを削り始めた。
 シンプルなフォルムも手伝って、胴や手足の部分は簡単に完成し色合いをつけるためホワイトチョコで胴を塗る。
「問題は顔だよね〜ここは本当に注意しないと……」
 一人呟きながら、理沙は細かい作業をするために彫刻刀から針金に持ち替えると、
「あああああああああああああああああああああ!」
 隣から悲鳴が聞こえて、理沙は心臓を止めそうになりながら声を出したチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)の方を見た。
「どうしたの!? 大丈夫チェルシー!?」
「だ、大丈夫ですわ……いえ、大丈夫じゃないですけど大丈夫ですわ……」
「何があったの?」
「しょーしん中のチェルしゃんに代わって、あたしが説明するでしゅ」
 チェルシーのモデルになっていたチョコ・クリス(ちょこ・くりす)はその場を動かずに説明を始めた。
「チェルしゃんはしゅーちゅーりょくが続くうちに顔をあたしの顔を作ろうとしたんでしゅが……あたしの前髪で苦戦して……今、ポッキリと」
 そう言って、理沙がチェルシーの足下を見るとチョコの特徴的なカーブのかかったアホ毛の部分が折れたチョコ像の姿があった。これではただのひよこである。
「ま、まあまあ……このチョコは他のお客さんに食べてもらうなりしてもらえればいいんだし、今度は上手くいくよ……ね?」
「チェルしゃん……よく分からないけど、ゴメンでしゅ……」
「いえ、お気になさらず……それにいい考えが思い浮かびました……」
 チェルシーはそう言って、針金を一つ取り出すと、アホ毛の折れた部分に針金を通し、飛びだした針金のもう一端をチョコ像の額に突き刺した。
「い、痛い! 痛いでしゅ! なんだかわからないけど凄く痛いでしゅ!」
 チョコが騒いでいる間に針金は無事に刺さり終わり、チョコ像のアホ毛は無事に復元した。
「おお、お見事」
「さあ、これで後は胴体を残すのみ。ここからは簡単ですわ」
「よーし、私も頑張って完成させるわ!」
 チェルシーの気合いに合わせて理沙も自分の持ち場に戻って、丁寧にピノの顔を造りあげていった。
 そんな様子をちらと見ながらリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)はため息をついた。
「いいですねモデルのいる方達は……ああ、ここにお嬢様がいてくだされば、もっと美麗な像が出来るのに。……流石に想像だけでは限界がありますね」
 もう一度ため息をつきながら、リリはレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)を思う。
 レイナはリリに休暇を与えたため、自身が家事を肩代わりしておりここには来れなくなってしまったのだ。
「おねえさん、おねえさんはなんの像を造ってるの?」
 リサ達の見物客が流れて、子供たちが興味津々といった表情でリリの作品を見つめる。
「これはね、世界一美しい女性をモチーフにした像なんですよ?」
「へえ……だからおんなじ顔の像が沢山置いてあるんだね?」
 言いながら、子供は周りを見渡す。
 リリはここに着いてから黙々とレイナの像を造り続けているのだ。
 天使や女神や戦乙女、妖精に精霊など様々な題材で造られたレイナのチョコ像が所狭しと置かれていた。
「この女の人は誰なの?」
「誰でもありませんよ? 私が理想とする女性ですから」
「へ〜」
 子供は目をキラキラさせながらレイナの像を見て回る。モデルがいないと言ったのは、レイナに累が及ばないようにとのリリの配慮である。
「ああ……お嬢様に早く会いたい……」
 彫りながら悲しい気持ちを埋めるようにせっせとレイナの像を彫り続けた。