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二章 チョコアート展の辛口警備員

 チョコアート展に来る人達はなにもチョコを作りに来る人が全てではない。ここでしか手に入らないチョコを求めてやってくるお客さんも大勢いるのだ。
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)泉 美緒(いずみ・みお)ラナ・リゼット(らな・りぜっと)と一緒にチョコレートを販売していた。
「ごめんなさい小夜子さん、せっかくのバレンタインなのにお手伝いさせてしまって……」
 美緒がすまなそうに俯くと、小夜子は薄く微笑んで見せる。
「そんなこと気にしないでいいんだよ? 私は美緒と一緒にいられれば幸せだから」
「小夜子さん……」
「美緒……」
 二人が熱っぽく潤んだ瞳で見つめ合っていると、
「いい雰囲気になるのは大変結構ですが、そろそろ手を動かしてもらえませんか?」
 ラナはニッコリと微笑みながら残像が見えそうな速度でチョコの入った箱をラッピングしてお客さんに渡している。
「ご、ごめんなさい……」
 笑顔の裏に有無を言わせぬ威圧感を感じ取ると、二人はお客さんの接客に戻った。
 ラナと小夜子は梱包とラッピングを担当し、美緒が販売を担当している。
 美緒が立つとお客もそこに列を作るが、ある男は自分の番になっても、特にチョコを買う素振りも見せずに美緒の胸を凝視していた。
「あ、あの……」
 美緒も恥ずかしくなって顔を赤くしながら胸を隠すと男はニヤリと口元を歪め、隣で見ていた小夜子の表情が険しい顔に変わっていく。
「あのチョコの像、あんたがモデルだろ? 布被せてあったから気になって覗いてみたんだ……」
「あ、あの……あれは……」
「いやらしい身体してるじゃねえか、あんな像まで造って……誘惑してるんだろ?」
「お客様、それ以上なにか仰れば警備員を呼ばせていただきます」
 小夜子は努めて冷静に声を出すがその表情のない顔の裏からは怒りの感情が滲み出ていた。
「んだよ、呼べるもんなら呼んでみろ!」
「残念、もう来てたりして」
 男が声のした方を見た瞬間、桜月 舞香(さくらづき・まいか)は有無を言わせず我は科す永劫の咎をかける。
 男は石にされる不安から顔を苦痛に歪めて、そのまま石にされると、舞香は石像に液状のチョコをかけると氷術であっというまに固めてしまう。
「それじゃあ、お騒がせしました。小夜子たちもお仕事頑張ってね?」
「うん、ありがとう……ところで、舞香さんは何をしてるの?」
「あたしはチョコ像のことを教えるコンパニオンをやってるの。警備はそのついで。よかったら遊びに来てね?」
 舞香はチョコレート色をした裾の短いボディコンドレスを見せるようにクルリと一回転してみせると、チョコ像を持ちあげて像が展示してあるエリアまで持っていった。
「あ! コンパニオンのお姉ちゃん、どこいってたの?」
 戻ると、舞香に子供たちが沢山群がってきた。
「ねえ、おねえさん、その像はなんていう像なの?」
 子供たちは舞香が持ってきた像に興味を示して、何それー、と口々に言ってくる。
「これはね、制裁の像っていうの。あたしが造ったのよ?」
「へ〜、どれくらいで造ったの?」
「そうねぇ……三十秒くらい?」
 舞香が言うと、嘘だ〜! という声とすげ〜! という声が子供たちの中から飛び交ってくる。
「この像は、悪さをした人は石にしちゃうぞ〜っていう注意を呼びかけたものなの、だからみんなも悪いことはしちゃだめだよ?」
 子供たちは、は〜い! と元気良く声を上げる。
「うん、いい返事だね。それじゃあ、こんどはあっちに行こうか。……あっちはペンギンとひよこの像があるんだよ?」
 そう言いながら舞香は子供たちを連れて、展示されている像を紹介して回った。