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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■幕間:心理戦

 校庭に呼ばれた東雲姉弟の前に松永 久秀(まつなが・ひさひで)がいる。
 近くには佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)の姿もあった。
「この間の訓練や座学で、それなりに基礎が出来てるわね。それじゃあ、少し難しくしましょうか。今回は、人間が持つ感情の一つ“恋愛感情”について話ましょう」
「恋愛……ですか」
 きょとんとした様子の優里の頬を指でなぞり顔を近づけた。
「人間が制御しにくい感情の一つよ。ハニートラップという諜報行為が現代まで続いているのが、良い証拠ね」
「優里?」
 ジト目で風里が優里を睨む。
 慌てた様子で優里が松永から離れた。気のせいか頬が赤い。
「……ふふっ、素直な子ねえ。とはいえ、悪いことばかりではなく、人が限界を超えるキッカケにもなる感情でもあるわ」
 訝しむ二人。
 松永は苦笑して続けた。
「二人とも、ちんぷんかんぷんと言った感じね。まあ、軽く痛い目を見れば分かるようになるわ。というわけで交代ね」
 松永が待機していた和輝と手を合わせた。
 ハイタッチみたいな感じだろうか。
「さて、次は戦闘訓練をするぞ。前回と同様に、自由に武器を取っていい」
「それなら僕は剣を……」
「私は槍で行くわ」
 二人が武器を構える。
 その様子を見て和輝とアニスも身構えた。
 松永が告げる。
「戦闘開始よ」
 その声が終わる前に優里が動いた。
 剣を下に構えたまま駆け寄る。
「せぇいっ!」
 動きは急接近からの切り上げだ。
 和輝はそれを躱すと自分の肩をトントンと叩いて見せた。
「その肩のモノ、どうしたんだ?」
「……え?」
 優里の手が止まり、視線が自分の肩へと向かう。
 だがそこにはなにもない。
「隙だらけだよ!」
 突然近くから声がした。アニスだ。
 和輝の方に視線を戻す。そこには足を振り下ろそうとしているアニスの姿があった。
「ボーっとしない!」
 追いついた風里がアニスの一撃を槍で受け止める。
「おおっと〜、やるね風里」
「お褒めの言葉恐悦至極――っよ!」
 力点をずらし、アニスの体勢を崩し、その隙に脇を抜ける。
 アニスが追撃をかけようとするが優里の剣がそれを邪魔した。
「良い連携だ」
 迫る風里に和輝は銃を向けた。
 射線に入らないように風里は左右に身体を揺らしながら迫った。
 発砲音が立て続けに鳴った。だが風里には当たらない。
「やぁっ!!」
 槍による薙ぎの一閃。
 和輝はしゃがみ避ける。
 そして滑り込むように風里の懐に移動した。
「――誘われた!?」
「銃撃が一度も当らなかった時点で気付くべきだったな」
 蹴りが風里の腹部に炸裂した。
 当たる直前放電現象が起こる。
「くっ……」
 吹き飛ばされ、だが倒れないように押し留まる。
「どうした、臆病風に吹かれたか? そんなことだと俺達に一生勝てないな」
 和輝は嘲笑するように笑う。
 だが風里はそれを気にする素振りも見せない。
「さっきの優里に言ってたこと聞こえてたわよ」
「でも後ろには気をつけた方が良い」
「だからだま――」
 迫る気配に風里が槍を後ろに構えた。
 衝撃が槍に届く。
「あ、ごめっ、アニスさん攻撃してたんだけど……」
「にひひ〜っ」
 風里に笑みを送りながらアニスが和輝の元へ移動する。
 どうやら優里はアニスに誘導されていたようだ。
「休んでる暇はないぞ」
 和輝は言うとアニスを蹴りあげる。
 高く飛びあがった彼女は二人に手をかざした。
 彼女の周囲に吹雪が起こる。
「さあ訓練の続きだ」
 アニスに視線が向いた瞬間、和輝が二人に急接近した。
 迫る勢いそのままの蹴りを優里が剣で防いだ。
 訓練はまだ終わらない。