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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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第一章 空戦

 とある風のない晴れた日、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は一隻の中型飛空挺に乗ってタシガン空峡を飛んでいた。
 その飛空挺――『リベリオン』と名付けられた中古の飛空挺は、決して単なる移動手段として調達したものではない。
 複数名の契約者たちを共に乗せて、因縁の女首領を倒すべく蒼空に浮かぶ空賊の大型飛空挺へと主砲を向けて飛んでいくリベリオンは、空中戦闘に特化した船体だ。
「何だ? あの結界は……」
 リベリオンから身を乗り出して前方を確認するキロスは、首領の乗っているものと見られる大型飛空挺の周りを取り囲む魔力のバリアを目に留める。
「ま、聖杯を持っているとなりゃ、相手も厳重に警戒するわけだ」
 母艦と見られる大型飛空挺の周囲を、中型の飛空挺数隻とペガサスライダーたちが旋回している。
「バリアだけじゃないな。まずは、あの飛空挺を取り囲むペガサスライダーの部隊を切り離したいところだ」
 キロスの言葉に、隣に立つ鬼院 尋人(きいん・ひろと)が大型飛空挺の周囲を旋回するペガサスたちを見て答える。
「早速来るぞ」
 首領の大型飛空挺を囲むようにして飛んでいたペガサスライダーの空賊たちが、リベリオン目掛けて突撃してきた。
「ペガサスライダーは俺が引き受ける!」
 尋人はペガサスの上からリベリオン目掛けて銃を撃つ一人の空賊に目を留めると、船縁に駆け寄りひらりとその身を空に踊らせた。
 飛空挺から飛び降りる尋人の体を、どこからともなく現れた聖邪龍ケイオスブレードドラゴンが受け止める。
「お前らの相手はオレだ!」
 尋人
 その後ろから、2人のドラゴンライダーと一隻の中型の飛空挺が姿を見せた。
「あの飛空挺、魔術師が乗っているわ」
 ワイルドペガサス・グランツに乗った桜月 舞香(さくらづき・まいか)が飛空挺に乗っている初老の魔術師を素早く見留めた。
 魔術師の乗る飛空挺にも、母艦と同じようにバリアが張られている。
「まずは、あの魔術師から倒してやるわ!」
 舞香のペガサスは、勢い良く天へと駆け上っていった。
「空賊が更生してほしいという説得に応じてくれればいいんだが……まぁ、素直に言って聞くような連中なら空賊などやってないだろうな」
 スレイプニルに乗った源 鉄心(みなもと・てっしん)の隣で、ワイルドペガサス・グランツのレガートに乗ったティー・ティー(てぃー・てぃー)がドラゴンとペガサスを交互に見る。
「空賊だけじゃなくて、ドラゴンやペガサスとも話してみますね。ペガサスや龍が財宝目当ての戦いで傷つけられるのは、見たくないですから……」
「空賊の人たちでも、ペガサスや龍でも、捕虜にできたらわたくしが回復しますですの!」
 炎雷龍スパーキングブレードドラゴンのサラダに乗っているイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、そう言って鉄心たちの後方に退いた。
「ドラゴンの気を逸らしてくれ」
 尋人のペット、イレイザー・スポーンRがワイバーン目掛けて飛んだ。ドラゴンはイレイザー・スポーンに気を取られている。
「覚悟しなさい!」
 舞花が空賊にトワリングソードを振り下ろす。剣は大きく空賊の身を裂いた。
 ドラゴンの上から、空賊が落ちていく。――のを、イコナの乗ったサラダが受け止めた。
「治療するので、動かないで下さいですの」
「な、んでオレなんかを助けるんだ……」
 空賊が理解できないといった表情でイコナを見つめる。その空賊の傷は、見る見るうちに塞がっていく。
「戦っている相手だったとしても、治療してはいけないのですか?」
 イコナの言葉に、空賊は黙って俯いた。

「あなたのご主人は、もう戦えません。どうか退いて下さい……」
 ティーの眼差しが、空賊を落としてもなお火を噴いて暴れようとするドラゴンの眼に正面から注がれた。
 ドラゴンはしばらくティーと見つめ合っていた。――少しの間があって、ドラゴンは静かにその場を引き下がった。
 レガートが嘶く。ドラゴンは天高く飛び上がると、そのままいずこかへと姿を消した。
「風の精霊よ、醜き邪悪なる者に、疾風の裁きを!」
 舞香の振り上げたウインドタクトから風が巻き起こった。魔術師の飛空挺はバランスを崩す。
 だが、魔術師は風を起こしてバランスを整えると、魔力の球を打ち出してきた。
 舞香は飛翔して球を避けると、バリアに突っ込みながら剣を振り下ろす。バリアが一瞬緩んだ。
 鉄心は大気の水分を凍らせ、魔弾を氷の盾で弾き、魔術師と間合いを詰める。
「小癪な……!」
 魔術師は手の内から漆黒の炎の渦を生み出し、鉄心目掛けて放った。
 鉄心は瞬時にスレイプニルの高度を下げると、魔術師の飛空挺目掛けて衝撃波を打ち付けた。爆音と共に、バリアが割れるように消える。
 すかさずティーと鉄心は、魔術師の元に寄った。舞香はトワリングソードを魔術師の首に当てる。
「……これほどの魔力を持っているのなら、もっと別の生き方を選べないのですか?」
 口を開いたのはティーだった。その説得に鉄心が頷く。
「投降すれば悪いようにはしない。生命はもちろん、人としての権利は此方が出来る限り保障する」
 しかし魔術師は不敵に笑うまま、何も答えない。
「降参しないなら、突風を巻き起こして地上に叩き落してあげる!」
「いいや、降参はしているよ。これで私を殺したなら、あんたの方が悪として裁かれるところさ」
 魔術師は舞香に対して飄々と答え、さらに言葉を続ける。
「それで――そこの二人は私を更生させて生かそうとし、あんたは正義の名の下に私を殺そうとする。
 どちらの意思を尊重して、このわたしを扱うつもりだね?」
「……動揺を誘っても、意味はありません。法であなたを裁くのは、私たちではありませんから」
 ティーが静かに答えると、魔術師はさらに不気味な笑みを深めた。
「……あんたたちほど出来た人間とは、関わりたくなかったね」
「なっ……!」
 突如、強大な魔力の波が鉄心や舞香たちを襲った。素早く、三人は飛空挺から飛び立つ。
 魔術師の乗っていた中型飛空挺は、魔力の爆発と共に粉々に砕け、雲海へと消えていった。
「……こちらは、片付いたようだな」
 呼び戻したイレイザー・スポーンを従えた尋人は、キロスにそう言って母艦に視線を送った。
「母艦を取り巻くバリアが消えた――突入するなら今のうちだ」
 キロスの声と共に、リベリオンは首領の大型飛空挺へと近づいていった。