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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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第五話「希望か絶望か秩序か混沌か」

 時間を元に戻そう。……いや、進めよう。
「巡屋に恭順を示していないのは、あと2つ。拠点を転々と変えている御主組と」
 掬宇(エッツェル)の言葉に、美咲が目の前の建物を見上げた。そばにはヤスとファウナがいるのみ。
 巡屋へ下ることをしていない二大勢力の1つ、回天組から話し合いを提案されたためだ。
 回天組みは大通りから最も離れた、街の端に拠を構えていた。とだけ述べると悪の組織じみているが、巡屋と似た気質のある組であった。薬に手を染めず、堅気に迷惑をかけないがために奥へと身を潜めていた。
 C地区が荒れながらも最低限の街として機能していたのはこの組のおかげとも言われている。そんな組からの話し合い。元々暴力が好きでない美咲に断る理由はない。
「気おされてはいけませんよ。腹に力を込め、まっすぐに目をそらさないように」
「はい!」
 祐ハは掬宇と美咲の会話を見ながら、ちらと意識を後方へと向けた。そこには巡屋の構成員や協力者たちがいるはずだった。美咲たちには内密に祐が集めた。――悪い予感がするのだ。
 緊張しながらもどこか興奮した面持ちをした美咲が、組のものだという男に案内されて屋敷へと足を踏み入れる。祐とファウナも後を追う。
「……? 静か、ですね」
「オジキはうるさいのが嫌いでねぇ」
 スキンヘッドの男の背を祐が睨む。暢気な美咲の腕をつかんで引く。
「え?」
 驚く美咲の目の前に、槍が降り注ぐ。もしも祐が腕を引かなければ、美咲の体は串刺しになっていただろう。ファウナがすぐさま外の応援を呼ぶ。
「――血の匂いがするな」
「あーあ。さっさと死んでおけば楽に死ねたのに……回天のやつらみてーによ」
「! それってどういう……あなたたちは一体」
「離れろ!」
 動揺する美咲の肩を、掬宇が叩く。美咲はどうして言いか分からずに掬宇を見上げ、悲鳴を上げた。
 美咲が腕を交差させたのは、本能に近かった。細いその腕に、掬宇の腕が突き刺さる。もしも両腕を交差していなければ。祐がその体を突き飛ばしていなければ。心臓を一突きされていただろう。
 後ろへと倒れこむ美咲を、ファウナが抱きとめる。
「掬宇さん……なんで?」
「どうして? 決まっているじゃないですか。困るからですよ」
 ファウナの手から放たれた炎が掬宇に向かい、その身を焦がす前に何かに阻まれる。だが意識をそらすことには成功し、死角からの祐の攻撃が掬宇の皮をはがした。
 皮の下から現れたのは、まったくの別人。クルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)を体内に取り込んだ元エッツェルという人間、ヌギル・コーラスがにたりと笑った。
「混沌と災厄のために……秩序が出来上がるのは避けたいのですよ」
 本性を現したヌギルに、スキンヘッドの男も驚いていた。仲間と言うわけではないらしい。
 腕を振り上げた彼だったが、聞こえる足音に眉を寄せた。目をやれば巡屋の仲間たちの姿が見える。そもそも暗殺は気を抜いた瞬間に影から行うのが鉄則。失敗した以上、ここにこれ以上いるのは得策ではない。
「暗殺は失敗、ですか。仕方ありません。今回は退くとしましょう」
「てめぇっ待ちやがれ!」
 スキンヘッドの男が「予定が狂った」とヌギルを掴もうとしたが、腕がないことに気づいて悲鳴を上げた。
「腕が! オレの腕」
 ヌギルは気にせずに天井を破壊し、視界を覆いながら撤退していった。ファウナが後を追いかけたのを祐が制する。美咲の傷も深い。深追いは禁物。さらに言うなら、敵はヌギルだけではないのだ。
「美咲! だいじょ……これは、一体何が」
「話は後だ。今は」
「しんがりはオレたちに任せろ」
「お前らの相手はあたしらがしてやるよ」
「ちっ、邪魔が入ったが、俺らのやることはかわらねぇ。やっちまえ!」
「巡屋を殺せ!」
 美咲を護衛しながら後退していく中、敵を動きを見て違和感を覚える。

(一網打尽にしようとしていたわりには、数が少ないわね。外に敵はいなかった……やつらの目的は別?)

 この後、美咲たちは何とか敵を返り討ちにすることが出来た。回天組ではなく、彼らは御主組の者と判明。回天組はというと……全員殺されていた。


***   ***


「……ここをこう、でいいのか。ふんふん。なるほど」
 不思議な壁に囲まれた遺跡内で、土星君の指示の元。壊れた土星君ABCDを修理していく。修理と言っても応急措置であり、土星君のように意思を持って動き出すことはないらしいが。
『わし1人の力じゃあけられへんからな』
 そういう土星君はどこかさびしげだ。
「ああっ輪っか様ぁ」
 皆で一生懸命修理する中、1人だけあまった輪っかを手にいろいろ妄想していたが、深く気にしてはいけないのだろう。きっと。
「で、これをどうするんだ?」
『部屋の角に一体ずつ置くんや。輪っかも忘れんなや』
 指示通りに起き、下がっていわれたので全員その場を離れる。土星君が部屋の中央に降り立つと、土星君A〜Dの輪が動き始める。同時に、ごごごと音を立てて、奥の壁が上下に開き始めた。
 その動きをじっと見つめる土星君の額(がどこかは良く分からないが雰囲気で)に汗が浮かぶ。扉が開ききるころには、肩で(やっぱりどこが肩なのかはよく分からない)息をしていた。
「お疲れ、サターン」
「お疲れ様ですわ」
 土星君をねぎらいながら奥の部屋へと入れば、皆がぽかんと口を開けた。
 そこには数え切れないほどの土星君がベルトコンベアの上にいた。工場。そういうのがまさしくふさわしい。
 さらに奥へと目を向ければ、何に使うのか分からない部品を作っていたらしい機械もある。
「なんか窓があるよ」
 窓を覗いて見れば、アガルタを一望できた。
『そこから移動式住居の製造工程を確認しとったんや』
 いつもより元気のない土星君の声が説明してくれた。
 不可思議なものがたくさんある中、土星君は続ける。ニルヴァーナ人を探す装置をつくるために、いくつかの部品を探してほしいとのことだった。正確に言うと、土星君と同じ存在を探す装置らしい。なんでも、外へ逃げるニルヴァーナ人のもとには土星君の仲間がつき従っているのだとか。
 土星君が図を描きながらパーツについて説明していく。同じ形でも大きさがいろいろあるらしく、うろ覚えだという土星君の記憶を頼りに分かれて探索する。
「……さて、と」
 それぞれの持ち場へと散った調査隊を見送ったエヴァルトが、後ろを振り返った。
 銃声が響き、扉をくぐろうとしていた影が足を止めたのを見てエヴァルトは扉の開閉スイッチ(中からは簡単に開閉できると説明を受けた)を操作した。こそこそとあとをつけていた影が慌ててこようとするのに銃を向けると、影は悔しげな顔をしながら扉の向こうと消えていった。

 2時間ほど全員でパーツを探した後、作るためには移動式住居へ帰らなければならないと言うので、今日はここまでにして。全員で遺跡の出入り口へと向かう。
 帰るだけと言うのに武器を構えているのは、エヴァルトの話を聞いたからだ。十中八九、待ち構えていることだろう。扉が開いていく。
 開ききる前に、壁を駆け抜けたセレンフィリティが先制攻撃を仕掛けた。虚をつかれた敵が一瞬怯んだのを見て、それぞれも飛び出す。
「いくよ、瑠璃!」
「合点承知なのだ!」
 勇者らしく立ち向かうなぶら瑠璃。その隣で意識を集中させていたベアトリーチェが手を振り下ろすと、光の目が敵へと降り注ぐ。
「もうっしつこい人は女の子に嫌われるんだから! ね、ベアトリーチェ」
「はい。そのとおりですよ」
 美羽がスカートをひらつかせながら光の雨で動きを止めた1人を蹴り飛ばす。陽一は背後に土星君とセレスティアーナをかばいつつ、時折飛んでくる流れ弾をはじく。
「土星君。セレスティアーナ様。動かないでください」
「お、おう」
 おびえつつも返事をしたセレスティアーナだったが、横から声が聞こえなかった。土星君は、相当疲れたのか。――いや。ヒプノシスを使われたらしく、意識が混濁しているようで、その手からパーツが零れ落ちた。
『あ!』
 声につられて皆の視線がパーツに向かい、敵がソレに飛びかかる。
「させるか!」
 エヴァルトが足払いをして体勢を崩す。その間にサイコキネシスでパーツを敵から引き離したのはセレアナだ。
「サターンが勇気出したんだ。うばわせねーぜ!」
「努力せずに結果だけ奪おうなんてさせないよ」
 土星君に近づいていた影をが刀で防ぎ、北都が土星君を癒す。
「ちっ。退くぞ」
 敵は不利を悟り、すばやく撤退していった。その整然とした様は、しっかりした命令系統があるように見え、厄介な組織に狙われたものだと土星君は他人事のように呟いた。


***   ***


 
「どういうつもりなのかしら」
 悪世の声に、三郎景虎は何がだ? と問うた。土星君を捕まえるために指示を出そうとした悪世の前に立ちふさがったまま、淡々と告げる。
「俺のやるべきことはぼでぃーがーど……つまりは貴公の護衛。殺気を感じたがための行動だが?」
 ああ。視界をふさいでしまったのは申し訳ないが。
 淡々と言ってのける景虎を、じっと見ていた悪世は、「ふんっまあいいわ」と目をそらした。指を景虎につきつけ

「あなたは首よ。本当なら本当に首を切ってあげたいところだけど、良いものも見れたし見逃してあげるわ」
 首をくいとやると、側近が景虎に茶封筒を渡してきた。
「それを持ってさっさと消えなさい」
 不機嫌そうに言いながら口元の笑みを消さない悪世に背を向けた景虎は、振り返ることなく遺跡を去っていった。悪世たちがそれ以上手を出さないと理解したから。

 少なくとも『今』は。


***   ***


 後日。移動式住居にて。

 土星君がそれらを組み立て、いとも簡単にできあがったのは懐中時計に似た形の探査レーダー。手のひらより少し大きい。
 土星君が深呼吸した後に上の突起のようなところを押せば、緑色の画面に黄色い光が点滅した。中央の黄色はおそらく土星君に反応している。だがもう1つ。別の箇所にも点滅が見え、そしてそれはわずかに移動した。つまり――。
 土星君の小さな目から涙が零れ落ちた。

 仲間は。彼の家族は、生きている。