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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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【すちゃらか代王漫遊記】任侠少女とアガルタの秘密

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第三話「そしてシリアスは唐突に終わるので、気を抜いてはいけません」

『まあ、遺跡が関係しとるんやろう。ここの遺跡。その奥の部屋はわしらやないと開けられへんようになっとる』
「わしら?」
『わしと同じ機晶生命体。もしくはわしらを作った存在――ニルヴァーナ人のことや』
 観念したように、土星君はぽつりぽつりと語り始めた。
 ここ、アガルタは元々、移動式住居が作られた場所であったこと。土星君が生まれたのもここで、ここには彼のほかにもたくさんの機晶生命体が作られた。いわば土星君の故郷とも言える。遺跡から見つかった土星君と似たものは、襲撃された際に壊れたものや作りかけのものなのだ。
 そう。襲われたのだ。この場所は。

『逃げる者と、逃がす者に別れて……わしは逃げる方やった』

 目を閉じれば、詳細にそのときの光景がよみがえる。
 崩れる建物。化け物の鳴き声。逃げ惑う仲間たち。逃げるものを助けるために化け物へ向かっていった者たち。機能を停止していく同僚たち。
 そんな『最後』の光景と、生まれてすぐに見た自分の親たちの笑顔。歓声。そんな『最初』の光景が重なって、どうしようもなく苦しくなって仕方がない。それに――。

『わしかて、このまままたこの地が荒廃していくのは嫌や。たしかにあの場所にはバラバラになってもお互いを探せるよう、ある機械の部品が置いてある。あの人らを探し出せれば、方法が見つかるかもしれん。
 やけど……これだけ経っても帰ってこんいうことは……』
 もういないかもしれない。死んでしまったのかもしれない。
 一度あきらめ、もう一度わいた希望。それが絶望へと変わるのは、耐えられそうにない。
 土星君は言い終わると、自嘲気味に笑った。彼自身、このままではいけないということは分かっていた。だが一歩踏み出せない。
「ま、無理にとは言わないけどよ。
 でも黒い砂に覆われて、この世界が無くなったらオレは寂しい。寂しいのは、きっとオレだけじゃないと思う。お前の仲間たちだって」
『…………』
 しばし無言の後、昶が口を開き、手を差し出した。
「一緒に行こうぜ。帰ってきたくても、帰られない事情があるのかもしれない。サターンだって、本当は会いたいんだろ?」
「土星君・壱号様……どうか、一緒に」
 クレアも優しく笑い、その手から優しい力を土星君に注ぎ込みながら、一歩を後押しする。
 土星君は、それでも逡巡し、視線は手と地面を交互に行きかう。
 誰もが優しく見守る中、耐え切れなくなった人がいた。

「もうっキン◯マちゃん、さっさとお選びなさい!
 あなたの使用済みの汚れた輪っか様に『レオーナ・ニムラヴス所有』と油性ペンで書かれるのが良いか、それとも遺跡の探索に一緒に来てもらって、まだ純潔な貞操を保った輪っか様を見つけに行くか!」
『誰がキン○マか!』
「そこっ?」
 さっきまでの沈んだ顔はどこへ行ったのか。土星君は眉を吊り上げ、怒鳴る。がおーっと、顔を上げ、差し出された2人の手の上に乗る。

『いったろうやないかい! そんでさっさと輪っかを貴様に渡して、もう二度とキン○マとか言わせへん!』

 うおおおっ!
 よく分からないところで燃えている土星君に、

「うむ……よく分からんが、元気になったのだな」
 さっぱり事態を把握していない代王が暢気に「よかったよかった」とうなづいていた。――めでたしめでたし?
「そうそうその意気よ、土星君」
「セレン。お願いだから煽らないで」

「あ、遺跡といえばグラちゃん。考古学の知識生かして、セレちゃんたちと一緒に調査に向かってくれないさね? そのときにハーブとか見つけたら、採ってきてほしいさ。もちろん後は珍しいのも発見してくれるともっと嬉しいさねー。
 価値に応じて借金を減らすから宜しくさねよ?」
「……ほんと、マイペースだよな」
 何事もなかったかのように通常業務へ戻っていたマリナレーゼの声に、ベルクは感心したような、呆れたような声を上げた。
「でも店は」
「大丈夫です! こちらは私たちがいますので」
「そうですよ。あ、でも無理はしちゃ駄目ですよ」
「……まあ、こっちのことは俺たちに任せて、行って来い」
「うん。わかった」
「ということで、セレちゃん。グラちゃんたちも一緒に遺跡へ連れて行ってほしいさね」
「おう! かまわないぞ」

 てぃらりたったた〜! セレスティアーナ一向は新たな仲間を手に入れた(?)。


***   ***


 と、そんなこんなで感動(?)な出来事があったとは関係なく、遺跡に一足早くたどり着いていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は土星君に似た丸い物体を見て首をかしげていた。
「なんだこれ?」
 こんこんっと叩いてみると表面は少し柔らかい。だが欠けた箇所から見える金属らしい部分は硬い。そしてどうもそれは、この壁と似た素材らしかった。頑丈そうなソレを見て、ふむとうなづく。
「材質が似てるな。壁の方はもっと硬い感じだけど」
 そして何を思ったのか。壁に向かって銃を放つ。銃弾は壁に当たり、エヴァルトの元へと「ただいま!」と言わんばかりに元気よく帰ってきた。
「うおっ」
 首を傾けることでソレを避け、しかし後ろの壁に当たって「いやん、受け止めて」と言わんばかりに元気よく帰ってくる銃弾。
「あぶねっ」
 右足を上げることでソレを避け、しかし再び「そろそろあきらめろ」と言わんばかりに元気よく帰ってくる銃弾を、し。ーのポーズで避ける。
 もう一度来るかと警戒したエヴァルトだったが、銃弾のほうが耐えられなくなったらしく、壁に当たって砕け散った。
 反対の壁には傷一つついていない。多少汚れはついたようだが、手で払うとソレもなくなった。
(つなぎ目の弱いところ狙ったんだが……こりゃ厄介そうだ)
 いや。簡単な方法ならある。土星君を連れてくればいい。しかし本人は嫌がっているとエヴァルトは聞いていた。入り口と思われる壁に触れながら、それを開く術を探す。
(俺たちだけで開けられるなら、わざわざ最奥まで、嫌がっている土星君とやらを連れていかなくてもいいしな)

「へぇ〜。見たことない構造してるね」
 壊れた土星君に似たものを拾い上げた笠置 生駒(かさぎ・いこま)が、破損部分から中の構造を見やる。言葉通り、知識の中にない不可思議な内部構造に興味深そうだ。
(整備士として、アガルタのことを知っておこうと調査に参加したけど……予想以上に面白そうだね)
 生駒は土星君に似たもの(以下、土星君C)にドライバーを突き刺した。
「えーっと、ここがこうなってるから……こうしたら治るはずっ」
 バチッごおっ。
 大きな音を立てて火花が散って、前髪の一部がこげた。「あー失敗した」と額をぬぐいながら、生駒は再びあちこち触り始める。
「まったく。あまりいじりすぎて周囲に迷惑かけないようにするんじゃぞ」
「うん……あ。そうか。ここがこう?」
 分解し始めた生駒に猿――ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が声をかけた。はたして、聞こえたのかは分からない。というより聞いていないだろうが、ジョージは「やれやれ」と苦笑し、生駒を放って遺跡を探索することにした。
 とはいえ、そう広くない部屋なので歩き回るというほどではないのだが。
「ん?」
 その時、何かを踏んだ感触に気づいてジョージは歩みを止めた。平たいソレは、壁の色と近かったため見逃したようだ。
「輪っか?」
 どこかで見たことのあるソレは、土星君のチャームポイントとよく似ていた。ソレをもって、生駒の元に向かう。
「生駒。これなんじゃが」
「うんうん。わかって……っ!」
 その一瞬――生駒の手の中にある土星君Cの目の部分がかっと光った。輪っかがかすかに回転し、すぐに止まる。生駒が首をかしげた。
「……本体輪っか?」
「違うと思うがの」

 輪っかと土星君Cの関係はなんなのだろうかと生駒とジョージが真剣に話し合っていると、そこに動く土星君C……じゃなく、土星君たちがやってきた。もちろん、セレスティアーナもいる。
『うおおおおおっやったるでーーーーーーーーー!』
 真っ赤に燃えている土星君の瞳の奥は、しかし不安げに揺れていた。


***   ***


「ルカ。コーン・スーが遺跡調査に協力することになったらしい。俺も手伝いに」
 土星君から連絡を受けたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、それならば自分も行こうと決め、パートナーを振り返る。
 前に、肩をつかまれて振り向かされた。
「……この手はなんだ?」
「手伝ってね」
「だから俺は」
「そんなこと言わずに……初回出動だけでいいから」
 お願いっと手を当ててダリルに頼み込んでいるのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。かなり必死な様子だ。
 というのも今回、ルカルカは『シャンバラ・セキュリティ・システム(SSS)』のアガルタ支所をA地区に作ったのだが、警備保険会社としての地位をここアガルタで築くためにも、最初が肝心。ダリルの力をぜひとも借りたいのだ。
 特に今はC地区が大きく揺れているがゆえに、チャンスでもある。
「C地区が変な人の手に渡ったら大変でしょ?」
「たしかにな。だが無法者の手に落ちなければいい。多少の治安の悪さは構わんだろう」
 その方が発展するんだよ。こういう街は。
 息を吐き出しながら言ったダリルに、ルカルカは笑顔で「ありがとう!」と言った。無法者の手に落ちない程度には手伝ってくれるそうだ。
「パトロールなんだけど……ルートは」
「……そうだな。だがあまり俺たちはでしゃばり過ぎないほうがいいだろう。中のやつらがやらなければならないこともある」
「う〜ん。そうすると」
 相談してルート、社員の配置をてきぱきと決めていく。阿吽の呼吸だ。
 もちろん、自分たちもパトロールに向かう。C地区の中でも治安の悪い場所と聞いていたためだが、事実。数歩歩けば、小汚い格好をした男たちに絡まれた。あまりにも簡単に引っかかったことに、ダリルが眉を寄せ、ルカルカが思わず苦笑した。
 話し合いをする時間すらない。
(ま。手間が省けていいんだけど)

「どこに消えっぐぁっ」
「ルカはここだよ……って、聞こえてないか」
 目にも留まらぬ速さで接近し、あごに一撃を加えたルカは服のほこりを払った。剣をしまったダリルは、今倒した男の懐から何かを取り出して眉を寄せた。
「……薬、か」
「ほんとに出回ってるんだね」
「政権争いの影響もあるだろうがな」
 ため息をつきながらも連絡を取り、警察に引き渡す。そしてハーリーにも途中報告を行う。ルカルカが、何かを思い出したように手を叩いた。
「政権争いといえば、ハデスも名乗りを上げたって聞いたけど、本当かな?」
「…………」
 ダリルは無言で額を押さえた。
「この地区に見せあるらしいし、あとで行って見よっか。観光がてら」
「……あまり良い予感がしないがな」
 明るく話をしながら、2人はパトロールを続けたのだった。


***   ***


「フハハハ、我が名は天才科学者、ドクター・ハデス! 巡屋一家よ! よくぞ来たな」
 秘密喫茶に響くハデスの笑い声。美咲がびくっと震え、おびえた顔でハデスを見る。そんな美咲の肩をフェイミィがぽんと叩く。励ますために……うん。やましい気持ちなどないはずだ。ない。きっとない。
「美咲ちゃん。大丈夫だぜ。オレの胸に飛び込んでゅあっ」
「大丈夫よ。あなたならできるわ。自信もって」
「は、はい……あの。フェイミィさんは大丈夫なんですか?」
「さあ、頑張って」
 ヘリワードが笑顔でエールを送る。美咲はそれに照れくさそうに答えながら、ちらちらと目線をヘリワードの後方へと送る。そこに何があるのかは聞いてはいけない。
「じゃあ私たちは行くわね。そっちも頑張って」
「はい。みなさんもお気をつけて」
 ずるずると何かを引きずりながらヘリワードたちが去っていく。彼女たちの持ち場へと向かったのだ。部下たちへと指示を飛ばす背中を見つめ、美咲はいつか自分もあんなリーダーにと拳を握った。
 今美咲たちは、いくつかのグループに分かれて支配領域を徐々に増やしている。力で支配領域を増やす組と、それ以外の方法で支配領域を増やす組と。美咲は組の長なので、どちらにも精力的についていっている。
――私も頑張らなきゃ!
「あのっそれで、勝負と言うことなんですが」
「うむ。少し待て。もう1人、挑戦者がいる」
「?」
 ハデスは胸をそらしたままもう少し待てと言った。美咲としては聞き逃せない一言だったが、答えはすぐに判明した。
「たのもーう。フハハハっ! 今日こそ、ボクが秘密喫茶の謎を解いてみせる!」
 ハデスとよく似た高笑いをしながらレキがやってきたからだ。なんで高笑いかと言うと、それが秘密喫茶での挨拶だと思っているからだ。――なぜか毎回のように秘密喫茶に来たときの記憶をほとんど失っているのだが、多少覚えていることもある。
「……ふむ。わらわは見学じゃ。店長のケーキと珈琲をいただこう」
 レキにつられて高笑いを始めたハデス。ソレを見て、自分もしなければならないと思ったのか。美咲まで高笑いを始めたのを、少し離れた位置から見守っていたミアが隅の席に座って、近寄ってきたメイド――ヘスティアにそう注文した。
「って、ミア。何でそんな離れた場所で見てるの?」
「勝負の邪魔にならんようにじゃ」
「そっかー」
 納得しているレキを、ヘスティアが哀れなものを見る目で見ていたが、すぐに厨房へと向かってしまったため、レキは気づかなかった。

「えーと、よくわかりませんけど、いつものパフェを2つ作ればいいんですよね?」
 厨房では高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が勝負に使用するジャンボパフェを作っていた。最近は常連客が少しずつできはじめ、パフェの注文も良く入る。それをパフェが美味しいからだと思っている咲耶は、上機嫌にイチゴへ包丁を下ろした。
「巡屋美咲よ! もっと腹から声を出すのだ。フハハハハハハ!
「ふ、ふはははははは!」
 そんな時、ふと顔を上げた咲耶は、会話の内容は聞こえなかったものの、楽しげに美咲と話している兄ハデスの姿を目に捉え、砂糖へと伸ばした手で塩をつかんだ。そして右手と左手を間違えたのか。スプーンですくったほうではなく、容器の中身を全部ボールに放り込む。
「あ、でも兄さんが他の人と仲良くするのはいいこと……で」
 包丁を再び握った手が生きのいい『食材』を切り刻む。どうも兄の方が気になって料理に集中できないらしい。このままではすごいパフェができてしまいそうだ……ん? いつもと同じか。

 そうしてできあがったパフェを見て、レキはごくりとつばを飲み込んだ。
(パフェ? これってパフェ? たしかに入れ物はパフェだけど……凄い。何でできているのかさっぱりわからないよ。さすが秘密喫茶)
 生クリームに見えるのはどこか半透明にぶよぶよと揺れ、ジャムに見える赤い液体はジャムと言うには黒い。突き刺さった細長い○ッキー? らしきものは、あれ、コレまな板じゃね? と考えてしまいそうなほどに忠実な木目を再現している。
(大丈夫。ボク、好き嫌いとかないし)
 レキは怯みそうになる自身を叱咤し、一口食べた。美咲がびっくりしてレキを見ている。レキはそんな美咲に勝ち誇った笑みを浮かべながら、2口目を放り込む。
(……食べても何の食材か分からない。ボクは一体何を食べてるんだろう)
 それは、きっと知らない方がいい。世の中、知らなくていいことはたくさんあるのだ。
 美咲はそんなレキに押されたのか。ぱくりと一口、二口とジャンボパフェを食べた。負けじとレキも食べる。美咲も食べる。味の感想はどちらも言わない。

 離れた席で勝負を見守っているミアは、とりあえずいつでも回復できるように準備しつつ、ハデスの作ったケーキとコーヒーを堪能していた。実はハデス。料理が得意であったりする。
(ジャンボパフェをレキが完食したとして、しばらくの間は再起不能じゃろう。パートナーの代理として、わらわが支配者として名乗りを上げるのも楽しそうじゃな)
 パフェを食べ切れれば、少なくともハデスたちは味方につく。美咲たちよりもレキが先に食べ終えれば、両方を支配下におけるのでは。そうしたならば……むふ。
 何やら頭の中で妄想しているのか。ミアは非常に機嫌よさそうだった。

 さてさて、勝負はどうなったかと言うと、ジャンボパフェは空になっていた。2つとも。食べきった2人は、同時に床へ倒れこんだ。レキは器用にもテーブルの上に『犯人は、土管○』とダイイングメッセージらしきものを書き残している。
 意味は……謎だ。
「1きのこ2きのこ3きのこ4きのこ5きのこ……1UP」
「はれ〜、レキさん。それ、きのこじゃないです。たけのこですよ」
「そっちこそ何を言ってるんだよ。毒々しいけど、これは1UPきのこだよ」
 気絶したわけではないらしい2人は、2人にしか分からない会話をしていた。幻覚でも見えているのか。

 てぃらりたったた〜!
 レキの『秘密喫茶の挑戦者』LVが上がった! チャレンジャー精神が10上がった。幻のきのこが見えるようになった。
 美咲の『秘密喫茶の挑戦者』LVが上がった! チャレンジャー精神が10上がった。幻のきのこが見えるようになった。
※そんな数値はありません。&きのこの事は他の人に言ってはいけません。自分の心の中にしまっておきましょう。

 結局、レキはC地区の支配に興味がないということで、ハデスたちは巡屋に協力することとなったのだった。