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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第十八試合
セルマ・アリス(せるま・ありす)(葦原明倫館) 対 ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)(蒼空学園)

「燕馬ちゃーんっ」
 新風 燕馬は救護班だが、パートナーの応援時のみという条件で仕事を抜けてきている。患者が次第に増え、忙しくなってきたため、これが終わればすぐ戻らなければならない。ちなみに燕馬は「天使の白衣」を着ているものだから、今も観客席から熱い視線が注がれていた。
 燕馬が見ていてくれさえいれば、ローザは勇気百倍、元気も百倍だ。木刀を頭上でぶんぶん振り回し、
「行くわよー!」
とセルマ目掛けて突撃した。【シーリングランス】を発動しようとしていたセルマは避けきれず、肩を強く打たれた。
「くっ!!」
 一瞬体が沈むが、セルマは辛うじて体勢が崩れぬよう堪えると、ローザが離れるより速く薙刀で彼女の足の甲を突いた。
「いったい! 何すんのよ!?」
「御免なさい!!」
「お返し!!」
 ローザは木刀を真下へ振り下ろしたが、セルマは薙刀をくるりと回転させた。柄の部分がローザの顎を捉える。がつっ、と鈍い音がした。
「ひ〜んっ、痛い〜っ!!」
「あ、す、すみません、御免なさい!」
 ローザは泣きながら、ちらちらと観客席を見た。
「あうー、痛くて動けないー、誰か抱っこしてくれないかなぁー」
「え、あ、俺がですか?」
 セルマは焦った。そんなに酷い傷なのだろうか? もしかして、顎が砕けたとか?
「燕馬くんならもういないのだよ」
 不意に観客席から声がかかった。見ればザーフィア・ノイヴィントが生真面目な顔でメモを取っていた。いずれ当たるかもしれぬ相手の特徴を、逐一書き込んでいるのだろうか。
 それはともかく、ザーフィアの言葉を聞いたローザはすっくと立ち上がり、
「――ちぇ、お色気無駄に振りまいちゃった」
と口を尖らせると、ダークヴァルキリーの羽で自ら救護室へ飛んで行った。
 ぽかんと口を開けたままのセルマを残して。

勝者:セルマ・アリス


○第十九試合
猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)(天御柱学院) 対 奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)(蒼空学園)

「フハハハハ! 我ら秘密結社オリュンポスの真の力、今こそ見せてやるのだ!」
 ドクター・ハデス、再び。恭也は頭痛がしてきた。
「さあ行け、神奈! そして優勝賞金で借金を返すのだ!」
「賞金なんて出ねーよ」
「何ぃ!? そ、そうなのか!?」
 ハデスは愕然とした。あまりの衝撃に、彼の周りだけ亜空間が広がり、そのまま落ちていきそうなぐらいだった。アルテミス・カリストが、
「で、でも優勝すれば、有名になれますよ!」
と慰めているが、悪名だけなら十分売れているので、その必要はないんじゃないかと恭也は思った。
 しかし選手の神奈は、
「了解じゃ、ハデス殿。わらわがこの勝負、勝ち抜いてきてやろう」
と、至ってクールなものだった。一瞬後、はっと何かに気付くまでは。
「あ、べ、別にハデス殿のためではないからなっ、勘違いするでないぞっ!」
 うん、別に誰も勘違いしてないから、と恭也は内心突っ込んだ。
「わらわは奇稲田流剣術正統伝承者、奇稲田神奈! いざ、尋常に勝負じゃ!」
「おう!」
【名乗り】を上げた神奈は、【鬼神力】【オーダリーアウェイク】で身体能力を強化し、【抜刀術『青龍』】【抜刀術】による「二段抜刀術」を放とうとした。
 が、身体能力を強化した辺りで、勇平の木剣が神奈の額を打った。
「何の!!」
 間合いを取る勇平の後を追い、額から血を流しながら神奈は木刀を振り下ろした。右手の木刀が勇平の肩を強く打った。次いで、彼の腰へ向け、左の木刀を横薙ぎにする。
「させるか!」
 勇平は木剣でそれを食い止めた。しかし、強化した神奈の力に耐え切れず、勇平の指から木剣が離れた。取り落とすまいと左手を添えた勇平は、それを軸にして木剣がくるりと回転したのに驚いた。
 ぱしっ!!
「……」
 木剣が、神奈の額を再び打った。
「一本、それまで!」
「何じゃと!?」
 あろうことか、神奈は自分の力ゆえに、敗れたのだった。
 ちなみに神奈の敗北にショックを受けたハデスは無効試合を申し立て、剰え御前試合そのものを乗っ取ろうと画策しているところを発見され、摘み出されたそうだ。

勝者:猪川 勇平


○第二十試合
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)(葦原明倫館) 対 和泉 暮流(いずみ・くれる)(葦原明倫館)

 暮流は割と最近、麻篭 由紀也のパートナーになったため、昨年までの御前試合には参加していなかった。こういった試合を見学することももちろんだが、参加できること自体、得難い経験だと思う。
 思うがしかし。
「……もちろん、参加者に女性いますよね……」
 半径二メートル以内に女性が近づくとアレルギー反応を示す、特異体質の暮流である。近頃は努力の甲斐あって、反応しないこともあるのだが、その条件が今一つ分からない。従って、女性との戦闘など以ての外だった。既に赤い発疹が顔にも出ている。
 長くは出来ないな、と暮流は思った。何より、
「こらー! そこの小僧! とっとと降伏するのです! ご主人様に勝ったら許しませんよー!!」
と、観客席で子犬が吠えているが煩くて敵わない。ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)の口を塞ごうとしたが、噛みつかれそうになったのでやめた。
「よろしくお願いします」
 暮流は腕を掻きながら礼をし、フレンディスは「いざ尋常に勝負です」と木製の忍び刀を構えた。
 早めに――とは思ったが、いかんせん相手が女性のため、暮流は動くに動けなかった。
 お互いに出方を探っている、と察した二人は、これまた同時に動き出した。暮流が木刀を振りかぶるや、フレンディスが懐に入り込み、暮流の脛を打つ。衝撃に、暮流はがっくりと膝を突いた。動けない。
 その動けないでいる暮流を、フレンディスはがっちりと掴まえた。
「ええ!?」
「秘伝忍術――」
「わあああ!!」
 全身に蕁麻疹が広がる。慌てた暮流は、闇雲に木刀を振り回した。がつんっ、と鳩尾へ見事に食い込んで、フレンディスは両目を見開いたまま、一歩二歩下がると、崩れ落ちた。
「ご主人様ァ!!!」
「これはダブルノックダウン! さあ、どちらが先に立つか!?」
 恭也が嬉々としてカウントを始める。
「フレイ! しっかりしろ! 今なら間に合う! 立てる! 勝てるぞ!」
「ご主人様! エロ吸血鬼の言うことを聞く必要はありませんが、立ってください!!」
 生憎、暮流への声援はなかった。パートナーの麻篭 由紀也は控え室にいるはずだが、そういえば瀬田 沙耶(せた・さや)はどうしているだろうと観客席に目を向けると、ローザマリア・クライツァールを挟み、ハイナと談笑していた。そこだけ、ハイソサエティのお茶会のようだ。
 フレンディスが腕の力だけで体を起こした。カウントはシックスを数えたところだ。
「よしっ、そうだ、頑張れ!」
「ご主人様、しっかり!」
 声が掛かるたび、フレンディスの体が起き上がっていく。
 一方の暮流は、脚の痺れが一向に回復しない。こちらも腕の力で体を支えようとするが、立つことは無理だった。
「ナイーン――よーっしゃ!」
 フレンディスが暮流を見下ろしていた。
「あの……大丈夫ですか?」
 暮流は小さく笑った。敵に同情されるようでは、まだまだだ。
「ええ、少し休めば」
「大変です! 救護所へお連れします!」
 フレンディスは暮流の手を取り、自分の肩に回した。――その瞬間、暮流の全身を蕁麻疹が覆い、彼は全治一週間の診断を下されたとのことである。

勝者:フレンディス・ティラ 入院:和泉 暮流