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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ペア部門−斎藤&大石VSヴェルリア&フレリア−


 観客席からパートナーたちの試合を観戦していた柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は二人の戦いぶりを見て感嘆の声をもらした。思った以上によくやっているといった印象だ。
「二人ともー! そのままいけば勝てるぞ!! ……頑張れよ」
 戦いに集中している二人にその声が届いたかは分からない。
 だが諦めずに立ち向かっている姿は見る者を引き込む魅力があった。
(さて……勝利の女神はどちらに微笑むか。見た感じヴェルリアたちの方が実力は上のようだけど、遠距離対策をしないらしいからそれが吉と出るか凶と出るか……)
 彼の視線の先、刀の男とと対峙するフレリアの姿があった。

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「腕の一本や二本、駄目になっても知らねえぞ!」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)の斬撃がフレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)の腕に紅い筋を残す。重症というほどではないが血が伝うほどには深く斬り込まれた。
「――ふぅっ!」
 だがそのダメージは織り込み済みだったのだろう。
 彼女は気にする様子もなく大石の間合いの内側に身を滑り込ませると打撃を与えた。
 一発、二発、と彼の腕や肩に拳がめり込んだ。
「ちいっ! 足が速いな」
 痛みはあるものの致命傷にはなりえない。
 ハツネの打撃と比べればワンランク弱い、そう判断すると大石は笑みを浮かべた。
(思い切りも悪くねえが――)
 彼は拳を避けて体勢を崩しつつあるフレリアに足払いをした。
 刀を警戒していただけに予想外だったのだろう。彼女は自分の身体を支えきれずに転倒してしまった。
(フレリアお姉ちゃん動かないでっ!)
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の声が直接頭の中に届いた。
 彼女の言葉通り、フレリアは身動きせず迫る刃を見つめる。

 ――ガキィンッ!

 刀が弾かれた。
 強い衝撃に大石はたたらを踏んだ。
「不可視の罠か……てめえ拳闘家にしちゃあおもしれえ隠し玉もってやがるな」
「そうそう簡単にはやられないわよ」
 にやりとフレリアは笑うがその内心は違っていた。
(あれ……私じゃないんだけどね……)
 ちらりと近くで同じように戦っているヴェルリアに視線を送った。
 そこには氷の壁の間を駆け回る少女たちの姿があった。

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 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が氷の壁の間を逃げるように駆け回る。
 身体はずっと対戦相手に向けたまま、後ろに横にと跳びながら移動していた。
「クスクス……ハツネと遊んでくれて嬉しいわ♪」
 でも、と彼女は続けると手にした鎖をヴェルリアに投げつけた。
 目を細めて楽しそうに笑みを浮かべた。
「余所見はしないで欲しいの」
「そこまで目を離したつもりはないです」
 彼女は衝撃波を放つと鎖ごとハツネを吹き飛ばした。
 その方向には大石たちの姿がある。
「鍬次郎、受け止めてなの」
「ほいっと」
 大石は飛んできたハツネを片手で拾うと立たせた。
 彼女はフレリアとヴェルリアが合流するのを見届けると腕を持ち上げた。
 指先を二人に向ける。
 すると凄まじいカマイタチが生じ、彼女たちに襲い掛かった。
「あぶないです!」
 ヴェルリアはフレリアを抱きかかえると氷の壁を垂直に歩いて難を逃れた。
 まだ戦いは終わりそうにない。

                                   ■

「そこの女の子はギルティが見えてるの?」
 ハツネの問いにヴェルリアが頷いた。
「私はサクシード(継人類)だから……」
 彼女にはハツネの周りにいる不可視の存在、フラワシが見えているようだ。
 その言葉にハツネは嬉しそうに口端を歪めた。
 綺麗なのにぞっとするような笑みであった。
「あんまりやり過ぎんなよ、ハツネ。てめぇの後始末する俺に身にもなってくれよ、全く」
 大石が彼女の前に出ると刀を構えた。
 フレリアとヴェルリアも構えをとった。

 しばらく見合った後、事態は動いた。

 大石の抜刀術による神速と呼ぶに相応しい一撃がフレリアの身体を斬った。
 血飛沫が舞い、フレリアが後方へと押し出される。いや、自ら後方へ飛んでいた。見るからに傷は深いが、彼女はひるむことなく地を蹴ると大石との距離を詰めた。
 驚いた様子で大石は再度構え直すが間に合わない。
 フレリアの拳が彼の鳩尾深くにめり込んだ。
「がはっ……」
 痛みに顔が歪む。
 だが口元には笑みが浮かんでいた。
「やるじゃねえか……嬢ちゃん……」
「……お互い様よ」
 倒れ伏す大石を見て安心したのか、フレリアもその場に座り込んだ。
 
 ヴェルリアたちも動いた。
 彼女は幻影を生み出しながら周囲に球体を展開すると攻撃を行う。
 球体が直接ハツネに体当たりをしたり、レーザーを放ったりとその動きは変幻自在であった。彼女も避けたり防いだりと軽い身のこなしで捌き続けるが、さすがに全てを防ぐことはできないらしく、肩をレーザーで撃ち抜かれたり頭部に球体がぶつかったりしていた。
 ヴェルリアが優位に試合が進むかと思われたが勝負はあっけなくついた。
 距離をとりつつ戦っていたヴェルリアだったが、フラワシの追撃で徐々に距離を詰められてしまう。球体を操り続けて疲労があったのも敗因の一つだっただろう。
「これで終わりなの」
 ハツネの言葉と同時に雷が周囲に広がった。
 避けきれないと判断したのだろう。
 ヴェルリアは球体を前面に配置して防ぎ切ろうとする。
「きゃああっ!?」
 だが防ぎ切れずに吹き飛ばされた。
 倒れる彼女の傍にやってきたハツネを見つめてヴェルリアは負けを宣言した。
「……あなたは強いですね」
「……褒められてるの?」
 ハツネの問いにヴェルリアは頷いた。
 嬉しかったのだろうハツネが両手を広げて倒れる彼女に圧し掛かった。

 ストレッチャーに乗せられ運ばれていくフレリアたちを見ながら真司は安どのため息を吐いた。
「大事には至らなくて良かったな」
 彼は観客席から出ると医務室へ向かった。