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リアクション
■幕間:商売繁盛
試合が決すると観客席が沸いた。
その様子を眺めながらセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が口を開いた。
「なるほど、これだけ人がいれば物も売れるか」
「フフフ……見ての通り、祭りや大会は我のアワビと未成年でも飲める酔いどれ酒をアピールする絶好の機会なのだよ。アレを見るがいい」
マネキ・ング(まねき・んぐ)が指示したところにはイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の姿があった。タコ焼きと書かれた旗を背にしながらせっせと売っている。古い時代の映画に描かれている火星人のような見た目の彼はいくつもの触手を巧みに操り、その場でタコ焼きを作っていた。
よくよく見ればその場で自分の触手をカットしてタコの代わりに入れているように見受けられる。あれはたこ焼きと呼べる代物なのだろうか……?
「あれは衛生上問題があるんじゃ……そもそもあれはなんだ? 宇宙人か?」
「あれが商売人よ。売るものがなければ自分を売る。自分を売り込んでおる。我も負けておれんな……メビウスよ、もっとアワビを売るのだ!」
マネキの手伝いをしていたメビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)の声に張りが出る。自分が師匠と呼び慕っている人から頼られている、信用されていると感じたのかもしれない。
「焼きアワビ〜焼きアワビはいかがですか〜? 未成年でも安心して酔える酔いどれ酒もありますよ〜!」
「そこの嬢ちゃん、こっちにアワビ二つくれ」
「まいどあり〜」
彼女たちは順調にアワビの販売を続けられた。
しばらくすると向かい側からイングラハムが左右に身体をフラフラ揺らしながらやってきた。
「おお、商売人ではないか。どうした?」
マネキの声に彼は気落ちした様子で答えた。
「運営側から販売禁止と言われたのだよ……なぜだ」
(いや、何故も何もアレ以外に原因が考えられないだろ……)
がっくりと肩? を落としているイングラハムを見つめながらセリスはさきほど自分を調理していた姿を思い浮かべた。予想でしかないがおそらく当たっているだろう。いや、その考えは確信に近い。
「嫌なことはこれを飲んで忘れるといい」
「かたじけない。このイングラハム、感謝は忘れぬのだよ」
アワビが販売されるなか、観客席では謎の友情が芽生えていた。
彼らが謎の友情に握手を交わしているその近くで不穏な様子で辺りを窺がっている者がいた。
シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)だ。彼女はメビウスから購入したアワビと酒を堪能しながら頭を抱えていた。
「大負けしよったー。参ったわあ。笠置のバイト代全部つこうてしもた……」
彼女はうん、と一度頷くと隠れるようにその場を後にする。
発言からして逃げようとしてるのが見てわかったが気にする者は一人もいなかった。
後日、笠置とジョージに追われる彼女の姿が目撃されるが、それはまた別の話である。