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空京通勤列車無差別テロ事件!

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空京通勤列車無差別テロ事件!

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【松本 恵】

 天空剣士ブレイズガード。
 それが、僕のもうひとつの姿さ。

 僕は、松本 恵(まつもと・めぐむ)
 ヒーローとして悪魔達の所業を放っておく訳にはいかないから、今回の作戦に、特別に参加したんだ。
 パートナーの黄乃 弥生(きの・やよい)が、囮となって悪魔を誘い出すから、のこのこ現れた悪魔を僕がめっためたにブチのめす……それが、僕達の作戦なんだ。
 さっき、冬山小夜子さんが悪魔をひとり、捕まえるのを見させて貰ったんだけど、いやー、見事なお手並みだったなー。
 僕も、負けてられないや。
 でも全く何の情報も無いままじゃ困るから、小夜子さんに訊いてみた。
「やっぱり、悪魔に触られたらエネルギーとか吸われるの、自分でも分かるもんなのかな?」
「えぇ、そうですね……女の性感帯が刺激されたことによる脱力感、というのもあるのですけど、矢張りそれとは別に体力的な消耗が急に来ますので、吸われているというのはすぐに分かりますわ」
 成る程……そうなると、弥生が囮役ってのは、ちょっと微妙かも知れないかなぁ……うーん、まぁ、悩んでても仕方がないや。
 いざ悪魔出現となったら、僕は僕のやるべきことをやるだけだもんね。
 とかいってたら、同じ車両の別のところで、また大きな騒ぎが。
 弥生とふたりで人ごみを掻き分けながら駆け付けたら、女の子三人が、少しガタイの良いスーツ姿のおっさんを取り押さえてるよ。
 えぇっと、確かこの三人は……桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)奏 美凜(そう・めいりん)っていう百合園の生徒さん達だね。
「徹底的にお仕置きよ!」
 舞香って子が、スーツのおっさんをぼっこぼこに蹴り倒してる。
 そうかと思ったら、
「月に代わってムーンサルトよ!」
 とかいいながら、美凜って子が狭い車内を縦横無尽に跳ね回って、倒れたおっさんにムーンサルトプレスを敢行した。こんなに狭いのに、よくやるなぁ。
 でもって、最後に……。
「まいちゃん、お仕置きはあんまり列車を壊さないようにやってね……でも、冒涜された列車の怒りを教えてあげないと」
 そんなことをいいながら綾乃って子が取り出したのは、小型列車砲。
 っていうかさ、駄目だって!
 そんなものをここでぶっぱなしたら、それこそ列車が壊れるどころの騒ぎじゃないよ!
 ヒーローとして、乗客の皆さんに被害が出るのは好ましくないから、僕は慌てて綾乃って子の小型列車砲を抑え込んだ。
「な、何をするの?」
「そりゃこっちの台詞だってばッ!」
 弥生も一緒になって、小型列車砲の封じ込めにかかる。
 一方のスーツのおっさんは、最後に舞香と美凜のツープラトン美脚キックとかいうのを食らって、ノックアウトされてる。
 敵は倒された訳だから、列車砲もひとまず、発射のタイミングが失われた。
 ふー、危なかった。
 ところでこのスーツのおっさん、実際に触られた美凜って子の報告によると、体力が急激に失われる感覚に襲われたって話だったから、例の悪魔のひとりだってことが分かった。
 うーん、またひとり、捕まえ損なったなぁ。

 おかしいな。
 悪魔を捕える筈の天空剣士ブレイズガードなのに、気が付いたら、他のコントラクターの暴走を抑えるブレーキ係になっちゃってるよ。
 このままじゃあ、ブレイズガードじゃなくてブレーキガードだよ。
 今度のやつも、僕と弥生は損な役回りだった。
「あ……やだ……」
 弥生じゃなくて、全然別の子の静かに抗う声が聞こえてきた。
 さては、今度も痴漢登場だな?
 よし、次こそはブレイズガード登場だ。
 といく前に、その痴漢が悪魔かどうかを見極める必要があるんだっけ。
「い、いや……やめて……ください……」
 声の主は、白石 忍(しろいし・しのぶ)って子だった。
 彼女を襲っている痴漢は、僕と同い年ぐらいの若者なんだけど……何っていうか、すっごい気持ち悪い。
 デブでロン毛で、やたら汗っかき。なのに、手つきだけは妙に手慣れてて、いやらしいんだよね。
 こりゃ男の目から見ても、こんな奴に触られたら気持ち悪いだろうなぁって思うけど、多分こいつも、悪魔だと思う。
 こんなキモデブが、女の体の扱いに慣れてる筈がないもんね。
「やっ……あっ……」
 忍って子の下着の中に、キモデブの手がするすると侵入していった。
 触る方も慣れてるんだけど、触られてる方も妙に慣れてるように見えるのは、気のせいだろうか。
 いや、そんなことはどうだって良いか。
 もうそろそろ、限界だね。よし、今度こそブレイズガードで一発、締めてやろう。
 って思ったその瞬間。
「遅れて、すまねぇ! だがここからは、オレ様のショータイムだ!」
 いきなり、女装姿のリョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)って奴が割り込んできて、キモデブに襲いかかった。
 忍って子のパートナーなのかな。
 まぁ、それは良いんだけど……。
「容赦しねぇぜ、オラオラオラ!」
 リョージュって奴がキモデブをボコってるのは、まぁ百歩譲って良いとするよ。でもね……。
「きゃあ! ちょっと、何これぇ!?」
 弥生が慌てて、ひらひらと舞う自分のスカートの裾を押さえた。
 他の乗客のうち、スカートを穿いて女性客も同じように、裾がひらひらと舞い上がるのを必死に押さえつけている。
「おっと済まねぇ、手が滑って風術が発動しちまった!」
 ……犯人は、このリョージュって奴か!
 もう、まぁたこの展開だよ!
 僕は風術の被害が他の女性客に及ぶのを阻止する為に、風術を遮る形で走り回る破目に陥った。
 こんなことやってたら、悪魔逮捕なんていつになるか分かったもんじゃないなぁ。

 またまた、同じ車両内で騒ぎが起きた。
 今度は、河城 和命(かわしろ・わみょう)って奴が、女雨 玉小(めう・たまこ)って子を触っていた奴に攻撃を仕掛けようとしているところだった。
 でも、今度の痴漢はさっきのキモデブとはひと味違うっぽい。
「ふっふふふ、その程度で我ら悪魔に対抗しようなどとは、片腹痛い」
 自信満々に和命って奴の攻撃をかわしているその男は、見た目は凄くガタイが良くて、でも顔は妙に魚っぽい変な奴だった。
「俺と玉小に面倒なことをしたら殺す。間接的にでも関わってきたら殺す。この要求を呑まなければ殺す!」
 和命って奴、どこぞの厨房みたいな決め台詞を淡々と口にしてるけど、攻撃、全然当たってないよ。
 格好良い台詞ってのは、実力が伴って初めて効果があるんだってことを、認識しないとね。
 そう、例えばこの僕みたいに。
「チェンジ! ブレイズガード!」
 いよいよ、僕の出番だ。
 僕はいつもの調子で変身を遂げ、天空剣士ブレイズガードとして、魚っぽいマッチョ野郎の前に飛び出していった。
「ほほぅ、加勢が来たか。どの程度か、見させて貰おう」
 ……何か、腹立つね。
 魚の癖に生意気なんだよ!
「ライジング・ボルテニクス!」
 先手必勝、僕は必殺技を繰り出した……んだけど、何だ? どういうことだ? あっさりかわされちゃったじゃないか!
「ふん、こやつもまた、見かけ倒しの実力不足なお坊ちゃんってところか。こんな奴らでは、我ら七人の悪魔ゲイ人と張り合うなど、夢のまた夢だな」
 何だって?
 悪魔ゲイ人?
 こいつ、一体何なんだ?
「全く張り合いの無い奴らだ。こんな連中を相手にしていても、つまらぬばかりだ」
 いちいち癪に障る奴だなぁ……っていうか、この魚野郎、急に明後日の方向に顔を向けて、誰かと話し出したぞ。
「牛、山、それにカセット。どうやら、この車両には我らと戦い得る強者は居ないようだ。他へ移るぞ」
 いうが早いか、その魚野郎はどんな技を使ったのか知らないけど、一瞬にして姿を消した。
 間違いない、あいつは、悪魔だ。
 でも、他の痴漢悪魔とは何かが違う。
 この特別仕様列車に潜んでいる敵の中には、僕達が思っている以上の強敵が潜んでいるようだ。
 奴らを、追いかけなければ!