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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 同時刻 イルミンスールの森 某所
 
(前回の戦い。あのまま戦っていたら緑のやつ等くらいは俺達だけでも倒せていただろう。そう、あの電子攻撃さえなければ……)
 フラフナグズのコクピットで斎賀 昌毅(さいが・まさき)は怒りを噛みしめた。
 イルミンスールの森を進む機体の中は異様に静かだ。
 聞こえてくるのは風のそよぐ音や、木々が揺れて枝葉が擦れ合う音、あるいは鳥や小動物の声や音のみ。
 戦闘中だというのに警告音はもとより、それ以外の電子音の一つとして聞こえてこない。
 それもそのはず。
 
 移動に合わせて後方へと流れていく風景を映し出しているモニター。
 今、フラフナグズのコクピットで動いている電子機器はそれと外部の音を伝えるスピーカーだけだ。
 動いているのは必要最低限のセンサー。
 もちろん、操縦サポートシステムもオフだ。
 
 今やこの第三世代機はオールマニュアルで動いていた。
 ハイテク技術の塊たる第三世代機。
 それがオールマニュアルで動いているというのは些か不思議なものだ――。
 怒りを噛みしめる一方、昌毅は意識の片隅でそうも考えていた。
 
 ただでさえ複雑な操縦を要求されるイコンという兵器。
 その上、今昌毅が駆っているのは第三世代機。
 第一、第二世代機とよりも搭載されたシステム量も多ければ、総じて機構も複雑だ。
 従来機に比べて操縦性も向上しているが、それも最新型のサポートシステムによる所が決して小さくはない。
 
「あの電子攻撃……やっぱりあの人の仕業なんでしょうか……」
 昌毅の心中を察したように、サブパイロットシートのパートナーが呟く。
 パートナーの少女マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は心配そうな、あるいはどこか悲しそうな顔でモニターを見つめている。
 
「まぁ、恐らくっていうか。アレだけ出来るのは彼女しかいないだろうな」
 答える昌毅の声も静かだ。
 かつては同じ学校の生徒だった相手。
 同じ校章を着け、共にイコンの操縦技術を学んだとある少女。
 彼女が敵側につき、他ならぬかつての母校襲撃の要を果たした。
 
 その事実を改めて認識する昌毅とマイア。
 だが、昌毅は毅然とした表情を崩さない。
 
「彼女が何考えてるかどうかとかは知らんが……受けた傷は3倍で返すのが俺のやり方。そこに知り合いとか関係ないぜ」
 昌毅はコンソールを叩いて兵装データを呼び出す。
 モニター右下に表示された仰々しい砲身のワイヤーフレームイラストを一瞥する昌毅。
「荷電粒子砲で護衛機諸共吹き飛ばしてやる。イルミンや迅竜のメンバーに気を取られていやがれ」
 毅然と言い放つ昌毅の眼前。
 モニター右下のウィンドウは仰々しい砲身を有する件の兵装――そのエネルギー充填率が100%であることを示している。
 エネルギー充填率を示すメッセージの近くにはその兵器の名前が表示されている。
 
 ――Charged Particle Cannon
 
 確かにそう表示された名前を確認し、昌毅はその兵器をアクティブにする。
「だが、迂闊に近づいてあっさりハッキングされてコントロール奪われましたじゃ洒落にならん。とはいえ、ハッキングを防ぐ方法なんてオフラインにするくらいしかわからねぇ」
 コンソールを叩きながら、ぼやくように言う昌毅。
 彼の言葉通り、無線もレーダーもオフライン状態だ。
 そのせいで、海京から直に救援へと駆けつけてからというもの、昌毅はずっと“シュピンネ”を探しまわっていたのだった。
 
「レーダーも無線もオフにしてるとボクのやることないんですよね」
 同じくマイアもぼやくように言う。
 荷電粒子砲は重力や風、それに地磁気などの影響などを受ける兵器である。
 普段の狙撃であれば、それらの影響を計算するのもマイアの役割だ。
 だが、センサーもオフになっている今はそれもできない。
 
 各種センサーによる情報も、サポートシステムによる補正もない状況での長距離狙撃。
 マイアの言葉で改めて突きつけられる事実。
 それでも昌毅は事も無げに言い放つ。
「……問題ないか」
 目を向けてくるマイアに向け、言い聞かせるように昌毅は告げる。
「姉妹校のアカデミーの連中はレーダーなんてなくても問題ないって言うしな。カメラと風の音でいけるとか……あいつらに出来て俺に出来ねぇわけがねぇ。カメラで確認できる位置ギリギリからオフラインのまま手動で当ててやんよ」

 昌毅がそう呟いた直後だった。
 モニターに映し出された木々の合間。
 その向こうに漆黒の機影が映る。
 
 咄嗟に昌毅とマイアは口を噤む。
 コクピットの中の音が向こうに聞こえるわけないとわかってはいても、つい二人は息を殺すようにしてしまう。
 ほぼ身じろぎ一つせず、黙り込んだまま昌毅はカメラをズーミングした。
 
 機影は二つ。
 一方は両肩に付いた紡錘形の追加パーツでどの機体なのかすぐに判別がついた。
 もう一方はというと、重火器タイプに似ているところまでは確認できている。
 だが、どこかが違うように思えるのだ。
 
 とはいえ、そうした違和感を気にしていてもしかたない。
 昌毅は慎重に照準をつける。
 いつもは自動で動き、標的に重なるターゲットサイト。
 それも今は手動だ。
 
 行き過ぎないよう、細心の注意払ってごく僅かに操縦桿を倒す昌毅。
 操縦桿を少しずつ傾け、じっくりと照準を合わせていく。
 
 ややあって照準の合った状態で、昌毅はトリガーに指をかけた。
 ターゲットサイトの中にいるのは一対の紡錘形パーツを持つ漆黒の機体――“シュピンネ”。
 
(このままというのも居心地悪いですからね。遠隔のフラワシで外因の影響が出ないようにサポートしてみるとか、僥倖のフラワシだして当たるように祈るとかしてみましょう……)
 
 静かに行動を起こすマイア。
 息を潜めているせいで、口に出すことはない。
 すぐに行動を終えたマイア。
 そして彼女はあることに気付く。
(結局、ただ祈るのと変らないじゃないですか〜)
 
 彼女が胸中で再びぼやいた直後。
 昌毅はトリガーを引いた。