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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 一方その頃、鎧竜と“フェルゼン”bisが戦っているすぐ近くでは鳴神 裁(なるかみ・さい)フェオン桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)レーヴァテインが濃緑色の“フェルゼン”と戦いを繰り広げていた。
「ごにゃ〜ぽ☆ いかに装甲が硬かろうとも、戦いようはあるんだよ☆ ふふ、魂まで吸い尽くしてあ・げ・る♪」
 魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を纏い、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を纏ってフェオンの操縦に臨む裁。
 そのおかげで、裁の身体はフェオンの凄まじい機動性による負荷に耐えることができていた。
 それだけではない。
 今の裁は纏う雰囲気はもちろん、見た目がいつもと違っている。
 髪色は銀に変化し、髪型もロングウェーブだ。
 瞳の色も青から赤へと変わっている。
 こうした変化のせいだろうか。
 いつもの可愛らしい印象からは想像もつかないほど、今の裁は妖艶な印象を受ける。
 
 それもその筈。
 なぜなら、今の裁は裁であって裁ではない。
 ユニオンリング――そう呼ばれる道具の力により、パートナーの一人であるアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)と合体しているのだ。
 もちろん、恩恵は外見や雰囲気の変化だけではない。
 痛みに対して耐性を持つアリスの体質を得たおかげで、裁の身体はフェオンの搭乗負荷に対して更に強くなっていた。
 
 高い耐性にあかした無茶な機動で“フェルゼン”を翻弄する裁。
 そのままフェオンは黒色チャクラム・ホロウをフープに、機晶制御テンタクルをリボンに見立てた攻撃をしかける。
 ――格闘新体操。
 裁の十八番とする格闘術だ。

 新体操で重視されるは身体の柔軟性および頭頂から指先までの意識の通った体躯の制御。
 そして、なによりも特徴的なのは”手具を持った状態での移動術”。
 多彩な手具を操りつつも、己の生命線であるスピードを殺さないその移動方法は格闘にも充分に応用が可能なのだ。
 現代において、物を手に持った状態での移動を前提としたスポーツは少なく、上記の利点を活かしつつも科学的トレーニングの確立した数少ない選択肢。
 それが格闘新体操だ。

 一方、“フェルゼン”は重装甲とは思えないほどの激しい動きで拳を繰り出す。
 しかし、フェオンの機動性の前にはそのすべてが空振りに終わる。
 しばらく避け続けていたフェオンだったが、フックを避けた直後に反撃へと転ずる。
 フープを投擲するフェオン。
 投擲の直後、フェオンは流れるような動作でフープの追走へ入る。
 並のイコンを圧倒する機動性を活かし、なんとフェオンはフープを追い越してみせる。
 フェオンの動きは留まるところを知らず、更にリボンでの攻撃を繰り出す。
 
 フープに対応しようとしていた所に来たリボンの攻撃を咄嗟に左のガントレットでガードする“フェルゼン”。
 しかし、その直後にフープが追い付いてくる。
 それにも“フェルゼン”は咄嗟の動きで右のガントレットを構えて反応する。
 ガードされ、弾かれるフープ。
 だが、それも裁の計算のうちだ。
 リボンを再び放ち、それをフープに絡めることで引き戻すフェオン。
 そのままフェオンはリボンとフープをフレイルのように振り回して“フェルゼン”を殴打する。
 
 全身装甲でフープの滅多打ちに耐える“フェルゼン”。
“フェルゼン”がガードに集中したのを見て取り、裁は更に新たな攻撃を繰り出す。
 ガード集中した“フェルゼン”に向け、サンダービームを放つフェオン。
 それに“フェルゼン”が怯んだ隙を近遠達は見逃さなかった。

『失礼致します。今回も装甲破壊の前段階は我々が』
『E.L.A.E.N.A.I.もシャルルマーニュもまだ動けますからね』
 シャレンと近遠の通信がフェオンに入る。
 操られたアルマイン・マギウスから攻撃を受けたものの、まだかろうじて動ける二機は必死に武器を構える。
 損傷した機体とはいえ、まだ攻撃を放つだけの余力は残っている。
 ただし、万全の状態と比して時間がかかってしまうのは否めない。
 
 二機からの追撃を察知した濃緑色の“フェルゼン”。
 濃緑の“フェルゼン”を狙う追撃は魔法攻撃――。
 当然、狙われる側もそれは既に知っている。
 
 装甲に優れる“フェルゼン”タイプにしては珍しく、追撃の射線を向けられている敵機は防御集中以外の方法を取った。
 頑強な装甲に任せて防御し、その上でじっくりと確実に仕留める。
 その方法ではなく、“フェルゼン”は追撃の魔法攻撃が放たれるよりも前に二機を仕留めにかかった。
 
 重装甲だけではなく、それを纏った上でも十分に動ける馬力も“フェルゼン”の持ち味だ。
 見た目とは裏腹に軽快とすら言える動きで迫る“フェルゼン”。
 損傷した二機ではそれに対応しきれない。
 
 二機へと“フェルゼン”の拳が叩き込まれる寸前――。
 “フェルゼン”の装甲に銃撃が炸裂する。
 
 咄嗟に銃撃の方向を振り返る“フェルゼン”。
 その先にいたのは、ハンドガンを連射するウィンダムだった。
『ごにゃ〜ぽ☆ 朋美、来てくれたんだね☆』
『助かった。感謝する――』
 すかさず裁と煉の声が通信帯域に響き渡る。
 同じ学校の仲間が絶妙なタイミングで救援に駆けつけてくれたことは、単純な戦力の向上というだけの効果に留まらない。
 精神的な面でも大きな助けとなり、裁と煉の力を向上させる。
 
『こちらウィンダム。天学の高崎 朋美(たかさき・ともみ)だよ。キミ達二機を援護する――ボク達が喰いとめている間に魔法攻撃のエネルギーをチャージするんだ!』
 E.L.A.E.N.A.I.とシャルルマーニュに向けて通信を入れる朋美。
 それに続いて朋美の相棒であるウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)も声を出す。
『そういうことだ。ここは俺達に任せろ』
 端的なウルスラーディの言葉。
 それと入れ替わりに再び朋美が口を開く。
『ボク達の利点は、迅龍をはじめとして、イコンの補給・整備艦がついてきてくれていることだよ。敵機のスペックの詳細は未知だけど、高出力でハイパワーを出す機体であればある程、エネルギーの消耗も激しく、駆動可能時間は短くなる筈』
 朋美の言葉が通信帯域に聞こえると同時、ウィンダムはフルブーストで“フェルゼン”へと突っ込んだ。
 既にハンドガンはハードポイントに格納されている。
 今のウィンダムはフリーハンド。
 あわや激突せんばかりという勢いで“フェルゼン”へと肉迫したウィンダム。
 至近距離真正面からウィンダムは空いた両手を“フェルゼン”へと伸ばす。
 なんとウィンダムは“フェルゼン”の両腕を掴み、力任せに抑えにかかったのだ。
 
『ウィンダム――ジェファルコンはトリニティ・システムを搭載した機体……それだけじゃない、いわば現行機の一つの到達点ともいえる機体。なら……こんな無茶だってできる筈っ!』
 
 裂帛の気合を放つように叫ぶと朋美。
 同時にウィンダムは更に激しくブースターを噴射する。
 噴射による推進力で自らを後押しし、“フェルゼン”と力比べを演じるウィンダム。
 
 朋美がイコン整備技術の極みの一つの目標として入手したジェファルコン――ウィンダム。
 基本性能を余すことなく、整備の基本を押さえて常にベストの状態に保つことを心がけている機体でもある。
 
 だからだろうか。
 なんと、ウィンダムはあの“フェルゼン”に正面から挑んだパワー勝負において未だ持ちこたえているのだ。
 
『欠点がないヤツなんかいないさ。コンチクショウ、どんなに手強いヤツだって、どこかに攻略の手掛かりってものはあろう筈…仲間のために、貰い受けるぜ、データを!』

 イルミンスールと迅竜クルー用の通信帯域に響くウルスラーディの声。
 ――後に続けたい!!
 この戦いで得られたことを、この戦いで終わりにしたくはない。
 次の戦いの為に、明日の為に。
 声からはウルスラーディの思いが切々と伝わってくる。
 それに呼応するように、ウィンダムのブースターもまた、心なしか更に激しく噴射する。

『『覚醒』が長続きできないのと同じく、イコン自体にも、搭乗者にも、機動時間が長くなればなるほど負担は大きくのしかかる筈。
ボクたちには仲間がいる、傷つけば励まし、癒してくれる味方が。突出してイルミンスールの森にまで来たキミ――単独行で、どこまでボクたちに痛手を負わせることが出来る?』
 敢えて敵機にも聞こえるように共通帯域に向けて言う朋美。
 そして朋美が二の句を継ぐと同時に、ウィンダムは両手を放した。
 
『パイロットまで一人だとかいう噂だけど、それで、絆に結ばれたボクたちを破れるか!?』
 押し戻してくる“フェルゼン”のパワーも利用し、後方へと飛び退るウィンダム。
 飛び退りながら、ウィンダムはハードポイントに格納されていた射撃武器――ウィッチクラフトライフルを抜いた。
“フェルゼン”へと向けられるウィンダムの銃口。
 
 そして、友軍の通信帯域に朋美の声が響き渡った。

『今だよ!』
 
 ウィンダムが無茶な力比べで稼いだ時間は僅か。
 だが、それは千金にも値する時間だった。
 そして、それは十分な時間でもあった――。
 
『了解です!』
『これより発射しますわ!』
 
 通信待機に重なり合う遠近とシャレンの声。
 既に二機のチャージは完了している。
 朋美とウルスラーディが稼いだ時間。
 そのチャンスを逃さずにチャージを終えた二機は、一斉に魔法攻撃を放つ。
 
 ウィッチクラフトライフルを放つシャルルマーニュに、ヴリトラ砲を放つE.L.A.E.N.A.I.。
 それに合わせてウィンダムもトリガーを引く。
 
 三機からの魔法攻撃を同時に受けても、“フェルゼン”は平然と立っている。
 だが、着実に装甲特性は『変転』していた。
 
『今です! ……桐ヶ谷さん!』
 通信帯域を震わせる近遠の声。
『――ああ。任せろ』
 たった一言。
 それだけを返す煉。
 
 直後、木々の間をすり抜けるようにして一機のイコンが“フェルゼン”の頭前へと舞い上がる。
 その機体こそ、煉の愛機たるレーヴァテイン。
 前回の戦いで中破して海水につかりオーバーホール中の機体に変わり、新たに煉が駆る機体だ。
 舞い降りたレーヴァティンの手に握られれているのは磨き上げられた見事な大太刀。
 
 大太刀を振り上げるレーヴァティン。
 対する“フェルゼン”は手甲に鎧われた手をクロスさせる。
 どうやら、レーヴァーティンの繰り出す一太刀を受け止めるつもりらしい。
 
 たとえ特性が『変転』しても重装甲は重装甲。
 真正面から、しかも防御態勢を取れる状態で太刀の一つ受け止められらないことはない。
 相手側がそう判断してくることは、煉にとって織り込み済みだった。
 
 ゆえに、太刀を構えるレーヴァティンの動きには何の迷いも感じられない。
 真っ直ぐに振り上げられた太刀。
 その刃はやおら豪快な音を響かせる。
 それだけではない。
 豪快な音をとともに刃は巨大な剣――戦艦をも両断する超大型剣へと形状を変える。
 
『レーヴァティン、リミッター解除! いつでもいけるぜ!』
 通信帯域に響き渡るのは勝気そうな少女の声だ。
 その声の主こそ、煉のサブパイロット。
 ――エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)
 
 彼女の声に応えるように、煉は高らかに宣言する。
『ああ。師匠譲りの剛剣、示現流の名に賭けて切り裂いてみせる――』
 煉の宣言とともにレーヴァティンは超大型剣を振り下ろす。
 戦艦すらも両断せしめる長大な刃は“フェルゼン”の機体を一瞬のもとに一刀両断した。
 真っ二つに立ち割られた“フェルゼン”は、左右それぞれの残骸が大爆発を起こす。
 爆風と爆炎。
 それを背後にレーヴァティンは大太刀状に戻した愛刀を、まるで血振りするかのように振るう。
 
 濃緑色の“フェルゼン”はこれにて全機撃墜完了。
 残るは一機――漆黒の“フェルゼン”のみだ。