|
|
リアクション
『いくぜっ! オレに続きなっ!』
通信を通してハーティオンにシリウスが語りかけてくる。
『了解だよ。さっきと同じ連携だね』
北都の声も通信帯域を通して聞こえる。
今まさにハーティオン達は“フェルゼン”に連携攻撃をしかけようとしていた。
先程行った連携攻撃の効果は抜群だったようだ。
彼等は早くも二機の“フェルゼン”を撃破することに成功していた。
「心得た! 三度私達の力を合わせよう!」
二人に向けて堂々と答えるハーティオン。
彼は答えた後に、こうも付け加えた。
「だが、先程も話した通、鈿女博士に考えがあるそうだ。私としては――」
『――「その為にも敵に取りつかないといけない」……だろ? 鈿女博士の作戦はもっともだしな! オレ達も協力するぜ!』
『うん。さっきまではシリウスがセンターでフォワードだったけど、今回はハーティオンが一番前で。僕達がバックスで援護するよ』
ハーティオンの意図を汲み取ったように告げるシリウスと北斗。
込み上げてくるものを感じながら、ハーティオンは大きく頷いた。
「仲間達よ、感謝する! ならば行こう!」
『おうよ! やってやりな!』
『じゃ、行こうか』
シュヴェルト13とルデュテが左右から斬りかかって援護する中、ハーティオンは“フェルゼン”に正面から突撃する。
左右からの攻撃を左右それぞれのガントレットで防御する“フェルゼン”。
仲間達の攻撃が押さえつけている間に、ハーティオンは正面から“フェルゼン”に取りついた。
「ぬうぅ……! 今だっ! 鈿女博士っ!」
ハーティオン達の作戦はこうだ。
まずハーティオンが“フェルゼン”に取りつき、接触回線での接続を試みる。
次いで、迅竜に乗艦している高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がそれを通して“フェルゼン”にハッキングを試みるというものだった。
『いいわ! そのまま接触回線を維持して、このまま一気に帰投データを吸い出――え……?』
鈿女の声が途端に止まる。
「どうした! 鈿女博士!」
『嘘……帰投データが……ない……そんな……ことって……いけないっ――すぐに離れなさい! ハーティオン! シリウスに北都も!』
「う、うむ!」
指示通り、すぐに手を放して跳び退ろうとするハーティオン。
同じくシリウスと北都も距離を取ろうとする。
だが、それよりも早く“フェルゼン”の機密保持装置が作動する方が早かった。
両腕、そして正面装甲を自爆させる“フェルゼン”。
爆発のダメージはもとより、高速で飛散する破片によっても“フェルゼン”は三機にダメージを与える。
ダメージを受けたものの、三機はなんとか健在だ。
だが、危うく大破する所だった。
ひとまずはパイロットが無事だったこと、そして機体が原型を留めていたことを喜ぶほかないだろう。
一方、“フェルゼン”のダメージは深刻だ。
もはや大破ほぼ同然のダメージを負っているように見える。
もっとも、それを抜きにしても、格闘戦以外の手段を持たない“フェルゼン”。
両腕が大破した時点で戦闘続行不可と判断したのだろう。
すぐにこの“フェルゼン”は自爆に入った。
このまま放っておけばこの“フェルゼン”も撃破できる。
三機は静観することに決めた。
しかし、せめてもの巻き添えを探して“フェルゼン”は動き続ける。
そして、遂に“フェルゼン”は恰好の標的を見つけたのだ。
先程の戦闘で中破し、不時着したマルコキアス。
正確に言えば、不時着というというより撃墜に近い形で着陸したマルコキアスは動けそうにもない。
ならば自爆に巻き込める範囲内まで接近されるまでに迎撃しようにも、同じく両腕が大破したマルコキアスには武器はもちろん、それを持つ手もない。
加えてインファント・ユニットは二機とも破損している。
このままでは“フェルゼン”の自爆に巻き込まれる。
静観しようとしていた三機はすぐに動き出そうとする。
だが、自爆に巻き込まれたダメージで機体は動けない。
“フェルゼン”の自爆にマルコキアスが巻き込まれる――。
まさにその瞬間、アマテラスが上空から舞い降りた。
そのままアマテラスはマルコキアスの両肩パーツを掴んで動かそうとする。
だが、なかなかマルコキアスは動かない。
もとよりイコン一機を、同じくイコン一機で動かすのはそれほど簡単ではなかった。
相手が無事なイコンならまだしも、マルコキアスはほぼ機能停止している状態なのだ。
人間で言えば、運ばれる相手に踏ん張ってもらうといったことも頼めない状況。
加えて、アマテラスの方も激しいマニューバを続けていたせいでエネルギーも少ない。
マルコキアスの機体は何とか持ち上がるも、素早く動かすまでには至らない。
もうすぐそばまで接近した“フェルゼン”。
『神条さん! もういい! 早く機体を離脱させるんだ! そうでないとキミ達も――』
ポップアップしたウィンドウの中で叫ぶ鉄心。
和麻はそれを即座に突っぱねる。
「そんなことできるかっ! ここで手を放すくらいなら……最初から掴んだりしないっ!」
だが、“フェルゼン”は遂に自爆に巻き込める距離まで到達していた。
その自爆にマルコキアスが巻き込まれるというまさにその瞬間――。
例の瞬間移動じみた急加速で一気に舞い降りてきた“フリューゲル”bis。
漆黒の機体はマルコキアスの背面上部パーツ――人間で言えば襟首にあたる部分を掴む。
そのままフルブーストをかけて急上昇に入る漆黒の機体。
アマテラスがもともと力をかけていたこともあって、マルコキアスの機体は一気に持ち上がった。
間髪入れず安全圏まで運ばれるマルコキアス。
次の瞬間、“フェルゼン”の自爆が辺り一帯を揺るがす。
もし、後一瞬でも遅れていたら巻き込まれていたかもしれない。
収まっていく爆発の余波。
爆風と爆音が収束していく中、ウィンドウの中の鉄心は問いかけた。
『どうして……? 助ける理由なんてないはずだ……』
すると『SOUND ONLY』のウィンドウの向こうにいる相手は、どこか素っ気ない風といった口調で答える。
『その通りだ。アンタを助ける理由なんてない。けどよ――』
そこで一拍置いた後、やはり素っ気ない風の声で彼は告げた。
『――その小さい嬢ちゃんを助ける理由ならある。俺達は子供も平気で巻き込むアンタ等九校連とは違う。それにもし、その小さい嬢ちゃんが木端微塵に吹っ飛んだりなんてしたら、ウサギ姉ちゃんが……ティーが悲しむ』
それだけ言うと、“フリューゲル”bisは再度急上昇する。
そして、空の彼方へと飛び去って行った。