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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

リアクション

 まりあの乗るプラヴァーは今も破壊活動を続けていた。
 ビームアサルトライフルを乱射し、銃剣を振り回すプラヴァー。
 そのせいで、今や第一格納庫はひどい有様だ。
 
「庭坂機に告ぐ! ただちに機体を停止して投降せよ!」
 瓦礫が散乱した第一格納庫に大声が響き渡った。
 駆けこんできた丈二の発した警告だ。
 
 もちろん、この程度で攻撃を止めて投降するようなら、最初からこのようなことはしない。
 当然ながらまりあはその警告を無視して攻撃を続ける。
 しかも、銃口の向く先は丈二だ。
 
「くっ……」
 危ない所で物陰に身を隠して事無きを得る丈二。
 まかり間違えば今の攻撃で大事に至っていたかもしれない。
 
 油断なくプラヴァーの挙動を見張りつつ、周囲を確認する丈二。
 報告を受けていた通り、イコン部隊はすべて出撃してしまっている。
 予め知っていたとはいえ、やはり目の当たりにすると心細いものだ。
 
 イコンで戦ってくれる味方は艦内におらず、そもそも機体も庭坂機以外のものはこの第一格納庫に見当たらない。
「どうする……!」
 なんとか冷静さを維持しつつ、丈二は物陰から庭坂機の挙動を伺う。
 いかに相手はカスタムもされていない量産機とはいえイコン、それも第二世代機なのだ。
 生身で立ち向かうのは危険な賭けに違いない。
 
(考えろ……考えるんだ……何か策が――)
 自分に言い聞かせながら熟考する丈二。
 そうしている間にも庭坂機の破壊活動は続いている。
 
「やはり生身で止めるしかないか?」
 丈二に問いかけるヒルダ。
 彼女も同じことを考えていたようだ。

「せめてイコンがあれば……――ッ!?」
 呟くように答えた直後、丈二はあることを思い出した。
 すぐさま丈二は艦内警備をするにあたって頭に叩き込んだ迅竜の見取り図と配置図を記憶から呼び出す。

「イコンなら……ある……!」
「どこだ!?」
 弾かれたように周囲を見渡すヒルダ。
 しかし、第一格納庫は既に瓦礫と残骸しかない。
 
「ここではない。隣の……第二格納庫だ。そこになら、テレスコピウム少尉のフォトンを始めとする予備機がある」
「なるほど! だが第二格納庫は……!」
 得心がいったように声を上げるヒルダ。
 しかし、すぐさまその声は沈痛なものになっていく。
 
「そうだ。第二格納庫はこの先、行くにはここを突っ切る必要がある」
「無茶だ!」
 声を荒げるヒルダ。
 それももっともだ。
 既にあらかた破壊された第一格納庫は瓦礫や残骸はあるものの、遮蔽物らしい遮蔽物はない。
 
 イコンが出払っていたおかげで破壊されたなかったのは幸いだ。
 だが、逆に言えばイコンを遮蔽物として使えないということでもある。
 
「出撃中のイコンを呼び戻すべきだ。すぐにオペレーターの水無月氏に連絡を……」
「……それでは間に合わない。イコン部隊が戻って来るよりも前に格納庫はもちろん、他の区画まで破壊されかねない。それに甲板上の盾竜も今は損傷で動けない」
「だったら――」
「――自分が行く。
 ヒルダの声を遮るようにして、丈二は言った。

「丈二……」
「援護してくれ。ここを突っ切ることさえできれば、第二格納庫に突入できる」
 それだけ言うと、丈二は庭坂機の射撃の間隙をぬって走り出した。
「ええいっ!」
 咄嗟にヒルダも魔法的な力場を利用したダッシュで庭坂機に距離を詰める。
 そのまま武器を起動し、光刃を抜き放つヒルダ。
 彼女は振り上げた光刃を庭坂機へと叩き付けた。
 
 とはいえ、やはり個人兵装。
 イコンに致命傷を与えるには至らない。
 再び魔法的力場によるダッシュを繰り出すヒルダ。
 ダッシュにジャンプを合わせて飛び回ることで反撃を避けつつ、ヒルダは光刃を叩き込む。
 しかし、生身でイコンと戦うのは無茶だったようだ。
 
 次第に追い詰められ、ヒルダは壁際に追いやられる。
 大路を断たれた状態で銃口を突き付けられるヒルダ。
 突きつけられているのはイコンようの火器だ。
 当たればひとたまりもない。
 そのトリガーが引かれる瞬間――。
 
 轟音が格納庫に響き渡った。
「丈二!」
 格納庫の奥からダッシュしてきたストークタイプの機体が庭坂機を横から掴む。
『援護感謝する! おかげでテレスコピウム少尉の機体を確保できた!』
 機外スピーカーで言うと、ストークタイプの機体――フォトンはそのまま庭坂機を押し出す。
 先程、最初の攻撃で庭坂機が開けた穴に向けてプラヴァーを押しだすフォトン。
 
 迅竜の外へと飛び出した二機。
 フォトンは迅竜から庭坂機を引き離すべく、相手を掴んだままツインリアクターを起動し、推進装置をフル稼働させる。
 ある程度飛行した後、フォトンはプラヴァーを地面へと押しつけるようにして着地した。

 ――敵対行動となった場合、双方とも必然的に命がけとなるので、躊躇せず殺す。
 そう考えていた丈二。
 彼の決意に揺らぎはなく、フォトンはハードポイントからスフィーダソードを抜き放つ。
 そして彼は、躊躇なくその刃をプラヴァーに突き立てた。
 
 どうやら致命傷となったようで、プラヴァーは機能を停止する。
 だが、丈二の決意とは裏腹に脱出装置が作動し、ポッドが射出された。
 ポッドの着地地点まで油断なく移動するフォトン。
 フォトンは手にしたスフィーダソードをポッドに向ける。
 
『こちら大熊上等兵。反乱分子を逮捕しました』
 まずはブリッジに通信を入れる丈二。
 次いで彼は機外スピーカーで告げた。
『庭坂機へ。貴官らを逮捕する。なお、貴官らには捕虜として聞かせてもらうことが山ほどある』