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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 同時刻 迅竜 ブリッジ
 
「依然として二機の“フェルゼン”が接近中!」
 オペレーター席で睡蓮が声を上げる。
「相対距離……どんどん縮小していきます!」
 睡蓮からの報告にじっと耳を傾けるルカルカ。
 艦長席に座る彼女は真剣な顔で黙考する。
 
 やがて答えが出たのか、ルカルカは立ち上がった。
「各員に告ぐ! これより本艦は二機の“フェルゼン”を迎撃する!」
 それには砲術手のカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が反論する。
「だがよ、迅竜の兵装はどれも物理的なもんだ。ホワイトスノゥ・オーキッドのウィッチクラフトライフルが使えない以上、物理兵装だけでやらなきゃならねえ」
 ルカルカは毅然として答えた。
「もとよりそのつもりよ」
「策はあるのか?」
 問い返すカルキノス。
 彼に向けて、ルカルカは深々と頷く。
「無論よ」
 断言するなり、ルカルカは艦長席に備え付けられた受話器を取った。
 艦内通信をコンピュータルームに繋ぐと、ルカルカは語りかける。
 
「艦長より砲術セクションへ。そちらで管轄している全兵装を準備されたし」
 すぐに応答する声が聞こえてくる。
 声は若い男の声。
 砲術セクションを担うクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)だ。
 
『こちら砲術セクション。了解。ただちに準備を開始します』
 ほどなくして今度はまた別の若い男の声が艦内通信越しに聞こえてくる。
 クローラの相棒であるセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)の声だ。
『一番から十番まで、全銃座準備完了。ならびに、各種ミサイルもすべて準備完了だよ』
 
 セリオスからの報告に頷くルカルカ。
 続いて彼女はダリルとカルキノスに向き直った。
 
「物理攻撃のみでも、相手の耐久性を上回るだけのダメージを与えられれば強引に撃破できる――鎧竜や盾竜がそれを証明してみせたわ。だから、これから迅竜はそれをやる――」
 ルカルカは迷わず語り続ける。
「森を焼く危険性があったから、迅竜は砲撃を制限していたわ。でも、そのおかげで残弾状況に余裕はある。だから……残存する火力をすべて一回の攻撃に集中し、“フェルゼン”に叩き込むのよ」
 
 黙って聞いていた二人。
 ややあって先に口を開いたのはカルキノスだ。
「言いてえことはわかったが、無茶な作戦だな。もっとも、それはお前が一番良く解ってると思うがよ」
 彼の言葉を引き継ぐようにダリルも言う。
「本来は精密射撃ではなく広域への攻撃を想定して設計されている迅竜の火器類を一点に集中して発砲。しかも、僅かな無駄も許されない。その上、セーブして撃つならともかく、最大火力で一斉に発射する――カルキノスの言う通り、無茶な芸当だ。砲術の技量だけではなく、もはや迅竜という艦が一個の生物として動くほどの連携がクルーに求められるだろう」
 
 そしてカルキノスとダリルは、言葉を分け合うようにしてルカルカに問いかける。
「だが――」
「――やるんだろう?」
 
 黙って頷くルカルカ。
「ええ。やれるはずよ。私とこの艦のみんななら」
 それだけで十分だった。
 もやは二人は反論せず、黙々と準備に取り掛かる。
 
 それを見つめながら、ルカルカは砲術セクションに問いかけた。
「ということよ。お願いできるかしら?」
『砲術セクション了解。艦長の指令には従う、当然のことです』
『そうそう。だからこそ、僕達はルカルカに艦長を任せてるんだ』

 砲術セクションの二人も即答だ。
 
 一度しっかり深呼吸すると、ルカルカは声を張り上げた。
「これより作戦を開始する。まずは樹木のない場所まで移動する。ホワイトスノゥ・オーキッドを収容後艦首そのまま、迅竜後退」
「艦首そのまま、迅竜後退」
 すかさず復唱するダリル。
 直後、オペレーターの睡蓮が声を出す。
「フロゥ機、帰投を確認。損傷した盾竜ともに収容を完了したとのことです」

 それを聞き、操舵手を務めるダリルは指令通りに艦を後退させる。
 迅竜はその名に違わぬ速度で移動。
 すぐに開けた場所へと躍り出た。
 そして、“フェルゼン”はしっかりと迅竜を追ってくる。
 
「射線上に味方機の有無を最終確認! いる場合はただちに射線外に退避させて!」
 次なる指令を出すルカルカ。
 打てば響くように睡蓮も答える。
「射線上に味方機、ありません!」
 睡蓮に頷き、ルカルカはカルキノスに目線を移す。
「続いて主砲および複砲のエネルギーチャージを開始! 発射スタンバイ!」
「了解だ!」
 
 今度はカルキノスに頷くルカルカ。
 続いて彼女は受話器を取った。
 
「砲術セクション! 銃座一番から十番まですべて安全装置解除! ならびに全ミサイルも安全装置を解除!」
 指令を出しつつルカルカはレーダー上に表示される光点と相対距離の数値を、瞬き一つせずに見つめる。
 緊張感に満ちた静寂がブリッジを支配する中、誰もがルカルカの指令を待った。
 
 そして、光点と相対距離が千載一遇のタイミングを知らせた瞬間、ルカルカは手を前に突き出した。
「全砲門開け! 二連機砲、分裂ミサイル、誘導ミサイル、速度ミサイル、副砲、主砲――迅竜、全兵装一斉発射! 撃てっ!」
 ルカルカの指令を受け、迅竜は内包するすべての火力を一気に吐き出した。
 堰を切ったように弾薬が溢れ出す光景はさながら洪水の如し砲撃。
 超弩級と称されるほどの巨大飛空戦艦。
 まさに規格外の艦体は、内包する火力をたった一回の攻撃の為にすべてつぎ込んでいた。
 
 機銃とミサイル、そして副砲。
 圧倒的な物量による攻撃を正面から受け、さしもの“フェルゼン”といえど、その装甲は所々が破損し始めている。
 それでもなお、“フェルゼン”は全力走行で迅竜に肉迫し続けた。
 だが、まだとどめの主砲が待っているのだ。
 
 主砲が発射されるまさにその瞬間、睡蓮が声を上げた。
「“フェルゼン”各機、左右に散開! 主砲の射線外へと退避していきます!」
 ルカルカは一瞬で考えを巡らせる。
 
 ――再照準するべきか?
 いや……この攻撃は同時に多数の兵装をぶつけることに意味がある。
 再照準によるラグを挟んでは意味がない。
 
「構わないわ! 主砲! そのまま発射!」
「うぉらぁっ! くらいやがれぇぇぇっっ!」
 気迫をぶつけるような叫び声とともにカルキノスは発射ボタンを押し込んだ。
 発射された主砲の光条は“フェルゼン”一機を呑み込むことに成功する。
 だが、もう一機はかろうじて射線の外へと出ていた。
 
「逃がしはしない! 総員、対ショック姿勢!」
 通信機に向けて叫ぶなり、ダリルは力任せに舵を切った。
 急速回頭した迅竜は結果的に艦首を振る格好になる。

 それにより主砲の砲口も大きく動いた。
 さながら巨大な光刃を振るうかのごとく、迅竜の主砲は辺りを薙ぎ払ったのである。
 薙ぎ払われた光条は射線外に退避していた“フェルゼン”も逃がさず巻き込んだ。
 
 そして、迅竜がすべての兵装を発射し終えた直後、二つの爆発音が鳴り響く。
 もはやこの戦域には、一機の“フェルゼン”も残ってはいなかった。