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新興都市シズレの陰謀

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新興都市シズレの陰謀

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二章 奔走する者達


 地下エネルギープラント内の通路。

 入り口を制圧したことで手を広げやすくなった混成部隊の面々は、
 移動が大規模になるななな部隊に先駆け、地下への侵入を開始した。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)も、その一員である。

「教導団の正面突破が陽動になってるのかな? 案外すんなり忍び込めたねぇ」
「ですが、油断は禁物ですよ。念のために【禁猟区】も施してはいますが……」

 この2人の目的は、剣の花嫁が怪物化した事の原因究明、
 および彼女達を元に戻す手段の捜索だ。
 地下通路はところどころ電源が落とされており視界が悪いため、
 【ダークビジョン】を使用して慎重に歩を進めていく。

「幹部格を見つけ次第、詰問することにしよう。うまいこと見つけられるといいけど……」
「ええ、それまで戦闘は避けたほうが良さそうですね。
 発見さえできれば【嘘感知】もありますし、有用な情報を得られると思います」

 と、通路の曲がり角に近づきかけた時。
 死角となる箇所から、突然人影が飛び出してきた!

「「!?」」

 2人は驚いたが、その人影は【禁猟区】に引っかかっていないうえ、
 不意打ちを仕掛けてくるにしては飛び出すタイミングが若干遅かった。
 以上の点から、すぐに敵性存在ではない事を把握し、特に焦りは抱かなかった。

「む、貴様ら“も”研究所の時の……フッ、これも運命の悪戯というわけか」
「あれ……デュオさん?」

 人影の正体はデュオだった。
 彼らにとっては、これで会うのは2度目になる。
 更に、デュオが出てきてすぐ後を追ってくるようにして、
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)も姿を現した。

「おお、北都とクナイじゃんか」
「本当に奇遇だね。もしかして、そっちも例の花嫁絡みかい?」
「うん。多分、察しの通りだよ」

 サビクの問いかけに、北都が応じる。
 詳しい話を聞いてみると、シリウスとサビクは北都達と同じように、
 花嫁達の救出を目的として潜入していたらしい。
 その道すがらデュオとばったり出会い、行動を共にしていたのだという。
 北都は少し意外そうな素振りで、

「ということは、デュオさんの目的も剣の花嫁達を助けることなの?」
「ククッ、まぁ俺様の場合は、身内を探しているという個人的な理由も含むがな」
「デュオのパートナーに……やっぱり剣の花嫁がいたみたいでよ。
 その子が一月ほど前から、行方不明になってるらしいんだ」

 シリウスの言う通り、デュオはパートナーを探している。
 そう―――剣の花嫁が行方不明とくれば、
 今回露わになったジュリエンヌ商会暗部による拉致事件は、ピッタリ符合するのである。

パノという少女なのだがな?
 いなくなってからテレパシーも全く通じん……フン、今ごろどこで何をしているやら」

 デュオは特に気にしていないような素振りでいるが、そのはずはないだろう。
 内心では心配しているのであろう事が、同じ契約者である彼らにはよくわかる。

「っつーわけで、オレとサビクもここの剣の花嫁について知る関係者を探しながら、
 パノって子を探す手伝いをしてるんだ。
 地上で頑張ってる部隊がいる以上、あくまでついでにって形だけどな」

 シリウスの言葉にサビクも頷いて、

「一月前のジュリエンヌ商会は、成長の直中にあった時期だろうからね。
 ここに捕らわれてるって可能性は高いと思うよ」

 交わされる言葉に、北都とクナイも相槌を打つ。
 どうやら彼らも、現状について把握できたようだ。

「なるほどねぇ。そういう事なら、僕達も協力するよ」
「5人いれば、多少の無理も通ると思われます。
 要所要所で強引な突破も使って、効率よく捜索を進めましょう」

 こうして一同は結託し、これからの行動に臨むこととなった。
 デュオだけは相変わらず不敵な笑みだけを浮かべていたが、

「ククッ、物好きどもめ……好きにするが良い」

 と、彼なりの合意を示した後、
 「すまない」と誰にも聞こえないよう口の中で呟いて、通路を先行していった。





 同じく、地下エネルギープラント内の通路。

「待て、曲者め!」
「我らを欺こうなど、ふざけたことを!」

 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、現在、侵入した先で3人の商会員に追い回されている。

「くそっ、まさかこんな簡単にバレちまうとはな!」

 恭也の目的は捕らわれている熾月 瑛菜(しづき・えいな)の捜索なのだが、
 その効率的な手段として自らを商会員であると偽り、
 堂々と居場所を聞き出そうとしたのだ。
 そして、結果がこの状況というわけである。

「会員証なんてものがあるなら先に言えよな……それもパクっときゃ良かったぜ」

 恭也も、さすがに見た目そのままでスパイ作戦に出たわけではない。
 ジュリエンヌ商会のトレードマークである、赤いスカーフ。
 あれはその辺の商会員をとっちめて、予めGETしていた。
 しかし、スカーフ以外にも、会員である事を示す会員証があったようで、
 そこが仇となり正体がバレてしまったのである。

「んー……土地勘がねぇからなぁ。逃げてるだけじゃ振り切れなさそうだ」

 ならば、と恭也は足を止めて振り返る。
 その状態で待機して、まずは【ホークアイ】と【行動予測】で敵の出方を窺う。

(止まる気配無し。右から2人、剣による近接攻撃。左から1人、銃による援護射撃)

 読み切った!
 最初に来た銃撃に対して、恭也は通路の左側へと跳躍、これを躱す。
 すると近接攻撃担当だった者達と恭也の間に、一瞬だが無視できない弾幕が生まれていた。
 それを嫌って減速する2人の商会員―――この瞬間が好機だ。

「そらよっ!」
「!!」

 恭也は敵が固まった地点を取り巻くように、【ホワイトアウト】を呼び出した。

「くっ、小細工を……!?」

 吹雪に包まれて方向感覚を失った商会員達は、
 その中で懸命に恭也の姿を探そうとしたが、吹雪が治まっても遂に発見できなかった。
 それもそのはず。
 【ホワイトアウト】が形成された時点で、彼は【光学迷彩】で姿を消していたのだから。
 【光学迷彩】の弱点は足音までは消せない事なのだが、
 そこを吹雪の音でうまいことフォローしたというわけである。

 ―――その後、恭也は少し離れた場所で再び姿を現した。

「ふぅ……できれば武装は重要な時まで隠しときたいからな。
 こうなったら戦闘避けて、地道に探し続けるしかないか……」

 もうひとつ溜め息をついてから、恭也はどこへともなく歩き出した。





 如月 和馬(きさらぎ・かずま)も、恭也と同じように身分を偽って侵入した人物だ。
 ただし、その理由は異なるもので、敵勢調査のためだった。

「いたな……ジュリエンヌ商会の構成員達だ」

 呟きながら、和馬は自分の姿を改めて確認する。
 先の恭也とは違い、商会員に扮するための赤いスカーフは身につけていない。
 代わりに全身を『グランツ教徒の服』に包み、
 『クルセイダーマスク』で顔を覆っていた。
 そう、グランツ教徒を装っているのだ。

(一介の商会が各地から剣の花嫁を誘拐し続けたにも関わらず、
 今回の怪物事件が起こるまで、全く尻尾を出さなかった。
 あるいはこの事件が無きゃ、未だに発覚しなかったかもしれねえなんて……)

 シズレの立地条件を加味しても、相当の手際の良さだ。
 和馬はその点に着眼して、ジュリエンヌ商会のバックには、
 もっと大きな支援があったのではないかと考えた。
 それで、手始めにグランツ教徒と分かる出で立ちで現れ、反応を見ようというわけである。
 グランツ教の支援を受けていたのなら、即時に襲われる事はないはずだ。

「グランツ教も最近物騒なやつらが増え続けてるからな。可能性は高いぜ……!」

 意を決して、薄暗闇の中を接近していく。
 やがて商会員達は彼の接近に気づき、向き直って―――
 一斉に銃口をこちらに向けてきた。

「チッ、読みは外れたか……ブルタッ!!」

 この作戦、和馬的には、あくまでカマをかけてみようとしただけである。
 当然、成功率が高くない事も承知済みであり、失敗時のフォローは用意していた。

「男しかいないみたいだし加減しないでいいよね、和馬?」

 メキメキメキメキ

 と、和馬の合図を受けたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は、
 逆方向の壁際から『ハンニバルの戦象』を駆り登場した。
 壁をぶち破って、しかも背後から来るとは思っていなかっただろう。
 商会員達に動揺が走る。

「な、なんだこ……っぐぎゃッ!!」
「ぐわあァァ!!」

 台詞を言い残す隙すら与えずに、ブルタは商会員達をペシャンコにしていく。
 そこに一切の容赦は見られなかった(たぶん性的な理由で)。
 混乱の中に捕らわれた隙を見逃さず、和馬も『七界の剣』を持って殲滅に加わる。
 あっという間に敵は全滅し、後には和馬とブルタだけが残された。

「ふぅ……これでボクの役目、終わりでいいのかな?
 美人の女幹部がいるって聞いたから、探しに行きたいんだけど」
「あぁ、フォローありがとよ。グランツ教は関係なかったみたいだな」

 ブルタは自由行動が許されたと見るや否や、
 喜んで【顕微眼(ナノサイト)】と【ダークビジョン】をフル稼働し、
 女幹部を探しに飛び去って行った。
 最後に残った和馬は、先の出来事を加味して新たに考えを巡らせる。

(規模からして支援があったことは間違いねえはずなんだが。
 グランツ教じゃないとしたら、いったいどんな組織が関わってるんだ―――?)