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新興都市シズレの陰謀

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新興都市シズレの陰謀

リアクション

 地下エネルギープラント・緊急脱出口。

 モルガナはようやく辿り着いたといった感じで、
 大きな背伸びをしてみせた。
 この脱出口を抜けると、シズレ付近のオアシスを利用して造られた下水道に出られる。
 ジュリエンヌ商会のメンバーは誰も……
 トップのジェラルドですら知らない、秘密の抜け穴である。

(あの瑛菜って子は逃げ切れたかしら……?
 大した手助けもしてないしそもそも偽善なのだけど、
 もともと関係ないのに巻き込んでしまったのは、不本意なのよね)

 モルガナは本気で心配していそうな風貌だ。
 瑛菜に飛びかかられた後、彼女は瑛菜が単独で無茶しないように扉をロックした。
 そして自分が管理していた分の保存庫周辺の商会員を、
 適当な理由を付けて引き上げさせたのだ。

「無意味な犠牲……これほど悲しいものもないわ」

 独り言を漏らしながら、
 壁面に取り付けられたマンホールのような物を外そうとするモルガナ。
 の背中に、『嫉妬の弓矢』より放たれたピンクのハート矢が深々と突き刺さった……
 否、そもそも刺さったとかいうレベルではなく、奥に突き抜けていた。
 だが、そんな事には気づかずに、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)は歓喜の声をあげる。

「やっと見つけたよ……愛しの美人女幹部ちゃん!」

 実は、ブルタはここに至る前に、移動中のモルガナを発見していた。
 その場で襲いかかってもよかったのだが、
 念には念をいれ、人目の及ばない場所までストーキングしていたのだ。
 ゆっくり肩越しに視線を向けるモルガナに対し、

「その矢に射抜かれた者はね、ボクの虜になっちゃうんだよ。
 けど安心して、ボクは美女には優しいんだ。手始めに『淫獣』と遊ばせてあげるよ」
「…………」

 だが、モルガナは無表情……いや少しだけ侮蔑が混じっているか……
 そんな面持ちでブルタの方を見ていた。
 さすがにブルタも現状に疑問を抱き、

(おかしい……確かに『嫉妬の弓矢』は命中した。
 それから少し経ったから、そろそろ恍惚の表情を浮かべて擦り寄ってくるはず)

 ブルタは念のために『ラブセンサー』で確認を行う。
 すると、モルガナの好感度は最低のままであることが明らかになった。

「なん……だと!?」

 驚愕するブルタ。
 モルガナは面倒くさいのに見つかった、とでも言うように肩を竦めて、

「悪いけど、今は遊んであげる時間がないのよ。
 また今度ね、坊や」

 そう言い残してマンホール状の出口を潜り抜けていく。
 ブルタは慌てて『邪気眼レフ』を装着し、最後の抵抗を試みる。
 一瞬だけスカートが透けて、ぱんつが見えた気がした。

(黒かッ!!)

 ブルタは追撃をかけるべく、すぐに後を追ったが―――

「……あれ?」

 マンホールの向こうに広がっていたのは、彼方へと続く一本の下水道のみ。
 しかしそのどこにも、モルガナの姿は見当たらなかった。





 地下エネルギープラント・エネルギー抽出施設。

「あいつ……他のやつと動きが全然違う……!」
「うん。速さだけなら、ここにいる誰よりも上かもしれない」

 ユキヒロ・シラトリ(ゆきひろ・しらとり)ユキノ・シラトリ(ゆきの・しらとり)は遠目から、施設内で行われる激戦を観察している。
 ジェレミー・ドナルド(じぇれみー・どなるど)は2人を守るように位置取っているが、
 なぜかカルロスがこちらを狙ってくることは無かった。

「ケッ、どうせ入り口も制圧されちまってる。
 どの道逃げらんねェなら、この戦いを楽しんだ方が得だろォ!?」

 減らず口をたたくカルロス。
 しかしどうやらそれに見合う実力はあるようで、
 壁を這ったり中空を跳んだりのヒットアンドアウェイを繰り返し、暴れ回る。
 契約者達5人がかりでもなかなか仕留めることができない―――
 が、遂にその戦いも終止符が打たれる。

「……埒があかないですね。仕方ありません!」

 転換点となったのはクナイ・アヤシ(くない・あやし)だった。
 彼は迫り来るカルロスの【覚醒光条兵器】を避けず、
 【龍鱗化】であえて自分から受けにいった。

「! てめェ……!」

 ただし、【覚醒光条兵器】の威力は通常の【光条兵器】の比ではなく、
 【龍鱗化】だけで止められるということはない……
 クナイの腕は深々と切り裂かれてしまうが、クナイ自身それはわかっていた。

「クナイ!?」
「大丈夫です北都。元よりこうするつもりでした」

 清泉 北都(いずみ・ほくと)の声に淡々と応じながら、
 クナイは眼前のカルロスに【シーリングランス】を放った。
 腕そのものをクナイの体へ突き刺しているカルロスは―――回避ができない。

「ぐっ」

 まともにヒットした。
 【シーリングランス】は当てにくいが、相手のスキルを封じる効果がある……
 カルロスは持ち前の機動力も【覚醒光条兵器】も失い、

「あーあ、これまでか」

 フルマラソンを走り終えた選手みたいに、地面に寝転んだ。
 クナイは戦いが終わったことを確認すると、
 【ヒール】で受けた傷の自己回復を試みる。
 遠くにいたユキヒロもそれを見て駆け寄ってくると、
 同じく【ヒール】でクナイの治療に加勢した。
 そんな中、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はカルロスに近づき、

「往生際だけはいいみたいだな……?
 オレからもブン殴ってやりたいとこだけど、聞きたい事が山ほどある。
 まずは、お前らが暴走させた剣の花嫁達を、元に戻す方法だ!」

 ここに来た混成部隊メンバー全員の、そもそもの目的である。
 カルロスはもう戦意を失っていて、特に何かを隠すつもりはなかったが、
 だからこそ、次の言葉は皆に突き刺さる。

「……何か勘違いしてねェか、外で暴れてる怪物共のことだろ?
 ありゃあジェラルド会長の実験が失敗して、勝手に暴走しちまったんだよ」

 ―――嫌な予感がした。
 その予感を裏切らず、カルロスは言葉を続ける。

「商会には『6月の花嫁』っていう光条エネルギーを束ねる秘密兵器があるんだが、
 その能力を更に高めるため、
 剣の花嫁達に【覚醒光条兵器】を無理やり発現させたんだ。
 俺は負荷に耐えられねェって言って反対したんだけどな……結果はあの通り。
 つーワケで、戻す方法があるんなら、
 外部に露見する前に戻してるって話だぜ。
 アレが暴れ出しちまったから、この地下の存在もバレちまったんだしよォ」

 クナイやサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は【嘘感知】持ちだが、特に違和感は感じていない。
 カルロスの言い分は、紛れもなく真実。

 既に暴走している剣の花嫁を元に戻す方法は、存在しないのだ。





 地下エネルギープラント・通電室。

「……しつこい化け物共め。
 いい加減に諦めたらどうだ?

 ジェラルドは相対する契約者達に向けて、問う。
 ななな部隊が通電室を後退した後、
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は足止めに専念していた。
 ジェラルドがななな部隊を追撃しようと動いたからである。
 『6月の花嫁』という武装による光条バリア……
 厳密には抽出器より流れ込む光条エネルギーを別の力に変換して生み出しているのだが、
 とにかく単純な硬度というのは厄介で、足止めにも相当の労力がかかる。
 ルカルカとダリルだけでは、おそらく突破されていただろう。
 途中から国頭 武尊(くにがみ・たける)が到着したことで、
 何とか踏み留まれているのである。

「悪いがここにいる連中、全員“諦め”って単語をどこかに忘れてきたようでな。
 パラ実S級四天王も教導団大尉も、並大抵の執着心じゃ勝ち取れねぇモンだぜ」

 武尊は不敵な笑いを浮かべて応じる。
 しかし現実問題、諦めを知らない全員とも、既に満身創痍の状態だった。
 武尊は【覚醒光条兵器】を使いすぎて光条部分の輝きが失われてきているし、
 ルカルカは【超加速】の使いすぎと、
 ジェラルドの進行を止めるために近接格闘を繰り返した反動でボロボロだ。
 ダリルも移動中に蓄積された負荷もあって、消耗が激しい。

「まったく、諦めが悪いというのは短所だな。面倒臭くてかなわん

 ジェラルドは再び『6月の花嫁』にエネルギーを収束する。

「どうして……あいつの力は切れないのよ……!?」

 ルカルカは戦いを長引かせれば、
 【光条兵器】のように『6月の花嫁』の出力がだんだん弱まると踏んでいた。
 しかし、ここに至ってもその様子は見られない。

「オイ、ぼけっとするな! 来るぞ!」

 後から来た武尊よりも長く戦っていたため、ルカルカの動きはかなり鈍っている。
 次の一撃は避けられるかどうか、かなり怪しかった。
 武尊は先んじて【ショックウェーブ】を放ちジェラルドの狙いを逸らそうとしたが、
 その衝撃波も展開されているバリアに打ち消される。

「駄目だ止められねえ、避けろッ!」

 言い残して先に離脱する。

「掴まれ、ルカ!」

 まだ動き出せないルカルカを助けようと、
 離れた場所にいたダリルが【ポイントシフト】で運び出そうとする。
 ところが、

「む……?」
「「……、……?」」

 『6月の花嫁』に収束しかかっていたエネルギーが、
 シャボン玉が割れたみたいに霧散して無くなった。
 見ると、ジェラルドを取り巻いていたバリアも解除されている。
 それを受けて、これまで余裕の表情だったジェラルドはあからさまに豹変した。

「まさか……カルロスのやつ、しくじったのか!?
 『6月の花嫁』無しで化け物共に立ち向かえるわけがない……ッ、くっ」

 ここにいる者が知る由は無いが、
 先刻、エネルギー抽出施設にてカルロスから情報を得たデュオ達が、
 抽出器に繋がれた剣の花嫁を全員助け出したのだ。
 『6月の花嫁』はそこから送り込まれるエネルギー……
 ざっと20本以上の【光条兵器】の力を利用して動いていた。
 よって、副次的に機能が停止したというわけである。

 ―――又とない絶好のチャンス。

「「はぁぁぁッッ!!!」」

 ジェラルドを取り押さえようと、ルカルカと武尊が飛び込んだ。
 ダリルも【潜在解放】で、少しでも動きをサポートしようとする。

近寄るなあああぁぁぁァァッ!!!!!

 が、次の瞬間。
 ジェラルドを中心とした凄まじいエネルギーの奔流が生まれ、
 至近距離に迫っていた2人は大きく弾かれる。
 ルカルカと武尊は床を擦りながらも顔をあげて、

「まだ残ってるの……!?」

 エネルギー切れだと思ったのに。
 ところが、すぐに気がつく。

「いや、何か様子がおかしいぞ!」

 いつまで経っても奔流が止まない。
 それもそのはず、
 ジェラルドは『6月の花嫁』最後の機能・セーフティ解除を使ったのだ。
 エネルギープラントの動力を全て落とし、
 その分のエネルギーを全て取り込んで炸裂させる機能。
 端的に言えば、自爆機能だ。

「ふはははははははぁァァ!! コレで、これで対抗できるゥ!
 契約者ども……化け物共にィ、人間の私が、ム敵、……ぐわははバババババババ!!!!!」

 一際大きな爆発が起こった。
 地下の電灯は全てショートして砕け、天井は崩れ落ちた。
 後に残ったものは、
 エネルギーの残滓がたてるねずみ花火みたいな小さい音と、
 地上から差し込まれた光の条だけだった。