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湯けむりお約束温泉旅行

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湯けむりお約束温泉旅行

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サスペンス温泉事件   関係者の証言

その1 佐々木 弥十郎の証言

 ――あ、ハイ次はこれを捌くんですね。
 違う? 証言?
 殺人事件!? 一体何が……
 ああ、説明が遅れて悪かったねぇ。
 ワタシはこの温泉の料理を手伝っていたんだよ。
 何故って? そりゃあ、無料でお世話になったら申し訳ないじゃない?
 あ、これはさっきワタシが下ごしらえした奴ですね。
 いえ問題ありません。新鮮なヤツなのでさっと捌いて熱湯であらって下味をつけておきました。
 ――もうやることがない? それでは申し訳ないです。明日の食材の準備をしておきましょうか?
 ああ、すいません。
 ええと、事件でしたっけ。
 何か変わった事?
 別に何も……ずっとこちらで手伝いしてたからねぇ。
 魚を捌いて、鳥を捌いて、ワニを捌いて……
 あれ、最後に捌いたあの妙に大きな肉、あれは一体何だったかなぁ……
 いや、冗談ですよ、冗談。
 由来の分かるものしか調理してないよ?
 厨房の外の事なら、ワタシよりむしろ兄さんの方が詳しいんじゃないかなぁ。
 ちょっと聞いてみようか。
 おーい、兄さん、兄さーん。

 何だ?
 お前またやりすぎて現場の板前さんの自信喪失させたんじゃないだろうな……
 あ、違う?
 殺人事件!?
 いや、何も聞いてないが……
 何か変わった事?
 そういえば……いや、大した事じゃないか。
 どんな細かいことでも?
 いや、さっき、厨房で洗い物をしていたら、気が付いたんだ。
 1本、足りないって。
 何って、包丁さ。
 そう、包丁が一本、厨房から消えてたんだ。
 あれ、これってもしかして凶器に……?
 刺し傷は、ない?
 ほとんどが撲殺?
 ならいいんだが……

その2 川村 詩亜の証言

 何よ? 私は今忙しいのよ!
 何がって、ええと……あれ、何だっけ?
 あ、そうそう迷子なの!
 私が迷子なんじゃなくて、玲亜が。
 そう、迷子になった玲亜を探しているの。
 一緒に探してくれる?
 駄目なの? 意地悪……
 それどころじゃない?
 事件?
 まぁ怖い。
 玲亜、大丈夫かしら……
 早く見つけ出さなきゃ。
 じゃあ、行くわね。

その3 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)の証言

 事件? 殺人!?
 なんだって…… そんな危険な奴がここに潜んでるっていうのか!
 皆は大丈夫か?
 ユリナは、セレンは?
 そうか、良かった。
 ……ハルカは?
 ハルカがいない! 行方不明だ!
 大変だ、何か事件に巻き込まれたのかもしれない。
 悪いが俺はもう行く。
 何か情報があったら教えてくれ。
 ああ、こっちも教えるから。


「必ず犯人を捜し出して、お前の無念を晴らしてやるからな、ハルカ!」
 既に絶望的な未来を胸に抱いて、証言もそこそこに竜斗は駈け出した。
 傍らには、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)
(ハルカさんのことですから、ただ迷子になっているだけでは……?)
 そうは思ったが、竜斗のあまりにも必死な様子に言うタイミングを失っていた。
「まずは現場検証だ。ユリナ、手伝ってくれるか」
「はい」
 素直に後について調査を手伝うユリナだった。
「セレンは……」
「あー調べてる調べてる。オレはこっち調べとくから、あっちに行ってていいぜ」
「分かった。頼む」
 竜斗たちが向こうに行ったのを見計らって、セレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)はふうとため息をつく。
「あー、めんどくせぇなぁ。どうせその辺うろついてるだけだろ?」
 ふと目をやると、温泉地につきものの無料マッサージマシン。
「お、こりゃいいや」
 きょろきょろと周囲を見回すと、マッサージマシンに座る。
「あー、ここに何か手がかりがあるかもしれない。もしかしたらマシンの中に犯人がいるかもー。調べなきゃー」
 棒読みで言い訳しつつ、電源を入れる。
「あー、気持ちいもとい、こりゃあ上手だ。犯人かー?」
 それ以上の台詞は、ういんういん響く機械音にかき消されてしまった。


「事件? 犯人? え、まさか玲亜も……」
「ああ、連続殺人事件が起こっているらしい。ハルカもそれに巻き込まれて行方不明だ。そっちも気を付けた方がいい」
「そ、そんな、玲亜……!」
 一方こちらでは、詩亜に遭遇した竜斗が情報交換をしていた。
 そして、話が大きくなっていった。

 その頃。
「それじゃあ、お姉ちゃんも迷子なの? 同じだね」
「ええ、ちょっとのぼせたので散歩していたら……」
 渦中の椿 ハルカ(つばき・はるか)と玲亜は、ふたりでのんびりお散歩中だった。
「じゃあ、早く帰らないと……」
「大丈夫ですよ。先程、マッサージをしているセレンさんを見つけました。皆さんのんびり温泉を楽しんでいる様子です」
「そうなの?」
「ええ、ですから、わたくしたちはお邪魔にならないよう、お部屋に戻って皆さんの帰りをゆっくり待っていましょう」