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湯けむりお約束温泉旅行

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湯けむりお約束温泉旅行

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1.普通に温泉……?

「いらっしゃいませー!」
 バスを降りるとそこはひなびた温泉宿。
 頭を下げて出迎える宿の人々の前を通り抜け、門をくぐってさあ温泉へ!
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)は宿のタオルを手に温泉に飛び込んだ。
「わーい、大きなお風呂だ!」
「おっふろ〜おっふろ〜おおきいおふろ〜」
「おっと、湯船に入る前にまずは体を洗わなきゃね!」
「みーなはフランカがあらったげるね。あわあわ〜」
「きゃはは、んじゃあお返し。ごしごし〜」
 ほのぼのと洗いっこする二人。
 そこに、新たな入浴客が入ってくる。
「あら、一番風呂かと思ったのに残念」
「お先に失礼してまーす」
「してまーす」
「いいのよ。お邪魔してごめんね」
 大きな胸をタオルで隠しながら入ってきたのは桜月 舞香(さくらづき・まいか)桜月 綾乃(さくらづき・あやの)
 そのお胸の迫力に、思わずミーナからため息が漏れる。
 自分の両手が隠すぺったんこの平原とは大きく差があるその質量。
「まいちゃん、また胸大きくなったんじゃない?」
(な、なんてこと……っ! これが持つものと持たざるものの格差なんだもん……っ!?)
 綾乃が、そんなミーナの胸の内(と外)など全く気付かずストレートに危険な領域へと踏み込む。
「そうかしら?」
「そうだよー。あい、ちょっと触っちゃえ☆」
「きゃっ」
「わぁ、やわらかーい」
 ミーナたちの前にも拘らず、きゃっきゃうふふ始める舞香と綾乃。
 しかし舞香の目は、油断なく周囲を見渡していた。
(温泉のお約束といえば、ノゾキと下着泥棒! 女の敵は許さないわよ!)
 鋭い目で見まわすが、今の所怪しい気配は感じられない。
「まいちゃんの背中洗うの手伝ったげるね。まいちゃんって腰もくびれてて色っぽーい」
「もぉ、綾乃ったら」
 ひとまず安心したのか、一息ついて再び綾乃といちゃつき始める舞香。
(ううううう……)
 ぼこぼこぼこ。
 温泉の中からそれを恨めしそうに見ている瞳が一対。
 二組がいちゃついている間に一人温泉に入りに来た、仁科 姫月(にしな・ひめき)だった。
(ううううう……いいなぁ。あたしも兄貴と一緒に入ればよかった……)
 一緒の部屋で過ごせるだけでも幸せと、お互い別々の温泉に入ることにしていた、最愛の兄。
(兄貴、今頃どうしてるかなぁ)
 ぼこり。
 ためいき一つ、温泉に混じった。

 その頃。
 男湯と書かれた温泉ののれんを潜る影ふたつ。
 どう見ても女の子にしか見えない二人組、姫宮 みこと(ひめみや・みこと)早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)だ。
「あ、ここが男湯ですね。さあ行きましょう……って、蘭丸?」
「……湯けむり温泉、混浴OK。ぬるぬる増量……」
「何を見てるんですか」
「いいっ! 実にいいわ! さ、みこと、こっちに行きましょう。そしてあたしとみことでぬるぬるスキンシップ……」
「ダメです! そんな事件の起こりそうなところには入りませんよ」
「えー……ダメ?」
「ええ」
「どうしても?」
「もちろんです」
 頑として首を縦に振らないみことに、蘭丸は観念したように男湯ののれんを潜る。
 外見だけは美少女二人が、男湯へ。
「ふぅ〜」
 すっかり落ち着いてお湯に沈むみことと蘭丸。
 そこにやって来たのが成田 樹彦(なりた・たつひこ)
 脱衣所から温泉に入り、湯につかっているみことと蘭丸を交互に見る。
「あ、こんにちはー」
「………」
「し……失礼っ!」
 みことの挨拶に返す事無く、慌てて飛び出していった。
「あれれ、どうしたんでしょうねえ」
「……あー」
 首を傾げる、外見だけは美少女のみことだった。

 のんびりと、普通温泉の時間は過ぎていく――しかし、それもつかの間だった。

「わー、普通温泉なのに湯けむりがすごいですねー」
「やっぱり、混浴の湯けむり温泉より普通の女湯の方が安心できるわよね」
「そうですねー」
 新たに女湯に入ってきたのは、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)、そしてそこで合流した紫月 睡蓮(しづき・すいれん)リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)
 咲耶たちは、悪の秘密結社オリュンポスの社員旅行としてこの温泉に来ていたのだ。
 これで何か起きないはずがない!
 でもまずは早速体を洗うと温泉に浸かり、始まるのはガールズトーク!
「というわけでリーズさん、睡蓮ちゃん、そしてアルテミスちゃん!」」
「何々?」
「どうしました?」
「決まってるじゃないですか、ここで始まるガールズトークの話題といえば、恋!」
「こい?」
「恋……」
「ここここここ恋!?」
 いまいち反応が薄いリーズと睡蓮に比べ、異常な反応を示したのはアルテミスだった。
「アルテミスちゃんたら、まぁ……」
「わっ、私にはそんな軟弱な気持ちなんてありませんっ! キロスさんは、その、ライバルとして胸の鼓動が高鳴るだけで……っ」
 問われる前に語るに落ちていく。
「まあまあ落ち着いてください」
「飲み物、取ってくる?」
 そんなアルテミスを宥める睡蓮とリーズに、今度は咲耶が話を持ちかける。
「ところで聞いてくださいよーリーズさん、睡蓮ちゃん。兄さんったらもう、全然私の気持ちに気付いてくれなくて……あれ?」
 愚痴ろうとした咲耶の口が止まった。
 どこかで、物凄く聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたから。
(兄さん? まさかね……)
「ほほうここが普通温泉か。なかなか広いではないか!」
「えっ……」
 咲耶が、アルテミスが、睡蓮がリーズが見たものは。
「ふはははは、先客がいるようだが湯けむりでよく見えんな!」
 全裸に、白衣とメガネを装備したドクター・ハデス(どくたー・はです)
 他にもオリュンポス面子のハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)と戦闘員の皆様、そして偶然一緒になった紫月 唯斗(しづき・ゆいと)紫月 暁斗(しづき・あきと)
 少女たちの眼前に、全裸の男性たち。
 少女たちの時間が止まる。
 勿論、湯けむりで肝心な所は見えないのだが。
「……おっと、いかんいかん、俺としたことが」
 はっとハデスは何かに気付いたように脱衣所に戻る。
 そして眼鏡を外し、全裸白衣になって戻ってきた。
「うっかり眼鏡を外すのを忘れていた!」
「そっちですか!?」
 思わずツッコむ睡蓮。
 他にもたくさんツッコミ所はあるものの、とりあえずそこしか反応できませんでした……と、後に睡蓮は語る。
「む?」
「あ」
 時間が止まる。

 ――その前に、時間は少し巻戻る。

「……申し訳ありません。お客様に手伝っていただくなんて」
「いいえ。無料というのはあまりにも気が引けます。料理の手伝いをさせていただければと思ったのです」
「弟の料理の腕はかなりのものなんだが……いきなり料理も何なんで、皿洗いでもなんでもやらせてもらうぜ?」
「ありがとうございます。ええと、そちらの方は」
「おりゅんぽすガ利用スルオ礼ニ、コチラノ手伝イヲセヨトノ命令デス」
「はあ……」
 仲居さんの後に続くのは、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)佐々木 八雲(ささき・やくも)、そしてハデスの発明品。
 彼らは無料で温泉を利用させてもらうのは心苦しいと、温泉の手伝いを申し出ていたのだ。
「それでは、そちらの方にはお掃除をしていただきましょうか……」
「命令ヲ受付マシタ。温泉ノ掃除ヲ開始シマス」
 料理の手伝いに行った弥十郎、八雲と別れ掃除を始めた発明品。
 その際、彼は温泉ののれんをかけ間違えてしまったのだ。
『普通温泉』と『湯けむり温泉』を。
『混浴』と『男湯』『女湯』を。

 ――止まっていた時間が、動き出した。

「きゃあああああああああ!」
「ん?」
「いやぁああああああああ!」
「む?」
 最初に動いたのは舞香だった。
「……まさかこんなにも堂々と覗きに来るとは完全に予想外だったわ!」
「うん?」
「しかもこんな大人数で……食らえ、女の敵どもめぇえええ!」
「ほぎゃぁああああああ!?」
 舞香の、不意打ちの熱湯攻撃!
 ハデスたちが怯んだ隙に、舞香の胸の谷間に仕込んでいたメタモルブローチが輝く。
 制服姿に、変☆身!
「まとめてあたしが成敗してやるわ!」
 勿論、動いたのは舞香だけではなかった。
「凄い…… なんて完璧な対ノゾキ装備!」
 茫然と呟くリーズを尻目に、睡蓮が立つ。
「皆さん、彼女に続くのです!」
「え……ええ!」
「わかりました!」
 突然の乱入に完全に浮足立っていた咲耶、アルテミスも舞香の勢いにつられ、乱入したハデスたちの駆除に向かう。
「あたしの魅惑の足技、とくと味わうといいわ!」
「ぐぇえええええ!!」
「きゃーまいちゃん妖艶〜☆」
「ゆ、唯斗さんと暁斗さんまで……ええい覚悟しなさいっ!」
「い、いやこれは…… ぐはっ」
「なんでこんな……うぐぅっ」
 ……そして、数分後。
「一丁あがりね」
 男性たちの、死屍累々の山ができた。
「ここに置いといたら邪魔ねえ……あっちに捨てちゃいましょ」
 ぼちゃ、ぼちゃ、ぼちゃーん。
 ずたぼろになったハデスと発明品、唯斗と暁斗、そして戦闘員たちは、サスペンス温泉へと投げ込まれた。
「さて、すっきりしたら温泉堪能しましょ♪」
 ご機嫌になった舞香は、再び温泉へと入っていった。

 ちなみに、実は男湯と勘違いしたまま同じ温泉内に入っていたみことと蘭丸は、あまりにも女の子だったので誰も気づかないまま何事もなく湯から上がって出て行ってしまっていた。
 彼らを女性と勘違いしてすぐに出て行った樹彦は、ある意味命拾いしたことになる。
「はあ、いいお湯でしたねえ……」
 浴衣を着て和むみことの隣では、ミーナが3本目の牛乳を飲み干している所だった。
 きちんと、手は腰に。
 ミーナの隣では、フランカがフルーツ牛乳を両手で持ってんくんくんく。
「んぐっんぐっんぐっ……ミーナも、もっと牛乳を飲めば大きくなるんだもん……!」
 たぷんたぷんと牛乳で膨れていくのはお腹、かもしれない。