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その場しのぎのムービーアクター!

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 外が混乱しているうちに、美羽は屋敷内へと忍び入っていた。
「瀬蓮ちゃん、助けにきたよ!」
「美羽ちゃん!」
 駆け寄る二人。
「助けに来てくれてありがとう! でも、危かったんじゃない?」
「それは、皆がいてくれたからね」
 ここから情景は見えないが声は聞こえる。
 美羽が戦禍に包まれているはずの方向を見やると、襖から外を覗くアルテミスの姿。
「ああ、キロスさんが戦ってる……」
 一枚向こうは庭らしい。
「……思ったよりも近かったね」
 そこに、報復とばかりにレキの胸を揉みしだいていたミアが加わる。
「巻き込まれないうちに逃げたほうがいいじゃろうな」
「うう……ミア、後で覚えててよね……」
「ふんっ、そなたが悪いのじゃ」
「あはは……でも、外には見張りがいるんじゃ?」
「その点は大丈夫だよ。ちゃんと考えてあるもん」
 美羽が取り出したのは黄色い弦。三味線で使われるものだ。これを欄間の隙間から通し、
「ん、何……ぐぇ!?」
 廊下側の襖を開けるとすぐさま見張りの首に巻き付ける。そして反対側を引っ張り、
 ピンッ。
 指で弾く。澄んだ音色と共に、見張りの手足が弛緩する。
「よし、完璧だね!」
 自画自賛の美羽。
「さあ皆、逃げるよ!」
「えっ、まだキロスさんが……」
「そんなの後、後!」
 齧り付くアルテミスも促して廊下に出たのはいいが、
「ごめん、逃げられちゃ困るんだ」
「そなたは似非医者!」
「心外だな。一応、ちゃんとした医者だぜ?」
 手下を引き連れたスレヴィが立ちふさがった。
「これちょっとまずくない?」
 レキの分析は的を射ている。
 潜入は少人数が好ましく、今回は美羽一人だけ。
 狭い通路ゆえ、逃げ切ることは可能かもしれないが、人質を連れてとなると難易度は極端に跳ね上がる。その上、
「姉御、出番だぜ」
「うむ」
 小汚い和服に身を包ませ、強者としてのオーラを放つ屋良 黎明華(やら・れめか)まで現れた。
「どうしよう……」
 頭を悩ませる美羽。作戦は失敗かに見えたその時。
「人を貶め穴一つ。人を呪って穴二つ。恨みを晴らして穴三つ。誰かが貴方を呼んでいる――地獄が貴方を呼んでいる」
 通路のさらに奥。視界も届かない暗がりから、朗々とした声が響いてくる。
「だ、誰だ!?」
 振り返るスレヴィ。だが、そこに人影はなく、
「うおっ!?」
「ぐはぁ!?」
 何者かに殺られる手下の姿。
「くそっ、どうなってんだ!」
「もちろん、僕たちの仕業だよ」
「なっ……猫、耳? なぜ、あさにゃん……?」
「しょうがないだろ! 真司とルシェンにこれで行けって強制されたんだから!」
 悲痛な叫びをあげる朝斗。
「でも、仕事はキッチリこなすからね」
 手元に引き寄せた【リターニングナイブス】を構える。
 前と後ろ、挟まれた格好のスレヴィたち。出した結論は、
「姉御、そっちは任せたぜ。お前らはあの変なのを狙うんだ!」
「変なの言うな!」
 美羽を任せ、標的を朝斗に絞る。
 その所以はパッと見、一人だから。それだけにすぎない。
 しかし、その目論見は簡単に外れた。
「相手が一人だと思ったら大間違いだわ」
 横の障子を貫き、【テンプテートチェーン】が飛来する。
「がっはぁ!」
「まだ仲間がいたか!」
「さっきの声、ちゃんと聞いてた? どう聞いても私たちの物じゃないってわかると思うわ」
 皮肉気に台詞を吐くリーラ。
「蒼水さんとこの奥方みたいになってきたね……」
「あら、褒め言葉として受け取っておくわ」
「次から次へと……まだいるのか!?」
「さあ、どうかしら?」
 眠そうな顔を傾げる。
 そんな会話の隙を、千鶴が見逃すはずがない。
「あなたも同じ獲物を使うみたいね」
 美羽の後ろからかかった声。それは先ほどの声と一致していた。
「あなた方は?」
「しがないただの仕事人よ。どう? 協力しない?」
「もちろん!」
 美羽と千鶴。両側からスレヴィの首に弦を巻き付け、天井の梁を通して宙吊りに。
「うぐぅ、俺は、ただ、嫁を――」
『成敗!』
 二人が奏でる和音。こうして一人、悪が散る。
 残る敵はあと一人。
 姉御と呼ばれた用心棒、黎明華はどこへ?
 美羽を任されたはずなのだが、姿が見当たらない。
 彼女は麒麟からの抜刀を躱し、違う部屋へと移っていたのだ。
「まさか僕の居合が避けられるなんてね」
「うふふ」
 妖艶に笑みを浮かべる様はこの状況を楽しんでいる。
「それだけの腕がありながら、こんな悪徳商人に手を貸すなんてね。君を動かすものはなんだい?」
「お金よ」
 にべもなく言い放つ。
 手下が朝斗とリーラに倒されようとも、スレヴィが美羽と千鶴の手に掛けられようとも気にしない。
「交渉の余地なし、か」
 情を掛けたがそれさえ無意味。
「わかったよ、来い!」
 その台詞を合図に黎明華が上段から刀を振り下ろす。麒麟の脳天を切り裂く軌道。
 必殺の刃を前に、麒麟が取った行動は半身で足を揃え、両手を眼前に持ち上げる事。手には腰から鞘ごと抜き放った刀。
 黎明華の刀が鞘を伝い、麒麟から逸れていく。それを感じ取るや否や、刀身を抜き放ち相手を切る。フラメンコのパルマを応用した太刀筋だ。
「や、やられ……た」
 鍔音と共に倒れる黎明華。
「安心して、みねうちだから」
「麒麟さん、こっちも粗方終わったよ」
「歯ごたえなかったわ」
「天上天下万民泰平……三途の川の潺も、今宵は穏やかでしょうよ」
「よし、それじゃ見つかる前に帰るよ」
「お嬢さんたち、僕たちの事は内密にね」
「さてと、お酒飲み直すわよ」
「私は仕立ての続きを」
 現れた時と同じように、颯爽と去っていく仕事人たち。
「そうだ、外の様子はどうなってるのかな?」
 思い出した美羽。
 三人の元人質を連れ庭に出てみると、悪役の倒れる静かな光景だけが残っていた。


―――――


 翌日、白州での裁きが行われた。
 屋敷に住んでいた人間は多数の証言の元、打ち首、獄門を言い渡されることとなる。
 こうしてこの国は平穏を取り戻す。