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その場しのぎのムービーアクター!

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「こうして来てみたが、思ったよりも平和じゃのう」
 街の活気に目玉の パッフェル(めだまの・ぱっふぇる)はそう呟いた。
「事件ってのは目の前で起こっていることがすべてじゃないんだ。水面下で起きていることだってある」
 真理を語るのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)。隣にはぬりかべ お父さん(ぬりかべ・おとうさん)が控え、二人はパッフェルを護衛していた。
「私が来たから気を利かせてくれても良いものを」
「どこぞの探偵でもあるまい、気を利かせて事件を起こされても困るぞ」
 世間には行く先々で事件に出会う探偵もいるらしいが、同行者にとってははた迷惑この上ない。
「平和なんだから、もう城に戻って――」
「それではつまらん。それに、噂の事件を解決したことにもならんであろ? 私はこの先の茶屋で待っておる。情報を集めてまいれ」
「え? 首を突っ込むの?」
「無論じゃ。噂とはいえ見過ごせまい。行くのじゃ、スケベさんよ」
「人使い荒いなぁ……ま、勝手に動かれるよりはましか」嘆息一つ、「シカクさん、危険が無いようちゃんと見張ってるんだぞ」
「ぬ〜〜〜り〜〜〜か〜〜〜べ〜〜〜」
「心配するな、みたらしを食っておるだけじゃ」
「……俺も一本食べてから行ってもいい?」


『蒼空屋』
 街の卸問屋として名が通っているそこへ、アキラは訪れていた。
「ちぇ、一本くらいくれてもいいのに……たのもー」
 愚痴を吐きつつ暖簾を潜り、声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
 手もみ仕草で現れたのは番頭の御神楽 陽太(みかぐら・ようた)だった。
「何をお求めに?」
「いや、買い物に来たわけではないんだ」
「でしたら、如何様でしょうか?」
「ここ最近、街で流れている噂について、何か知らないか?」
「噂話、でしょうか……瓦版は拝見しました。後はそうですね……」
「どうしたの?」
「あ、ごしゅじ――」
 奥から現れた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は考え込んでいる陽太に声を掛けた。しかし、振り向いた陽太はそれ以上言葉を発せず黙ったまま。
「陽太?」
「……いや、和服姿もいいなって」
 率直な感想を臆面もなく言い放つ。それには流石に環菜も素で返してしまう。
「ちょ、いきなり何言うのよ!? 今は撮影中よ!」
「ご、ごめんなさい」
「あの……彼女は?」
「申し遅れました。うちの主人、環菜です」
「以後お見知りおきを」
 気を取り直し、丁寧に一礼。
「ほら、客人にお茶と茶菓子を出しておやり」
「わかりました」
「そんな、お気になさらず」
「いえ、何の御もてなしもしないなど、『蒼空屋』の名折れだわ」
 すぐさま陽太がお盆にお茶とお菓子を乗せてくる。
「こちら、番茶と和三盆でございます」
「これはどうも、ご丁寧に……うん、美味い」
 みたらしを食べ損ねたアキラは、ホクホクしつつ舌鼓を打つ。
「それで、ご用向きは何でしょう?」
「そうだった。ご主人、最近何か変わった事などないですかね?」
「変わった事……そうですね、この先のお屋敷に新しい医者が来たみたいで」
「専属医と言うやつですかね。ただ、いつも買う量が尋常ではないんです。うちとしては嬉しい限りなんですけどね」
「確かに、妙な話だ……」
 専属医であれば、必要な薬は限られる。
「後、その屋敷に珍しい着物を着た女性が頻繁に出入りしているみたいです」
「珍しいとは?」
「評判の良い織物職人の手製で、市場にもあまり出回っていないんです。うちも喉から手が出るほど欲しいくらいで」
「気に入った相手にしか売らないって言うからね。うちで扱うには難しいわよ」
「その情報はどこから?」
「外れにある神社の巫女に聞けばわかると思います」
「そうか、ありがとう」礼を言って立ち上がるアキラ。「それでは邪魔したな」
「旦那、お忘れ物です」
「なんだ?」
「こちら、お茶とお菓子で五文になります」
「お金取るのかよっ!」
 ちゃっかりしている夫婦だった。