天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

その場しのぎのムービーアクター!

リアクション公開中!

その場しのぎのムービーアクター!

リアクション

 大通りに面した茶屋の暖簾を潜る一人の男。
「ふぅ、疲れたぜ」
 キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は店内に入ると、定位置である入り口横の席に腰を下ろした。
「いらっしゃいませー」
 元気に出迎えるたのはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)。着物にたすき、前掛けエプロンの出で立ちはよく似合っている。
「あら、キロスさん。また来たんですか?」
「なんだ、俺がいつもサボってるみたいな言い方だな?」
「こんなに入り浸って、サボってないほうが信じられません」
「ただ休憩しているだけだ」
 気の置けないやり取りを交わす二人。
「ねぇ、聞いた?」
 そこへ同じ従業員のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が割って入る。格好はアルテミスと同じ。しかし、
「お、レキちゃん。今日もかわいいねー」
「ありがとう」
「それに、いつもながら元気そうだ」
 キロスの視線はある一点に集中する。
「も、もう、止めてくださいよ」
 不躾な視線の先、押さえつけられた胸元を両手で隠す。
「どうした?」
「……キロスさんには関係ありません」
 そんなやり取りにジト目を送るアルテミスと、
「それは当てつけかのう……?」
 ミア・マハ(みあ・まは)
「ミア? 何か言いたそうな顔してるけど」
「……何でもないのじゃ」
「何だ二人とも?」
「さあ?」
 意味がわからずに首を傾げるレキとキロス。
 感情の赴くままそっぽを向いていたアルテミスだったが、何故そうなっているのか分からず、話を進めることにする。
「それでレキさん、話ってなんですか?」
「あ、忘れてたよ。物騒な噂が流れているんだよね」
「そうじゃった。これがその瓦版じゃ」
 ミアが取り出したそれは宣教師の殺害と書かれた羊皮紙。
「町中で配っておってな。すぐ近くで起きたらしいのじゃ」
「ミアはそれを知らせに来てくれたの」
「物騒な話ですね」
 怖いねと言い合う女性三名。キロスは紙を一瞥すると、
「……なんだ男がやられたのか。関係ねぇや」
 アルテミスに投げてよこす。
「そんなこと言ってちゃダメですよ。もし襲われたらどうするんですか?」
「逃げる」
 即答に嘆息が三つ連なる。
「まあ、もし女が襲われていたら助けるかもな」
 キロスが付け加えた丁度その時、外から女性の叫びが。
「や、止めてください!」
「もしかして」
「事件?」
「とにかく行ってみるのじゃ」
 三人が外へ出ると、
「よう兄ちゃん。俺の前で女の子に絡むとはふてぇヤロウだな」
『早っ!?』
 既にキロスが浪人と対峙していた。相手は、
「いや、俺じゃなくて向こう……」
「ごちゃごちゃうるせぇな。とりあえず爆発しろよ、リア充」
 何故か桜葉 忍(さくらば・しのぶ)だった。
 桜葉 香奈(さくらば・かな)を助け、背後に庇ったはずなのにいちゃもんをつけられている。
「その方は私を助けて――」
「悪役は俺なんだけど――」
 事件の発起人スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)も困惑して声を掛ける。
「俺だって女の子に背中をぎゅっとされてぇんだよ」
 完全にキロスの私怨だった。
「と、とりあえず、香奈さん、こちらへ」
 アルテミスに促され、茶屋前まで移動する香奈。
「大丈夫じゃったか?」
「はい……でも――」
「あー、あれはもう仕方ない気もするね」
 顔を見合わせる面々。いつもの悪い癖だと諦めている。
「どれ、私が行ってみるのじゃ」
 そこへ名乗りを上げたのは織田 信長(おだ・のぶなが)だった。彼女はぶら下げた瓢箪を呷りつつ、飄々と近づいていく。
「お前ら、何をしておるのじゃ」
「お、色っぽいねえちゃんだな。あんたは誰だ?」
「そこの娘の姉じゃ」
「片肌脱いだ部分から見えるサラシもいいもんだな」
 などと鑑賞。その頭を瓢箪の下で殴る。
「いてぇ!」
「話が進まんのじゃ。少し黙っておれ」
 そのおかげでようやく解放された忍。
「信長、すまんな」
「気にするな。そこの者、見たところ医者と見受けるが?」
「やっと話ができる……」
 進行にホッとするスレヴィだったが、
「俺、この国にお嫁さんを探しに来たんだ。だからあの子になってくれないか?って聞いたんだ」
 その途端、二人の目の色が変わり、鞘から数センチ出した刃を首筋に当てられる。
「えっ、ちょっ」
「ほう、妹を手籠めにするつもりじゃと?」
「香奈は渡さない」
 怒気の籠った声。演技か本気か。
 あまりの迫力に気圧され、「すみませんでしたー!」と逃げ去るスレヴィ。
「口ほどにもないな」
 チンッと音を鳴らし、鞘に収まる刀身。
「香奈、ごめん。嫌な思いをさせたね」
「いえ、私はそんな……」
「怪我とかは無いかい?」
「はい。声を掛けられただけですので」
「よかった」
 桜色の空気を咲かせる。
「お前ら、私の存在を忘れてなかろうな?」
「の、信長!?」
「ね、姉さん!?」
 急に距離を開ける二人。
「まったく、こんな表六のどこがいいのじゃ?」
 互いに背を向け、もじもじと両手を揉み合わせる香奈と頬をかく忍。
「けっ、これだからリア充は……飲み直しだ。おーい、誰か! みたらしと茶を……って、あれ?」
 店内に声を掛けるも、キロスの声に反応する者はいなかった。