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2023春のSSシナリオ

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2023春のSSシナリオ
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 4.

 季節が変われば、装いも変わる。1年という月日は長いようで短く、短いようでやっぱり長い。例えば――去年は友人だった{SNL9998929#ティセラ・リーブラ}との関係が恋人になったくらいの変化が起きるくらいには。小さな変化であれば1つではないし、きっと、自分が意識していないところでも、色々と変わっているだろう。
「ね、ティセラ、これなんかどうかしら?」
 だから、季節が一巡りしたからといって、去年の春と同じものを使えば済むというものではない。要る物も出てくるし、スーツも新調してみたい。せっかくだからティセラに付き合ってもらおう、と、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は彼女と2人、ショッピングに訪れていた。
「そうですわね。良いと思いますわ。淡い色合いで落ち着きもありますし……清潔感もあると思います。それでいて、地味な印象にもならなさそうです」
 祥子の選んだスーツを柔らかな微笑と共に吟味して、ティセラは答える。即答ではなくそれなりに時間をかけた結果で、心から祥子に似合うかどうかを考えてくれているのが伝わってくる。
「先生としての節度も兼ね備えられているようですし……あ、この色などもいいと思いますわ」
「先生っていうのは、まだちょっと早いけどね」
 祥子は苦笑しつつ、ティセラの選んだスーツも見てみる。薄い暖色系のその色は、初夏に咲く花をイメージさせる。ティセラは服を選ぶ時、教壇に立つ祥子の姿を念頭に置いてくれているらしい。真面目に実習してないで、依頼だ任務だと飛び回っていたら1年も教育実習生をやっていて、免許はまだ未取得なのだが。
「じゃあ、この2着を試着してみるわね。……そうだ」
 試着室に行く途中、祥子は下着売り場の傍で足を止めた。春夏物の新作下着が揃い、華やかな色で溢れている。
「見えないところのおしゃれ……下着、どうしようかしら? 生徒の手本になる先生……今は卵だけど……としては、やっぱりそういうところも気を使わなきゃいけないか」
「下着ぐらいは好きなものをお召しになればいいような気もしますけど……例えば、これとかでも」
 ティセラは黒に、赤いレースの縁取りがされたブラジャーを示した。
「清楚なシャツの下からさりげない大人の女性の魅力を感じて、生徒さんが憧れたりすると思います。逆に、こういうのでも……」
 今度は白の、シンプルなブラジャーを取り上げる。
「勿論、生徒さんの良いお手本になりますわ。どんな先生になりたいか、ということで、その辺りは変わっていくのだと思います」
「そうね。どんな先生に、か」
 2種類の下着を前に、祥子は自分が教師になり、生徒の間を歩いているところを想像する。ティセラはその隣で黒い方の下着を見ながら、でも、祥子さんがあんまり憧れられると、嫉妬してしまうかもしれませんわ……とか考えていたのだが、その思考には気付かない。
「あぁ……早く結果を出さないとなあ」
 そして、小さく溜息を吐いた。長い期間、教育実習生をやっていると、少しだけ不安になることもある。ちゃんと教師になれるのか。なったとして、きちんと勤めていけるのか。
 それは、僅かではあったけれど確かに存在する、不安だった。
 祥子自身――最前線的な意味で――現場主義だから、一処に落ち着くのは性に合わない部分はある。……けれど。
「なりたいのよね。教師。生徒が、自分自身を守れるようにしてあげたい」
 ティセラに、というよりは自分に向けて祥子は言い、下着を選ぶと気持ちを切り替えるように笑顔になった。
「ところで、ティセラはどうするの? せっかく来たんだし、何か買う?」
「わたくし、ですか?」
 自分の分については考えていなかったのか、ティセラは驚いたように店内を見回した。祥子と目を合わせ、嬉しそうに微笑む。
「ええ、是非。わたくしも新しいお洋服が欲しいですわ」
「そう? それじゃあ……」
 祥子は彼女と洋服売り場に戻って、一緒に似合いそうな服を探していく。
(ティセラの場合は、クラシカルな方がいいかしら? ゴージャスっていうのもなにか違う感じなのよね……)
 色も普段の白と違う、薄紫や若草など、派手すぎず地味にならない感じのものがいいかもしれない。
 隣で服を選ぶティセラを見て、彼女に合いそうなものをあれこれと考える。彼女が、祥子のスーツを真剣に選んでいたように。こうして過ごしていると、何だか、ほんのりと幸せだ。
(友達と恋人の違い、か)
 彼女との買い物は初めてじゃないし、今までと同じようなことだけど、空気がどこか、違っている。結構深い仲のつもりだったけど、こうも空気は変わるものなのだ。
 やがて、祥子は一着を選び出し、ティセラに当てた。
「似合いますか?」
「うん。ばっちりよ」
 後はサイズを調整するだけ、と2人で試着室に入ってみる。1人で使うには余裕があり、2人で使うには少し狭いスペースだ。お互いに着てきた服を脱ぎ、下着姿になる。祥子は購入予定のシャツを手に取り、ふと手を止めた。ぱりっとした糊の効いたシャツが、新たな世界への象徴が、先程の不安を思い出させる。
「……祥子さん?」
 カーテンの外を意識しつつ、こっそりとティセラを抱きしめる。
「……ちょっとだけ」
 こうしていると、不安が消えて行くような気がした。暖かく柔らかいティセラの肌が、祥子の心を落ち着かせていく。
「……祥子さんは、きっと素敵な教師になりますわ」
 ティセラの手が、そっと祥子の髪を撫でた。