天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

2023春のSSシナリオ

リアクション公開中!

2023春のSSシナリオ
2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ 2023春のSSシナリオ

リアクション

 一方こちらはみことと蘭丸のふたり。
 チョコレートを受け取った翌朝、二人は百合園女学院の片隅でそれを同時に飲み込んだ。
 ぽふんと白い煙が二人を包み込む。そしてその後には――先ほどまでとなんら変わらない風体の二人が残された。しかし。
「……本当に、変わった」
「変わった! 変わったのよ!」
 二人はやったぁと飛び跳ねて喜ぶ。訂正、実際に飛び跳ねたのは蘭丸だけ。
 日頃本来の性別を隠して生活している二人は、今日も百合園の制服姿、蘭丸は髪も伸ばしているし、みことも女の子らしいボブにしているから、見た目の変化はほとんど無い。しかし、その制服の下では明らかな変化が起こっていた。
「ああ……夢にまで見た本当の体……」
 蘭丸は自分で自分の体をぎゅっと抱きしめる。腕にふわりと当たる柔らかい感触が何とも言えない。
 以前性転換に挑戦したときは大変な目に遭ってしまった。その分、感動もひとしお。
 蘭丸ほどの喜びは表現していないが、みこともまた静かに、短いながらも安寧を手に入れたことを喜んで居た。
「これで……びくびくしないで生活できるんだね」
 自分の意思に反して百合園に通うことになってしまったみことは、短い時間とはいえ、正体がばれる心配なしに生活できるという安堵に包まれていた。
 しかし。
「……ところでこれ、ちゃんと戻れるんだよ、ね?」
「うっ……思い出させないでよ、幸せに浸ってるんだから……戻っちゃうのよね、多分」
 ののから効果の持続時間を聞いていない二人を、ふと不安が襲う。
 男らしくなりたいと思っていた時期もあるみこととしては、突然これで一生女の子、というのはどうも不安なようだし、一生女の子でいたい蘭丸としては、戻ってしまう事が不安だし。
「ま、一日経っても戻らなかったらその時考えましょ」
「そんな……暢気な……」
 蘭丸の言葉にみことは肩を落とす。
「さぁさ、授業が始まっちゃうわよ」
「あ……本当だ、急がないと」
 蘭丸はみことの手を取って、廊下を駆け出す。

――今日こそ、みことを振り向かせて見せるんだから!
 蘭丸は密かにそんな野望を抱いている。なにしろ、心と一致しない体の所為で、みことから恋愛対象として見て貰えていないのだ。こんな絶好のチャンス、逃すわけには行かない。
 繋いだ手にも力が入る。

 午前中の授業は心安らかに乗り切ることが出来た。
 いつ効果が切れるのかというドキドキも最初の数時間はあったのだが、昼食を取る頃には、短くて一日だろうという思いが芽生えてきた。
 そんな訳で、午後は体育である。
 いつもはこっそり隠れながらしなければならない着替えも、今日は堂々と出来る。それが嬉しくて、みこと達は堂々と級友達に紛れて着替えをして居た。
「みこと、可愛いー!」
 下着姿のみことを見た蘭丸は、はしゃいだ声を上げるとみことに後ろから抱きついた。
 すると、みことの背中にぴたりと胸が当たる。
「きゃっ……もう、何するの……」
「だって、みことが可愛いんだもん」
 ちらりと蘭丸はみことの胸元に視線を落とす。きちんと用意しておいた女性物の下着に収まっている控えめな胸がそこにある。
「……悪かったね、小さくて」
「そんなこと言ってないじゃない」
 そういう蘭丸は、みことに比べれば撓わな胸を手に入れていた。ちょっと悔しい反面、密着されるとドキドキする。
 今まで蘭丸相手に感じたことの無い類いの感情だ。
「ほら、急いで着替えないと、体育が始まっちゃうよ」
 それを誤魔化すように、みことは蘭丸の手を振り解こうとした。
 その時。

 ぽふん。

 覚えのある煙が二人の体を包み込む。
「えっ…………」
 突然の煙幕に教室がざわめく。
「ちょっ、こんなに早く効果が切れるなんて聞いてない……!」
 二人とも未だ下着姿である。このまま煙幕が消えてしまったら、正体がバレてしまう。
 非常にまずい!
 煙幕はすぐに薄れたが、ざわめきは止まない。
「ちょっと、何これ!」
「どうしたの? 何が起こったの?」
 契約者である生徒達はさすがというか、咄嗟に戦闘態勢を取る。しかし。
「……なんだ、別に何もないじゃない」
「緊張して損しちゃった」
「早く校庭に行きましょう?」
 すぐに、「特に何も起こっていない」と判断した生徒達は、三々五々教室から出て行く。
「ほらみことさんも蘭丸さんも」
「あ、うん、今行きます」
「ちょっと、元に戻ってから行くから、先に行ってて!」
 声を掛けられたみことと蘭丸は引きつった声で答える。
 しかし、クラスメイトは何を気にするでも無くそのまま出て行った。
 全員が教室を出て行くのを見送って――

「はぁーーーーーー」
 みことは深いため息を吐いてへたりこんだ。
 咄嗟の判断で魔鎧の姿に転じてみことを包んでいた蘭丸が、助かったぁ、と細い声を上げる。
「た、助かったよ、ありがとう……」
「惚れてくれても……構わないのよ……」
 こんな時でも冗談半分にアピールする蘭丸だが、声の震えが収まっていない。
「うん……ちょっと見直した」
 一瞬、小馬鹿にされて居るような気がした蘭丸は、どういう意味よ、と不満そうな声で問いかける。
 しかし、みことがちょっと頬なんか染めて微笑んでいたものだから――蘭丸はもう、何も言えないのだった。