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変態紳士の野望

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変態紳士の野望

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四章 弾ける裸体と最終決戦 前編

 場所は変わり、秘密基地の地下に繋がる階段。
 いの一番にそれを見つけた桜月 舞香(さくらづき・まいか)はその階段を一気に駆け下りていた。
「確かに……霧の色が濃くなってるかも、本当に当たりだったかな?」
 独りごちながら舞香は息を切らしながら階段を降りていくと、目の前にドアが現れた。どうやら目的地にたどり着いたようだ。
 単身で乗り込んでしまったが、怯えている暇はない。
「ここでやらないと、ヴァイシャリーのみんなが大変な目に遭うものね……」
 舞香は意を決して蹴破るようにドアを開けた。
「ふうんんぬうおおおおおおおお!」
「はああああああああああああ!」
 ドアの向こうでは変態紳士とルイ・フリード(るい・ふりーど)が全裸でポージングをとっていた。
「どうですか、この筋肉の隆起と切れ込み! この美しさの前ではあなたの貧弱な肉体など霞んで見えますよ!」
 ルイは白い歯を見せて笑顔のままポージングを変えると、ピクピクと胸筋を動かしてみせる。
「ふふ、確かに貴方の肉体美には惹かれるものがありますが、肉体の美とは筋肉をまとうことではありません! 肉体の美とはすなわち心の清らかさによって決まるのです」
 どの口がそんなことを抜かしているのか、変態紳士は偉そうに語りながらブリッジをしてみせて、股間の紳士を強調した。
「ぬう……なんと斬新なポージング……! ならば、これではどうです!」
「そのポーズなら、このポージングでお応えしよう!」
 二人は爽やかな汗を掻きながら、笑顔でポージングを作り続ける。
 あまりにも不愉快すぎる対決を目にして、舞香の表情は怒りの熱と不愉快さで暗い表情のまま怒りを前面に出す形となった。
「あたしに……気色悪いもの見せるんじゃないわよ!」
 舞香は叫ぶと、たたらを踏んで裸拳の届く位置まで変態紳士に近づいた。
 ちなみに舞香の服はビキニアーマー。身体を隠す部分が少なく、威力は充分すぎるほど発揮できる状態だ。
「死ねええええ!」
「うわああああああ! マッチョガード!」
 変態紳士は叫びながらルイの身体を引っ張って自分の盾にした。
 舞香の裸拳はルイの身体にめり込み、突然のことに対処しきれなかったルイは身体をくの字に曲げて吹っ飛ばされる。
「ま、マッチョがいなかったら死んでいた……・」
 変態紳士は気絶しながらもポージングを忘れないルイを見ながらツバを飲んだ。
「やかましい! そんなことはいいからラマンウイルスを今すぐ止めなさい」
「断る! ここまで来た褒美だ! ラマンの姿だけでも拝ませてやろう」
 変態紳士はパチンと指を鳴らすと、背後に設けられたライトが点灯し、ラマン散布装置が姿を現す。
 常人では何が何の役割を成しているのか理解はできないが、一つだけ分かるのは、真ん中の真っ白の培養液の中でM字開脚をしながら気を失ってる変熊 仮面(へんくま・かめん)がラマンの元なのだろうと舞香も嫌々ながら理解してしまう。
「きも!?」
 思わず見たままの感想が口に出る。
「でも、それを壊せば全部解決するなら壊させてもらうわ!」
「フハハハハ! 残念だがこの装置は破壊させはせんぞ!」
 高笑いと共に現れたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)だった。
 やはりラマンの影響で服は溶けきって、ボロボロの白衣を素肌に直接着て、まともなのは眼鏡のみという状態になっていたが、本人は意に介してないようで元気に高笑いを続けている。
「フハハハハ! ここまでたどり着いたことは褒めてやるが、快進撃もここまでだ」
 ハデスは手に持っていたボタンを押すと変熊の入った培養液は下に降りていった。
 降りきると、周囲の迎撃用の重火器が現れる。
「どうだ! 我らの手にかかれば基地の要塞化など造作もないのだ! さあ、お前たちも戦線に加わりこの劣勢を覆そうではないか!」
 ハデスは後ろに控えていた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)に声をかけるが、咲耶の敵対心剥き出しになった瞳はハデスへと向かっていた。
「兄さん、今すぐこんなバカな真似はやめて! でないと、お仕置きしますよ!」
「是非お願いします!」
 変態紳士は土下座の体勢のまま咲耶の足下にすり寄り、咲耶は思わず後ずさった。
「と、とにかく、兄さんは無理にでも連れて帰ります! アルテミスちゃん、ペルセポネちゃん!」
 咲耶はアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)を呼び、二人は武器を構えた。
「了解です、咲耶様! こんな変態の方々、オリュンポスの騎士アルテミスが退治してみせますっ!」
「変態のみなさんを退治するため、お手伝いしますっ! 機晶変身っ!」
 ペルセポネは変身ブレスレットでパワードスーツを装着すると、ハデスはやれやれとため息をついた。
「愚か者どもめ……」
「……? 一体何を……えっ、パワードスーツ緊急パージ……? って、きゃああっ!」
 ペルセポネのパワードスーツは一瞬で解除され、元々着ていた服も一気に溶けていった。
 白い肌が晒され、普段は服に隠れている部分まで外気に触れたことでペルセポネは悲鳴をあげながらしゃがみ込む。
 それに続いて、アルテミスの鎧と咲耶の服も溶けていった。
「きゃ、きゃあっ! 見ないで下さいっ!」
「や、やだっ! ふ、服がっ!」
 アルテミスはきめの細かそうな肌を必死に両腕で隠し、咲耶もじわじわと溶けていく服を見て羞恥心を煽られたのか、目に涙を溜めながらしゃがみ込んでしまう。
「フハハハ! 愚か者め! そこで反省しているといい。ここは我が軍団で退いてみせよう!」
 ハデスはそう言うと、全裸に仮面だけをつけた戦闘員を招集した。
「へえ、面白いことになってるじゃない」
 地下でそんな声がハッキリと聞こえた瞬間、地上へと繋がるドアが蹴り飛ばされ、階段からオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)を引き連れたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が顔を覗かせた。
「あんたが変態紳士だね……? 散々好き勝手したみたいだけど、そろそろかみ殺される準備はできたかしら?」
「はっはっは! そんな色っぽい鎧を着て凄まれても怖くはないな」
 変態紳士は朗らかに笑ってみせる。
 そう、セフィーたちは機動力を重視したため、グラディエーターのようなビキニアーマーを着用していた。
 セフィーには狼を象った兜が、オルフィナには盾付きのガントレット、沙狗夜には首輪付き鎖を首や二の腕に巻いて胸を隠して鎧にしていた。
 どれも特徴的ではあったが、変態たちの視線は胸や腰にばかり集中していた。
「さあ行くのだ! 我が同胞たちよ!」
 変態紳士の号令で変態たちは一斉にセフィーたちに襲いかかる。
「ふん!」
 セフィーは飛びかかってくる変態を鋼鉄のレガースで蹴り飛ばし、そのまま股間を踏みつぶす。
「あああっっっひいいいいいいいい!」
 グリッ……と踏みにじられると変態は身を捩って歓喜のような声を上げ、セフィーはそんな姿を見て不快そうに顔を歪める。
「うらああああああああああああああああああああ!」
 セフィーは咆哮をあげ、踏みつけていた変態の足を手に取ると、その身体を凶器のように振り回し襲いかかってくる敵を振り回した変態でたたき伏せていった。
「ふむ……パワードアームの力、というより生来の怪力か……だが、服が溶けた後でも同じだけの働きができるかな?」
 変態紳士が呟くと、セフィーたちの胸のプレートを支えていた紐が溶け、胸がはだけてしまった。
「おおおおおお!」
 三人の均整のとれたプロポーションを損ねないほどの綺麗な胸が露出し、変態たちは声を上げるが、
「だから……どうした!」
 セフィーは気にせず変態を振り回し大立ち回りを決める。
「なるほど、羞恥心より闘争本能が勝っているようだ……素晴らしい」
「変態のくせに冷静な分析してんじゃねえぞ!」
 オルフィナはセフィーに気を取れられていた変態紳士の隙をついて、一気に間合いを詰めるとボールでも蹴るように全力で変態紳士の股間目がけて蹴りを放った。
「はっ!」
 変態紳士は咄嗟に前屈みになると、オルフィナの足に手を当て、蹴りの反動に逆らわずそのまま天井まで上がると、くるっと一回転して綺麗に着地して見せた。
「残念だったな! 昔百合園で変態行為を働いた時に股間をしこたま蹴られた時から股間への防御へは人一倍に気を遣っているのだよ」
 残念残念と言いながら変態紳士は挑発するように股間をぷらぷらさせる。
 明らかに格下への挑発にオルフィナは奥歯を噛みしめる。
 と、
「慢心だな。股間への警戒を強めることで背後の警戒を怠るとは」
 沙狗夜は変態紳士の背後を取ると、刀と剣をクロスさせるとハサミのように変態紳士の首を狙う。
「甘い!」
 クロスされた刃が閉じる瞬間、変態紳士は膝を曲げて頭を沙狗夜の胸の谷間に埋めるとそのまま下から刃の脱出をして二人から距離をとった。
「む……なるほど、ただの変態じゃないな」
「お褒めにあずかり光栄の至り」
 沙狗夜は自分の胸を触り、変態紳士は恭しく頭を下げる。
 劣勢と見るや、ハデスが用意していた戦闘員が変態紳士の護衛に回る。
「おっと、そうは問屋が卸さないのですよぅ」
 動きを察知したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は戦闘員たちに向けて変熊のかんづめを向けた。
 その姿を見て、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は奥歯を噛みしめるような苦い顔を見せた。
「ちょ、ちょっとレティ! それ、開けたら何が起こるか分からないかんづめじゃ……」
「大丈夫ですよぅ。きっと、なんとかなりますって。それに……人生はギャンブルみたいなものでしょう? それより、悠長に話をしてていいんですか?」
 レティシアが指をさすと、ミスティの近くを霧がふわふわと漂よい、左肩の服を溶かしていった。
「いや〜! もう、なんで私ばっかりこんな目に〜!」
 ミスティは肩を隠しながら霧から逃げ回る。
「まったく……あたしみたいな格好をしておけばよかったんですけどねぇ」
 そう言っているレティシアの服装はスライムを水着のように体に貼り付けているだけというかなり際どいものだった。
「さあ、そんなことよりいきますよぅ……変熊のかんづめ、解禁!」
 レティシアがかんづめを勢いよく開け放つ。
 ぬるり、とスキンヘッドの厳つい顔の男が缶詰から出てきた。
 男はずるずるとかんづめから出て行くと、それに続いて二人三人と無数のマッチョが姿を現し、変態たちへと突撃を仕掛けて縦横無尽に暴れ始めた。
「なかなかカオスな状況ですねぇ。まあ、優位になったみたいですから結果オーライということで」
 レティシアは呑気なことを言いながら缶詰から出てきた男たちを応援した。
 変態紳士が追い詰められていくのを見て、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)に乗りながらハデスへと接近する。
 すでに服が溶けてしまったのか、吹雪はダンボールを身にまとうというワイルドな出で立ちとなっていた。
「道を開けてください、阻害するものは排除します」
 二十二号は淡々とした口調で喋りながら火炎放射器を周囲にまき散らし、変態たちと追い払っていく。
「ハデスさん! 覚悟!」
 吹雪は二十二号から降りると、神卸ろしで力を込め、千里走りの術で助走をつけるとそのままの勢いでハデスに裸拳を放つ。が、
「危ない!」
 全裸の変態がまるでスーパーセーブを決めるキーパーの如き勢いで二人の間に飛び込み、吹雪の拳は変態の腹に深々と突き刺さる。
「ぶふぁ!?」
 変態の体はくの字に曲がり、殴られた衝撃に逆らわず天井に叩き付けられてそのまま地面にべたりと倒れた。
「む……間違えました。でも次は外さないであります!」
「く……」
 指をポキポキと鳴らす吹雪を見て、ハデスは後ろに下がっていく。
「さ、させるかぁ!」
 吹雪が追い詰めようとすると、倒れていた変態は吹雪の足を掴んだ。
「殴るなら私を殴れ……! いや、もっと殴ってください! お願いします!」
「違うジャンルの変態がいたであります!? この、離すであります!」
 吹雪は必死に足で変態の顔を踏むが、その度に変態の力は強くなり幸せそうな表情を浮かべる。
「うむ、戦況はまさしく不利。変態紳士よ、ここは基地を捨てて逃げるぞ」
「そうはいきません! この基地には部下が残っているのです! 紳士として見捨てるわけにはいきません。あなた達だけでも逃げなさい! 善意の協力者を危険に晒すわけにはいきません!」
 変態紳士は全裸で逃げ回りながら必死に声を出す。
「さあ、早く逃げるのです!」
「……咲耶! アルテミス! ペルセポネ! 我らオリュンポスは撤退する。速やかに逃げるぞ!」
 ハデスは後ろを振り向かず、戦略撤退を駆使して地下から脱出した。
 倒すべき敵が一人減り、変態紳士への攻撃はさらに激しさを増す。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は周りの敵を無視して変態紳士へと突っ込んでいった。
 すでに水着姿のセレンには腕や足に霧が触れても問題なく突っ込んで来れるのだ。
「同士達よ! あの変態な女性を止めるのだ!」
「うおおおおおお!」
 変態たちは一斉にセレンに向かって飛びかかる
 だが、セレンの後ろに控えていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が変態たちを迎撃していく。
 フォースフィールドでバリアを展開し、変態男達に向かってタイムコントロールを仕掛け10年ほど老けさせた。
「うおおおお!?」
 男達は一気に身体の衰えを感じ、その場に倒れ込んでしまう。
「セレン、周りは片付けたわ! 思いっきり暴れていいわ」
「ありがとうセレアナ! ……変態紳士!」
 セレンは変態紳士の名を叫び銃口を向け、
「誰が変態な女性よ!」
 容赦なく発砲した。
 変態紳士はそれを側転でかわし、一定の距離を保ってセレンと対峙する。
「ウイルスで裸になったならともかく、最初から水着姿でこんな場所にくる人間は変態だろう」
「うるさい! 全裸のあんたよりマシよ! そんな粗末なモノをこれ見よがしに見せびらかす自分ってかっこいいって本気で思ってる訳、この粗チン野郎が!」
「なぜ私の紳士が粗末だと分かる? 男も知らないくせに」
「な……! この……!」
 セレンは顔を赤らめながら変態紳士を睨みつける。
「落ち着いてセレン、男を知ってたからって自慢になることじゃないわ」
「分かってる!」
 セレンは鬼気迫る表情で変態紳士の懐に飛び込み、シュバルツ、ヴァイスのグリップで変態紳士の頭を全力で殴った。
「ぐおお……じ、地味に痛いことを……」
「死ね」
 セレンはもう変態紳士のペースに乗ることはなく、そのまま銃口を額に合わせて発砲した。
「おお!?」
 変態紳士はブリッジで回避するとそのままスパイダーウォークでセレンから距離を取った。
「く……! このままでは不利だ。一時撤退するぞ!」
 変態紳士はそのままの体勢でさらに地下へと降り、コントラクターたちはスパイダーウォークの変態紳士を追いかけた。