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あの時の選択をもう一度

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あの時の選択をもう一度
あの時の選択をもう一度 あの時の選択をもう一度

リアクション

「キュピィ、ピキュッピィ? ピピィ(キスミお兄ちゃんが待っているよ、早く起きてわたぼと一緒に遊ぼうよ? もふもふして)」
 ヒスミのお腹にちょこんと載ったわたぼちゃんは必死に呼びかける。妖怪の山で一緒に遊んだ事を思い出しながら。
 ここで
「起きるのでありますよ!」
「……ワタシ達も手伝うわ」
 吹雪とコルセアが登場。
「刺激を与えるのでありますよ!」
 吹雪が進展しない状況を打破しようときつい匂いの果物を顔の上に乗せてくすぐったりつねったりする。完全に玩具状態のヒスミ。
「……なかなか起きないね……もっと強い刺激が必要みたい」
 ルカルカはふとおもむろに鞄からとんでもない物を取り出した。
「おい、それは……」
 ダリルは鞄から出て来たリュウノツメにさすがにまずいだろう止めようとする。
「大丈夫だよ。口に放り込んで外から顎を押して動かしてみる。そしたら起きるはず」
 ルカルカはやる気だった。
「これは何でありますか?」
 吹雪が鞄の中に入っているパンに気付き、ルカルカに訊ねた。
「それは超激辛パン、使ってもいいよ」
 ルカルカはアクリトもビックリの超激辛パンを取り出した。
 見ただけで辛くなりそうな見た目である時点でもはやただの凶器である。
「では使うでありますよ!」
 ヒスミを一刻でも早く救いたい吹雪は即答してパンを受け取り、突入準備を整えた。

「……すごく辛そうなのだ」
「本当に使うつもり?」
 薫とコルセアは明らかに辛そうな二つにツッコミを入れた。
 ヒスミは起きるかもしれないが、口から火を噴くほどの激辛二つは確実に口の中は大災害になるのは確実。辛さで昏倒して情報が聞き出せなかったら意味が無い。
「……それ死ぬだろう!!」
 ヒスミを助けたいキスミもさすがに待ったを入れる。
「心配無いよ。アフターケアの準備は万全だから」
 ルカルカは明るく返す。
「そうでありますよ。こんなに声をかけても起きないのなら強烈な刺激を与えるしかないのであります!」
 吹雪は超激辛パンを構え、いつでもヒスミの口に突撃出来るようにしている。
「…………」
 キスミは助けたい思いと大災害を予想出来る展開に返答出来ず、目を覚まさないヒスミの顔を見るばかり。
 そこに
「まだ目を覚ましていないみたいだから心配で手伝いに来たんだけど、何かしている最中かな?」
 双子を心配して陽一が駆けつけて来た。
「いや、これからだ。強烈な刺激を与えて一気に引き戻そうとしているところなんだが」
 『ナーシング』をかけ続けているシリウスが代表して状況を説明した。
「……もしかして」
 リーブラは陽一の背後に控えるビキニパンツ一丁の特戦隊に気付き、ヒスミ覚醒作戦の参加者だと察した。
「彼らに手伝って貰おうと思ってね。いいかな?」
 陽一は穏やかに答えた。双子を知るだけに容赦の無い準備。
「……すげぇな」
 シリウスは苦笑気味に言葉を洩らした。ヒスミ覚醒に揃ったのは少々やり過ぎ感のあるものばかり。
「それなら俺も巨熊にでも姿を変えるか」
 孝高もヒスミ覚醒作戦に参加を表明する。
「って、孝高、くまさんになってヒスミちゃんにお話するのだ? でもヒスミちゃんがびっくりして飛び起きる前にキスミちゃんがびっくりしちゃうかもしれないのだ」
 薫は突然巨熊に獣化した孝高に驚くだけでなくキスミの心配をする。これまで双子は巨熊となった孝高に散々怖い思いをしているので。
「……ちょ、何で熊になってんだよ!?」
 薫の予想通りキスミは獣化した孝高に条件反射のごとく警戒体勢を取る。
「キスミ、心配するな。お前のこと襲う訳じゃないからな。怒鳴る事もしないから安心しろ」
  孝高はその場から動かず、キスミに危害を加えるつもりは無いと一言。
「……ヒスミ、本当に起きるのか?」
 キスミは恐る恐る孝高に訊ねる。
 答えたのは
「大丈夫、アフターケアは万全だから」
 アフターケア用の苺ドロップを持ったルカルカだった。
「オレもこうして付いているから心配するな」
「……きっと大丈夫ですからあなたは声をかけ続けて下さい」
 とシリウスとリーブラ。
「…………あぁ」
 キスミは、しばしヒスミの顔見つめながら熟考した後、作戦に賛成の意を示した。
 ようやく、ヒスミ覚醒作戦が実行に移された。

 作戦の第一段階は、声での呼びかけ。
「ヒスミちゃん、目を覚ましてなのだ。キスミちゃんがすっごく心配しているのだ。我たちも心配なのだ〜。キスミちゃんも」
「そうだぞ、ヒスミ。早く起きねぇと本当に危険なんだ。頼むから起きてくれよ」
 と薫とキスミ。キスミの必死さにはヒスミを失う事への怯えと用意されている作戦の第二段階目を受けた際のヒスミの心配が含まれていた。
「ぴきゅうぴきゅっ!(早く起きるのだ!)」
 わたぼちゃんはぴょんと跳ねながら必死に呼びかける。
「おいヒスミ、わかるか? 目を覚ませ、キスミもそうだが、薫と俺とわたぼちゃんもここにいるぞ。巨熊だってここにいるんだからな、おい、こら、起きろ」
 熊の手でヒスミに触ったり耳元で“がおー”と鳴く。
「……もうそろそろ起きそうだな」
 ダリルはヒスミが明らかにうなされている表情になった事を知らせる。

 それを合図に作戦の第二段階強力な刺激を与える。
「よし、突撃でありますよ!!」
「いざ!!」
 吹雪とルカルカが同時にヒスミの口に超激辛パンとリュウノツメを突っ込み、ルカルカと吹雪が力を合わせて顎を押して動かし、飲み込ませた。
「たまには逆に悪戯されるのも良い経験になるだろうし。それにやり過ぎるのが好きな子だからね」
 続いて陽一の合図で特戦隊がヒスミの毛布にもぐり込み、熱烈なおしくらまんじゅうを始めた。

「……これで起きなかったらすごいわね」
「そうだが、さすがに起きるだろ」
 静かに成り行きを見守るコルセアとダリル。
「…………地獄絵図だ……本当に大丈夫なのかよ……ヒスミが起きなかったら……嫌だぞ」
 キスミは目の前の光景に悲痛な声を上げていた。これで起きなかったらどうすればいいのやら。
 しかし、その心配はいらなかった。
「よし! 最後はオレが! 頼む、効いてくれ!」
 反応を見たシリウスは今なら魔術師の力もゆるんでいるはずだと考え『変身!』で魔法少女シリウスに変わり、『オープンユアハート▽』を使った後、皆静かにヒスミの様子を見守るばかり。

 しばらくして
「……!!」
 突然むくりと起き上がったヒスミは顔に載っていた果物を落下させた事も気にせず、口の中の大火災を鎮火するものを必死に探し回っていた。自分が現実に戻って来た事に気付く余裕など一切無い様子だった。
「大丈夫か? これでも飲め」
 ヒスミに同情したダリルが午後の黄茶を差し出すとヒスミは奪うように受け取り、ダァーと口の中に流し込んだ。
「!!」
 超激辛を二撃も突っ込まれたためまだまだ苦しそうな顔のヒスミ。
「口直しにこれも食べたらいいよ」
 ルカルカがチョコバーと苺ドロップを差し出すとこれまた奪い取るように受け取り、口の中に放り込み、チョコをすぐに消火し、苺ドロップを口内で転がし、何とか焼け付く辛さを追い出そうと必死だった。
「……」
 苺ドロップが溶け消えた頃、ヒスミの表情が少しだけ和らいだ。
「具合はどうだ?」
 そこでシリウスが念のため身体の調子を訊ねた。
「……口の中が何かすげぇヒリヒリする……というか、さっきまで妖怪の山にいたはずなのに」
 ヒスミはまだひぃひぃ言いながら先ほどまでいた世界と違う事にようやく気付いた。
 そこで
「それは……」
ダリルが代表して全ての事情、ヒスミ覚醒作戦も含めて話した。
「本当か?」
 ヒスミが皆に聞き返した。あまりにも別世界がリアルだったのでまだ身の危険が迫っていた事に実感をもてないでいた。
「本当だ。キスミはこの世の終わりかという顔ですごく心配していたんだぞ」
 孝高が哀れなほど悲痛な顔をしていたキスミを思い出しながら答えた。
「……ヒスミ、戻って来てくれて良かったぜ。オレ一人だと悪戯も楽しくねぇし」
 キスミはここでようやく自分の大事な片割れに声をかけた。失いかけたものを取り戻した安心で少し目が潤んでいた。
「……心配かけて悪かったな、キスミ。……助けてくれてありがとう」
 ヒスミは罰の悪そうな顔でキスミに謝ってから救助者達に礼を言った。
 その後、ヒスミは不満な表情に変えて
「……というか、無茶苦茶じゃねぇか。キスミ、止めろよ〜」
 実行された作戦について文句を垂れた。まだ口の中が痛いし、辛さほどではないが、鼻にはきつい匂いが残っている感じはするわ、おしくらまんじゅうのせいで身体は何か汗でべたべたするわ、で悲惨である。
「……一度は止めたんだけどな。お前が死にそうだったし」
「むぅ、悪かったよ」
 キスミの言葉にヒスミはこれ以上の文句を飲み込みまた謝った。
 どれだけ片割れに心配をかけたのか実感しているようだった。
「……さてと、ヒスミも起きた事だしこれからどうするの?」
 場が落ち着いた所でコルセアがこれからの事をみんなに訊ねた。
「俺は救助の手伝いをして来るよ」
 陽一は人命救助に戻る事にした。
「それならルカ達も手伝うよ」
「人手は多い方がいいからな」
 ルカルカとダリルも人命救助に戻る事に。
「助かるよ。俺は先に行く」
 陽一は一足先に仕事に戻った。
「オレ達もここにいるつもりだがお前達はどうするつもりだ?」
 とシリウス。
「俺はここにいる。何か疲れたし」
 ヒスミがどっと疲れたように答えた。苺ドロップで少しの辛さと疲れは癒されたがまだまだの様子だった。
「だろうな」
「……その方がいいですわ」
 シリウスは軽く笑いながらリーブラは気遣いながら言った。
「オレはどうしようかな」
 心配事が無くなったキスミはどうするか迷っていた。
「キスミは自分達の手伝いをするでありますよ!」
「そうね。人手がいた方が捜査もはかどるし」
 吹雪とコルセアがキスミに捜査に誘いをかける。
「…………ヒスミを助けてくれたし、手伝ってもいいぜ」
 キスミはヒスミを助けてくれた事もあり、吹雪達の手伝いをする事にした。答えるのに間が長かったのは、これまで悪さをする度に吹雪達に痛い目に遭わされて来たから今回は無事に終わるのかどうか考えていたからだ。
「行くのならこれを持って行け。無防備は危険だからな」
 キスミが被害に遭わないようにとダリルは予備の小型精神結界発生装置を渡した。
「……あぁ。ありがとうな」
 キスミは礼を言って受け取った。
「我はヒスミちゃんといるのだ」
「……万が一のためにもな」
「ピキュウ!(遊ぶのだ!)」
 薫と孝高とわたぼちゃんはヒスミと共に残る事に決めた。
 孝高の口にした“万が一”にはまた被害に遭った際の対処の他にヒスミが悪さをした際の対処も含まれていた。
「……何か微妙なんだけど……俺もやっぱり行こうかな」
 孝高の言葉裏を察したヒスミは本当に微妙な顔をしつつも吹雪達に同行するキスミを見送っていた。