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第三章 テロへの制裁

 ――トイレの個室。
「はー……」
 鳴神 裁(なるかみ・さい)は一息吐いた。いろいろとスッキリとした表情だった。
「全員外へ出ろ!」
 男性教師が怒っているのか個室の中まで怒鳴り声が聞こえてきた、静かだが生徒達が外へ出て行く足音が聞こえてくる。
(……先生怒らせちゃったみたいだね)
 一人勝手に想像し、裁は苦笑いした。
 先程から外が騒がしいようだったが、こっちはこっちでそれどころでは無かった。
(さて、戻ろうかな)
 静かになった廊下へ出ると、こっそり近くの教室を覗きこんだ。
(ああ……ここか……)
 怒鳴り声が聞こえた教室のようだった。教室には誰もおらず、椅子が机の下から無造作に引き出されたままになっている。
(……)
 裁の目が一点に固定されていた。
 扉が教室の内側に向かって、倒れている。引き摺ったような痕が床に付いている。

 「……」
 自分の教室を裁は覗き込んだ。
「っ」
 慌てて裁は頭を引っ込めた。
(なんで……トイレに行ってる間に大変なことになってるかなぁ……)


 「おいおい柊さん?何か面倒な事になってるんだけど?」
 屋上から生徒達のいる教室を見下ろす紫月が呟いた。
 教室へと銃を持った男たちが次々と侵入してくる。

 「聞け、政府!」
 スピーカーから大音量で男の声が聞こえてきた。放送室からだろう。どうやら外に要求を出しているらしい。
「おお、始まるぞ!!」
 テロリスト達がスピーカーへと視線を向け、傾聴する。
「我々の要求は100兆円だ!100兆円をよこせ!それが支払われなければ、生徒達を殺す」

「うわ……馬鹿なの……?」
 恭也のドン引きした声が聞こえてきた。
「留学した連中の視察、報告の為に来ただけなのになぁ……。折角、SURUGAのテスターとか微妙な身分偽装したのに……」
 本日も爽やかな青空を他人事のように紫月は見上げた。
「まさかのテロリスト襲撃とか無いわー。普通、お金なら銀行や政府機関とか狙うだろ」

 「貴様ら其処で何してる!」
 屋上の扉が勢いよく開き、ここにもテロリストが現れた。
「大人しく指示に従え!」
「あんなこと言ってますけど?」
 呆れた顔で恭也は相手を見た。マシンガンを手にしており、引き金に指が掛かっている。
「どうする?」
 紫月は『KAMIKAZEパイプ』を取り出し、吹かした。
「どうするって……おいおい紫月さん、これを見過ごすとお給料無しですよ」
「給料出ないのは困るなぁ。そんじゃいつも通り、やりますかよ」
「了ー解ー、ここに葦原忍者が2人居たのがテロリストの運の尽きだったな」
 恭也は髪をかき上げ、ニィッと笑った。
 カッと左目の『義眼【アドラステア】』から閃光が走った。
 テロリストの銃の先端を焼き切り、屋上の貯水タンクを刻んだ。
「なっ……」
 テロリストの男は絶句した。武器を持たない一般人の筈だった。
「何だ知らないのか、葦原の忍者は目からビーム撃てるんだぜ?」
「そう言う事だ!」
 ボンッと『KAMIKAZEパイプ』から人型の煙が現れ、テロリストに襲い掛かった。


 裁はドール・ゴールド(どーる・ごーるど)黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)が中に居ることを確認する。二人は他の生徒達と同じように教室の端っこに座らされている。
(少し距離があるけど、なんとかいけそうかな……)
 何度か二人に視線を送っていると二人と目が合った。向こうもこちらを探していたようだ。

 二人に指を何回か折りたたみ、ハンドサインを送る。
(「ぶっ殺せ!」)

 (3、2、1――)
 蹴り倒された扉があった場所から裁が飛び出す。
「こちらです!」
 黒子アヴァターラが声を張り上げた。
「お前!」
 テロリスト一人の銃口が黒子アヴァターラに向けられた。
「「キャー!!」」
 悲鳴が上がるが、黒子アヴァターラは無視した。
「「……リミッター解除」」
(『鳴神流微塵術、指弾』)
(『ディメンションサイト』)
 挟んだ『リトル・バン』を親指で撃ち出す。『遠隔のフラワシ』が銃口の奥へと弾道を補正する。
「死ね!」
 男が引き金を引き、銃が暴でた。
「なっ……」
 頼みの銃が壊れ、男は唖然と自分の腕を見つめた。
「整備を怠るから暴発などするのですよ」
 ドールは教室全体を認識する。
(テロリストの武器はマシンガンとナイフですか――では『博識』で……)

 良くやったと心の中で呟きつつ、その間も裁は机の間をすり抜けもう一人の男へと駆け上がる。
 裁の身体が机の上で跳ねる。パルクールを使った移動でテロリストとの距離を詰めていく。
「こいつ!」
 もう一人の男が接近する裁に銃口を向ける。
「『サイコキネシス』!」
 引き金とセーフティが共に可動不能。男が力を込めるが、ピクリとも動かない。
「こんな時に……」
「ふぅ、裁さんは相変わらず無茶をしますねー」

 男の眼前へと裁が迫る。
「ボクの積み上げてきた武術の功夫を魅せてやんよ☆」
 右足の先が跳ね上がり、つま先が男の顎を打ち上げる。返す踵で頭蓋を床へ叩き付けた。男の意識はここで切れた。
「ふふん、ボクはスタントマン目指して充分に鍛練を積んできたからね」

 もう一人の男も黒子アヴァターラによって、椅子で床に組み伏せられていた。
「ねぇねぇ、年端もいかない小娘に制圧されるってどんな気持ち?ねぇ、今どんな気持ち?」
 黒子アヴァターラはギシギシと椅子を楽しそうに揺らす。
「く……」
 羞恥と怒りで男は顔を朱にしていた。
「こういう時はこうするものだとオチラギさんに聞きました」
 きりっと一人決め顔の黒子アヴァターラをドールは半眼で見た。
「さて……ブラックさんに余計なことを吹き込んだオチラギさんには、後でOHANASIの必要がありそうですね……」


 「どうするの?」
 緊張を帯びた瞳で柚は小さく海に尋ねた。
「良いか……テロリスト達は廊下と窓の外に注意が向いている。『ブリザード』で奴らの銃を凍結させてくれ。
 火薬が使えなければ、銃は使えない。その間に俺と三月でテロリストを制圧する、いけるな?」
「……うん」
「タイミングは――」
 海は口を閉じた。テロリストの一人が此方を向いたのだ。
「「……」」
 テロリストの視線が生徒達を舐めていく。
 会話のタイミングはもう無いのかもしれないが、柚は海が言わんとしている事は理解できた。
(タイミングは合図する……)
 柚はジッとテロリストの注意が逸れるのを待つことにした。