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第三章 テロへの制裁


 「動くな、ガキ共!」
 家庭科室で正に出来立ての料理を食べようとしていた時だった。
 銃を持った男が二人。家庭科室へと飛び込んできた。
「この学校は俺たちが占拠した。無駄な抵抗は止めて、指示に従え!」
「また変なことに巻き込まれたのかしら……」
 忍は舌打ちした。
「……テロリストか。せっかく日常を謳歌していたのに!」
 アイコンタクトを忍は舞香と沙夢に送った。
「……ここは僕に任せて」
 無数にあるテーブルを死角に体を沈め、テロリストへと可能な限り近づく。
 舞香と沙夢が叫んだ。
「「伏せて!」」
 『バーストダッシュ』で忍はテロリストへとチャージする。
「リミッター解除。『バーストダッシュ』!」
 手にした光状兵器でテロリストのトリガー側の腕を斬りつけ、銃を使用不可にさせる。
「ぐっ!」
「たあぁあ!」
 残るテロリストへと再度『バーストダッシュ』。
「これが契y――得意者の力だ!」
 加速した蹴りを腹部に叩き込む。水平に吹っ飛び、男は入ってきたドアを突き破った。

 「今のうちに早く!」
 忍の声に合わせて、生徒達が一斉に席を立つ。
「ここは三階よ。一階まで降りる必要があるわね……」
「殿は僕がやるから、二人は前を御願いします」
「ええ、大丈夫。私達が先行するわ」
 
 「沙夢さん、何を?」
「ん、先に行って……直ぐに追いつくから」
「分かりました」

 「テロ……私がやれることとしたら避難させることぐらいだけど……リミッターのおかげで無理はできないわね」
(調理器具ならあるけれども、刃物を持って歩くのはかえって怪しいものよね。弓があったら戦えたのだけれど……)
 沙夢はそう言って、テッシュを取り出しその中にコショウを包み、丸めた。
「うん、完成。簡易コショウ爆弾。ひるませるぐらいには使えるかしら」
「弥狐。そっちは出来たの?」
「うん、ケチャップ爆弾の完成だよ」
「急ぐわよ」

 沙夢と弥狐の駆け出しは直ぐに止まった。2階の手前で生徒達が止まっているのである。
「どうしたの?」
 先頭の舞香に尋ねる。
「2階にもテロリストが居ます……」
「そう……なら、私が――」
「いえ、私が行きます。沙夢さんは生徒達を見てあげて下さい」
「分かったわ」
「……これ。使って」
 コショウ爆弾を沙夢は舞香に手渡す。
「ありがとう……」
「ガスマスクのようなものだと効果がないけれどね……」
「大丈夫です。あいつらマスクは着けていません」

 そう言って舞香は服のボタンに手を掛けた。前の男子がギョッとした顔をした。
「あっちを向いてなさい!」
 女子に指摘され、男子達は慌てて階上を向いた。
 制服を乱し、準備万端とばかりに沙夢に親指を立てた。
「みんな、心配しないでね。パラミタの女の子は強いんだから☆あたし達でみんなを守ってあげる」

 「助けて……」
「何だお前?」
 虚ろな表情でテロリストの男達を舞香は見上げる。
「ごめんなさい……もう許して……乱暴しないで……」
 薄らと観念したように涙を浮かべ、許しを請うように近づいていく。
 それを見て、男二人は状況を理解したのか汚い笑みを浮かべる。
「ああ、もう大丈夫だ。だから、こっちへ来い」
「はい……」
 男の一人が舞香へと近づいてくる。
 鈍い音と共に男の股間が蹴り上げられた。
「ぐふっ!」
「ふん!」
 手首のスナップを効かせ、沙夢お手製のコショウ爆弾をもう一人の顔面へと投擲する。
 パンと薄い紙が破れ、男の顔面にコショウがまき散らされる。
「ガっ……ごほっ……」
 奪い取った銃で、鳩尾を突き上げた。
「女の子だからって甘く見ると、こういう目に遭うのよ。お仕置きね」

 一通り片が付くと、舞香は沙夢へ合図した。
「行くわよ」
 2階を通過し、1階へ。
「ここにも……」
 舞香は歯噛みした。
「今度は私が行くわ」
「ええ……」
 沙夢は小さく笑う。
「大丈夫よ。上手くやって見せるわ」

 念の為に2階で生徒達を待機させる。
「弥狐、御願い」
「準備は万端だよ」
「行くわよ!」

 遠くの壁でキンキンと複数のコインが跳ねた。『ゴルダ投げ』で沙夢がアンダースローで投げた物だ。
「ん?」
 反対側へとテロリストの意識が削がれる。
「今よ!」
 何処からともなく弥狐の『毒虫の群れ』が現れ、テロリストを取り囲む。
「ぐっ、何だ!」
「虫が……」

 「タイミングは合わせてね」
「はーい」
 『バーストダッシュ』でドンッと沙夢の体が空中を飛ぶように加速する。
「弥狐!」
「えいっ!」
 沙夢の合図で毒虫の群れが割れる。
「ふっ」
 『逮捕術』でテロリストを組み伏せ、そのまま顔面へ一撃を加え気絶させる。
「ぐぇ」
「もう一人」
 足払いでテロリストの足を弾き、転倒させた。
「ハッ!」
 ズドンと腹部へ掌底を打ち付ける。

 「ふぅ……」
 乱れた息を収めると、忍達の元へと戻った。
「さあ、脱出するわよ」


 「逃がすな!」
 パパパンとコンクリートの壁が弾ける。砕けた欠片が生徒達の恐怖を煽る。
「急いで!」
 リミッターを解除した三月が『カタクリズム』を発動。
 念動の障壁が銃弾を空中で滞留させる。
「くそっ!バレたか!」
 廊下を見る海が舌打ちした。生徒達を階下へと走らせる。
「間に合うの?」
 心配した瞳で柚が海を見る。
「俺達で食い止めるしかない」
「……うん」

 「良く頑張ったな……」
「え?」
 紫月が廊下へと飛び出した。
「忍者ビーム!」
 刹那、廊下が閃光に呑まれる。
「何――?」
「今ですぜ!紫月さん!」
 恭弥から放たれる忍者ビームに合わせ、紫月が走り出す。
「連射だ!連射しろ!」
「了解!忍者ビーム!忍者ビーム!忍者ビーム!忍者ビィィィィィィィィム!」
 廊下を何本もの閃光が突き抜けていく。空中で幾つかの金属の切断線が走った。
 テロリストの視界の外に移動した紫月がテロリストへと肉薄する。
「眠ってろよ」
 グルンとテロリストの体が宙を舞い、床に叩きつけられる。
「ガッ……!」
「お前もな……」
 足を払い、背から倒れるテロリストの首に手を添え床を使って首を潰す。
「ゴフッ」
「ふん」
「っべー、ビーム撃ち過ぎて前が見えねー。5秒待ってくれ、紫月」
 フラフラと恭弥が紫月へと歩いてくる。
「そーいや、葦原忍者でビーム出すのはお前くらいだからな?」
「え、最初に同意したよね?」

 「でだ、ここから下の階はは恭弥と俺が掃討した。急いで避難させてやれ」
「ありがとうございます」
 『カクタリズム』を展開していた三月が頭を下げる。
「上もそろそろ終わる頃だろ」

 「ってゆうか、あんたがココのボス?何でそんなツマラナイ要求したかなー?」
「う、うるさい。我々は政府に――」
 スカンと壁にメスが突き刺さった。ルカが生物準備室から拝借したものだ。手には幾つも予備が握られている。
「っ……」

 少し前のこと。
「ってゆーか、テロリストのボスって何処にいると思う?ハイ、キロス君!」
 ピッとルカはキロスを指差した。
「ちっ……交渉が出来る場所だろ」
「つまり?」
「放送室じゃねーのか?」
「ハイ、という訳で放送室に向かうよん!」

 「動くな!」
 今度は逆である。
 塩酸や硫酸の瓶が投げ込まれ、異臭が立ち込めるテロリストだけの部屋にダリル製作の火炎放射器である。
 燃料用アルコールにホウ酸を溶かし加圧式の霧吹に入れ、
 噴霧しつつチャッカマンで着火すれば数メートルの炎が出る代物だ(ダリル。
 使っているのは、別の人物であるが――。
「ヒャッハー!」
 キロスはテロリストに容赦なく火炎を浴びせかける。
「火事は起こすなよ!」
 ダリルが注意するが、聞いているか怪しいところだ。ダリルが少し前の戦闘で使用していたのを見て、キロスが無理矢理奪い取ったものだ。
「全く……」
 新しい玩具に飛びつく子供だった。

 そんなこんなでテロリストのボスは御用となったのだった。