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リアクション
「ありがとうございます」
こほこほと少し咳き込んで、ツェツィはダリルにお礼を言った。
週に一度は主治医が診に来てくれているのだが、フェイがいなくなったこともあって心労が体に負担をかけている可能性もあるからと医師をしているダリルが念のため診察をしているのだった。
「今日の具合はどうだ?」
「ちょっと咳が出ますね。でも薬を飲むほどではないので大丈夫です」
「そうか」
ダリルは診察の間にツェツィからいろいろな話を聞いた。両親が仕事でなかなか家に戻ってこないこと、大好きだったおばあさんのこと、ハンナに怒られておばあさんと作った花壇でよく泣いていたこと、そしてフェイがいなくなってしまった時のこと。
フェイがいなくなってしまったことは少女にとってはとてもショックな出来事で、屋敷にコピーされ置いてあるカルテからみてもあまりいい状態とは言えなかった。
特に少女はこれから手術を控えている。心臓と肺が特に悪いようで、この手術を成功させるためにも体力をつけなければいけないのだが、徐々に落ちつつあるということがダリルには分かる。
「ねぇダリルさん、またあれをやってくれませんか?」
「あぁ、もちろん」
指をぱちんと鳴らすと、魔法のように何もなかった手にはお菓子が握られている。何とか皆がフェイを見つけてくるまで少しでも元気でいてもらいたいとダリルなりの優しさだ。
幸運のおまじないをかけてあげるから、すぐに元気になるよ。
そう言って最初に見せてから、少女はすっかりお気に入りだ。
「ねぇダリルさん、どうやっているの? 本当に魔法みたいだわ」
「残念だけど企業秘密なんだ」
にっこりと笑って頭を撫でてやると、少し残念そうな顔をした後「また明日見せてくれる?」と無邪気な瞳を向けられれば断る理由はどこにもなかった。
「これは、どういうこと……」
わなわなと怒りに拳を震わせてミア・マロン(みあ・まろん)は声を上げる。その横で川村 詩亜(かわむら・しあ)がおろおろとしながらどうにかミアを落ち着かせようとしている。
ミアが怒るのも無理はない。ヴァイシャリーの噂を聞いて猫を探しに街までやってきた詩亜たちだったが、いざ猫を探すとなったこの段階で妹の川村 玲亜(かわむら・れあ)がまさかの迷子という事態に陥ってしまったからである。
つい先ほどまではイングリットからもらったフェイの写真を片手に、どこから探そうか、どういったところにいそうかなど歩きながら話していた。本当につい先ほどまでのことだ。それがどうしたことか今はその玲亜の影も形もなく、詩亜とミアの二人だけがぽつんと残されていた。
「猫だけじゃなく、玲亜もさらわれちゃった? なんて……」
「あるわけないでしょそんなこと! まったく毎度毎度迷子になってあの子は!」
何とか和ませようと詩亜なりに精一杯の冗談だったが、怒ったミアにそれが通じるわけもなく。
玲亜はよく迷子になるので、二人とも目を離さないように気をつけているのだが、今回のように振り返るといなくなっている場合がある。そういったことを避けるために、普段は隣か前を歩かせているのだが、猫探しについて考えすぎていたためか玲亜についておろそかになってしまっていた。その結果、案の定玲亜は見事に煙のように姿を消してしまっていた。
「まったく、本当に世話が焼ける子ねぇ!」
ぷりぷりと文句を言いながらもミアは「早く探しに行くわよっ」と詩亜に声をかける。
そんな優しいミアの後を追いながら、詩亜はわたげうさぎ型のHCを取り出して起動させた。
「うわぁ、これ可愛い! 見てよお姉ちゃん! あれ……お姉ちゃん? ミアちゃん?」
その頃玲亜はようやく自分が二人とはぐれてしまったことに気付いた。
しかしそこで困るわけでもなく、大人しく待っているわけでもなく。
「も〜、また二人ったら迷子になっちゃったんだね。しょーがないから探しにいってあげますか。もー、お姉ちゃんには私がいないとダメなんだから」
二人を探して反対方向へと走り出した。彼女はどこを通ってきたかなど、もちろん覚えていない。ただ何となく勘と好奇心で「この道のほうが面白そう!」と決めているので、同じ場所をぐるぐると回ったかと思えば、来た道を戻ったりと奔放に移動をしている。
そんな様子をHCで確認しながら、詩亜とミアは本来の猫探しの前に迷子を捜すことにするのだった。
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