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Dearフェイ

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Dearフェイ

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 第四章
 
 
「これは当たりかもしれないなぁ……」

 アキラが地面にまだうっすらと残った轍の後を見ながらぼそりと呟いた。

「マリカ様、ブリジット様、アキラ様、いかがいたしましょうか?」

 テレサがぼそりと尋ねる。
 テレサ、ブリジット、そしてヨンが睨んだとおり、もう一つの鍵は街の外にあったのだ。

「もう少し様子を見ましょう。中の様子をもう少し探ったら仕掛けますわよ」

 ブリジットは妖しい笑みを浮かべて、灯りの先を見据えた。



「本当に出やがった……」

 騎士の橋に現れた幽霊を見て遠部はごくりと唾を飲み込んだ。
 ぼんやりとした姿は次第にはっきりとその形を成し、気づけば人の形をとっていた。その姿は騎士の鎧に包まれ、威圧感で見るものを圧倒する何かがある。

 ――邪魔を……なと……たはずだぞ

 頭に直接響いてくる低い声は幽霊のものだろう。
 他には目もくれずにツェツィへと近付いていく幽霊の前に、エースと遠部はすかさず立ちふさがる。

「おっと。お嬢さんには手を出さないでいただこうか」
「確かに。この子が何をしたって言うんだ。あんたの目的は何なんだ?」

 ――貴様らも、邪魔をするのか……ならば――

 ずず、と腰につけた剣を抜き、構えを取る幽霊。

「マジかよ……」
「お嬢様、危ないからここはお下がりください」

 ハンナがツェツィを下がらせ、イングリットと葵がさらに壁を作るように二人を守っている。
 先ほどまでとは違う明らかな殺気に、皆ごくりと息を飲む。
 急いでこちらも武器を手に取らなければと遠部の手がぴくりと動いた瞬間、幽霊は一足早く動き出した。

 光条兵器を呼び出す時間はない。遠部は咄嗟に護身用に携帯しているナイフを取り出そうとするが間に合わない!
 切られる!
 そう覚悟した時、刃がぶつかる金属音が鳴り響き、目の前にモップ型の光条兵器が飛び込んできた。

「まったく……ぼんやりしすぎですよ明志様。最近たるみすぎです」

 焦りの一つも感じさせずにぐさりと痛いところを突いてくるリズ。
 メイド服に身を包み、上品さを忘れず、しかしモップで刃を止めている彼女を見て幽霊も戸惑っているようだ。

 ――私の一撃を……モップで……だと……

「あら、メイドのモップ捌きをなめてもらっては困りますね」

 リズがやり取りをしている間に遠部も光条兵器を呼び出し、いつでも応戦できる状態になった。
 だが、後方から見ているメシエやイングリットには何やら引っかかるところがあるようだ。

「あの幽霊、明らかに動揺してるよね? これってまだ話し合いの余地があるってやつじゃないの?」

 様子を見ていた桐生も背中越しにイングリットへ声をかける。

「しかも幽霊は幽霊だが、異界のものではなさそうだ。ふむ、どうしたものかね」

 サイコメトリで周囲を調べていたメシエも少し困ったように独りごちる。

 ――ならばこの剣、止めて見せよ!

 そう言って剣を振り、遠部、エース、リズの三人を相手にしながらもまるで隙を見せることはない。むしろ三人が遊ばれているようにも思える。

「くそっ、結構やるじゃんか」
「明志様、息が上がっておりますよ」

 リズもほんの少しだけ息を乱したようだが、三人がかりでそれでも幽霊に一撃も与えることができない。

「というより、君はなぜこの子に執着するんだね? そんなことして何になるというんだ。君がやっていることは無駄だよ。だってこの子は何もしていないんだもの」

 エースが言葉を投げかけると、幽霊はピクリと反応する。

 ――私は……ワタ、シ……は……

「何か様子がおかしいですよ!」

 葵の言葉に幽霊を見れば、幽霊の剣にパワーが集まっていくのが目に見えてわかる。次第に赤くその色を変えていく刀身は、まるで血の色のようだ。

 ――ウおオオおぉぉォォォォぉォ

 人とも獣ともつかぬ雄たけびを上げて、幽霊はその力を振り絞り剣を振るう。
 先ほどまでとは比べ物にならないパワーで、何とか剣先は防いだものの、エースだけでなく、リズと遠部も一撃で欄干まで吹き飛ばされる。
 その一瞬の隙をついて後方の面々もその剣風で吹き飛ばし、一気にツェツィへと距離を詰めた。
 ツェツィの目の前に今まさにその刀身が振り下ろされようとしている。
 その時、彼女の耳に聞きなれた音が響いた。