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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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機晶姫と夜明けの双想曲 第1話~暗躍の連続通り魔事件~

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■特殊9課 多角的捜査線
 ――空京警察。この日、警察内にはその場所にあるまじき、大きな甲冑鎧姿の存在があった。
「……あー、そのなんだ。相変わらずその鎧なんだな」
「ああ。仕事の際は常にこれを着てたから、もはや癖みたいなものだ」
 甲冑鎧を着たまま、倉庫の荷物整理をしているモニカ。鈍重そうな雰囲気とは裏腹に、テキパキと仕事をこなしている。なぜこのようなことをしているかというと、デイブレイカー事件の際に釈放条件の一つとして課せられた奉仕活動の一環として、駆り出されたようだ。
 そしてその様子を見ていたのはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の二人。モニカにも嫌疑が向けられている、という情報のもと、モニカに接触して怪しい所がないか調べるよう仰せつかっていた。もっとも、片方はモニカが動くことにあまりにも心配した故の同行だったのだが。
 エヴァルトはモニカへの挨拶がてら、甲冑鎧の所在を聞こうと思っていたのだが……本人が仕事の時は常に着込んでいるとたった今証言したことから、鎧を放置しているのでは? という線は消えてしまった。
(しかしそうなるとなぁ……難しいところだ)
 モニカは部外者のため通り魔事件の詳しいことは教えられない。そして警察が力を入れながらもすでに十数件も事件が発生しているところから、巡回経路などの情報が漏れているのでは? という考えも浮かんでいる。そのため、エヴァルトは警察内部での内通者がいるかもしれないという独自の捜査をしていた。
(モニカが内通者、及び犯人……馬鹿馬鹿しい、甲冑鎧なんざ誰が着てもそう違いはあるまい)
 モニカが警察内での奉仕活動をしているのはここ数日のこと。実のところ、事件の発生時期とほぼ重なっており、それが嫌疑を強めている原因でもあった。
 ――エヴァルトが難しそうな顔になっている一方、唯斗はモニカの手伝いをしていた。よほどモニカに動かれるのが心配なのだろう。
「手伝いは嬉しいが、あまり作業を取られてしまうと奉仕活動の意味が無くなってしまうのだが……」
「あーいやいや、お気になさらず。上司のほうからも『モニカを手伝うのでしたらきちんと責任を取って面倒を見てください』って言われてるから」
 ……本当はその後に『モニカはクルス同様、嫌疑がかかっていますのでその辺りの動向もチェックをお願いします』とも言われていたのだが、そこはさすがに口に出さなかった。
「それに武力90計略10なモニカが心配で心配で……サポートは俺が回るから、突撃作業はそっちにまかs」
「ほぉ……唯斗は私のことをそう思っていたのか……」
 倉庫内に走るモニカの怒気。その怒気に触れた瞬間、獅子の尾を踏んでしまったことに唯斗が気づいてしまった。
「あ、いや、それはえーっと」
「問答無用! ――と言いたいが、今ここで暴れるのは自らの首を絞めるだけだしな……後で覚えておくといい」
 ……モニカからの冷たい言葉に、背中に冷や汗が走る唯斗であった。
「そういえばモニカ、ここ最近起こってる通り魔事件って知ってるのか?」
 唯斗がやられてしまう前に話の矛先を変えようと、エヴァルトは慌ててモニカにそう尋ねる。すると、モニカの動きが少し止まった。
「――ああ、人並みの噂程度だが聞いている。そしてそれによって姉とクルスが困っていることになっているのも……」
 モニカはミリアリアと一緒に暮らしているからか、自然と通り魔事件のことは耳に入っているようだ。そして、そのことを口にするモニカの身体は怒りに震えていた。
「姉とクルスが困っているなら、私が何とかしてあげたい。だが、今の私は無闇に動ける立場ではないからな……無闇に動いて姉たちを二重に困らせるわけにもいかない」
 本当ならば自ら動いて事件を解決させたい、と思っているのだろう。しかし、自身の今の立場を理解し、それに準じることが今の自分にできること……そう言葉にするモニカ。
 エヴァルトはその言葉に、改めてモニカが犯人ではないだろうという確信を得ていた。そして唯斗もまた、かつては猪突猛進だったモニカも丸くなったものだと感心の視線を向けている。
「……エヴァルト、ちょっといい?」
「ん?」
 何か思いついたのか、唯斗はエヴァルトへ耳打ちをする。……そして囁かれたその案に、エヴァルトはふむと一瞥した。
「モニカ、あまりこちらからは情報を提供はできないが、それでもいいなら捜査協力をお願いできないか? 言いだしっぺは唯斗だから、全責任はあいつが取るらしい」
「え、俺そこまでは言ってn」
 唯斗の言葉を遮り、モニカはエヴァルトたちからの提案に頷く。やはり、自分でも事件を追いたいという気持ちはあるようだ。
「確か、通り魔事件を調べているのだったな。……いいだろう、私でできることがあれば協力しよう。捜査協力という形ならば、奉仕活動の一環としても認められるだろう」
 唯斗が言い出した、あえて容疑者を迎え入れてのおとり捜査。その捜査の許可が下りたのは、倉庫整理を終わらせてからのことであった。


 ――各員による事件の捜査が開始されてから数日が経った。
 犯人が行動を起こすことはなく、捜査の展開は遅々として進んでいない状況ではあるものの、確かな“事件の尻尾”を各々は見出しつつある。
 そしてこの通り魔事件は、デイブレイカー事件の関係者であるクルスが関わっているかもしれないということから、多角的な視点から事件の捜査を行う者も多い。斎賀 昌毅(さいが・まさき)阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)の二人もまた、多角的な視点からによる事件の捜査を行っていた。
「――まさかヴィゼルが舌噛み切って重傷とはなぁ」
 昌毅と那由他は、デイブレイカー事件の黒幕であった元資産家・ヴィゼル絡みの人物関係から通り魔事件を調べるため、教導団を訪れていた。そして、まずは直接ヴィゼルから話を聞こうとしたのだが、当の本人は取り調べ中に自ら舌を噛み切って重傷を負い、とても面会できる状態ではなかった。
 幸い、人物関係を洗い出せるほどの資料や情報などは教導団のデイブレイカー事件担当から借りることはできたので、あてがわれた一室を使って徹底的に洗い出しているところである。
「よほど喋りたくなかったのだよ。……そんな奴のことだから、叩けば埃がきっとたくさん出てくるのだよ」
 ヴィゼルの屋敷から押収されたノートPCを操作しながら、那由他ははっきりと言う。……その瞳には、デイブレイカー事件の時のような事態は二度と引き起こさせないという確かな決意が宿っている。
 しかし調べていくと、ヴィゼルに関係しそうな人物などの情報はところどころ意図的に消されている部分が多く、また本来押収されるはずだった資料等もデイブレイカー崩壊の際に一緒に消失したこともあり、捜査は難航を極めていた。
「……まったく、必要な情報に限って消されてやがるな。誰かに依頼されて消された感じもあるみたいだ」
「データの完全消失は難しいはずなのだよ。頑張れば何とか……おや?」
 HDDさえ残っていれば、消されたデータも時間をかければ復旧は一応可能である。那由他がその可能性を賭けて必死にキーボードをたたいていると……何やらとあるデータを見つけたようだった。
「どうした、那由他?」
「これを見てみるのだよ。――おそらく、ヴィゼルが目星を付けていた遺跡の一覧なのだよ」
 昌毅が那由他の横からノートPCの画面を覗く。そこにはいくつかのファイルがあり、パラミタ……特にシャンバラ全域にある遺跡の一覧が記録されていた。
 この“遺跡”というのは、古王国時代に存在したテロ組織『夜明けを目指す者』が当時使っていた拠点である。デイブレイカー事件の際もいくつかの遺跡が関わっており、『夜明けを目指す者』に呼応していたヴィゼルがリストアップしているのも納得いく。
「“機晶姫のゆりかご”や“黒船漂着地点”、“飛空艇実験場”……ったく、前々から目星は付けてたのかあの狸は」
 思えば、何かしらの遺跡の情報はその遺跡から得ていたのを思い出す。それらの情報が最初からヴィゼルは持っていた……という事実に、昌毅は思わず悪態をついてしまう。
「過ぎたことはしょうがないのだよ。……もしかしたら、犯人のアジトが掴めるかもしれないのだよ」
 昌毅たちもクルスが犯人ではないことを考えている。そのため、ヴィゼルの線から事件を洗っていたのだが、思わぬところからヒントになりそうな証拠を見つけてしまった。……そして、それを使わない手はない。
「思わぬ大物……と言えるかどうかは知らないけれど、いい物は見つけたのだよ」
「だな。とりあえず、もう少し調べてみよう。――あんな動力炉をまた世に出させてたまるもんか」
 二人は決意を新たにすると、得た情報を特殊9課へ送った後に再び資料へ目を通す。今起きている事件を……そして何よりも、これから起こりえるかもしれない新たな事件を防ぐために。