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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

リアクション

ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな) 霧島 春美(きりしま・はるみ) ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)  ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら) カリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす) シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)



にしても、探偵病の人たちがずいぶんうろうろしてる館だよな。
館主が呼びよせてるんだから、当然だけど。こんな危険人物たちを一か所に集めたら、知りたくもないこと、知られたくもないことも、なにもかも暴かれちゃって都合悪くないですか。 
華麗な推理、論理のアクロバットのオンパレードですよ。
普通の感覚の人はイヤがりそうなもんですよね。アンベール男爵、尊敬するよ僕は。
来世があっても絶対、マネしません。
思いついた。

「ねぇ、幽霊探し、探偵に頼んじゃおうか」

「おぬし、探偵はキライじゃろう。おおっ。キライだからこそ、面倒は押しつけようと言うのか、さすが維新じゃのう。わしはどちらでもよいぞ」

「考えたんだけど、百合園推理研にしても、探偵がいっぱいいるわけだよね。
中にはヒマしてる人もいるだろうし、実はお呼びでないのに一座に加わっているのもいるかも。
だったら、探偵とハサミは使いようだよ。
せっかくここまできている以上、推理しないと探偵として恥でしょ。
お仕事してもらおうよ」

「傲慢と偏見と強引じゃな。
おぬし、本当は探偵が好きなのじゃないのか。キライキライも好きのうちじゃからな。
しかし、おもしろそうじゃ。
よかろう。いってみるとするか」

僕たちは百合園推理研究会のメンバーの後を追って速足で廊下を進んだ。

両側にずらりとドアの並ぶ廊下を歩いても歩いても、秋刀魚ちゃんも、蒼也くんも、ペルディータちゃんとも会えない。舞ちゃんさえ見当たらないんで、さらわれたんじゃなのか心配になるくらいだ。
たぶん、きっと、彼女たちは、閉め切ったドアのどれかの内側にいる。
なのに、物音がしない。気配も感じないので、どのドアを開ければいいのかわからない。
片っ端に開けて騒ぎを起こすしかないのでしょうか。

「どのドアに入ればいいのかわからんのう」

「舞ちゃんでもたどりつけたんだ。僕らにわからないはずが」

「誰かが声をかけたのかもしれぬ。わしと維新には声をかけてくれぬ誰かがな」

廊下はやたらに長かった。しかも突き当りは行き止まりだったので、僕らは行ったりきたりを何回かして、

「キミら、さっきから、なにをウロウロしてるんや。
維新ちゃんとファタちゃんやろ。誰か探しとるんか」

内側からドアが開いて、ぼさぼさの長髪のお兄さんが顔をだした。彼は、日本の一部地域限定言語である関西弁をあやっている。
ネイティブのカリギュラ・ネベンテス兄ぃに僕も対応しないと。

「うちら迷子やねん。お兄さん、百合園推理研の人やろ。蛸ちゃんたちもそこにおるんやろ」

「キミの関西弁、なかなかグルービーやないか。言葉は文化や大切にせんといかんよ。
タコはおらんけど、ブリならおる。おっと、敬称略はNGや。
代表に会いたいんなら、こっちや」

「おおきに。部屋がわからんでほんままいったわ」

「ほな、はよ助けをよばんとあかんで。きみら、この館をなめたらあかん。とりかえしのつかん、おそろしいめにおうからな」

「そやな。僕もそう思う。ここは得体のしれんケッタイな場所や」

「わぁ。維新ちゃんとファタちゃんだ。いま、まさにこの部屋で事件の謎が明らかになろうとしてるんだよ。クライマックス、トゥギャザー! よくきたね」

だっこできるぬいぐるみサイズの角の生えたウサギが、駆けよってきた。

「ディオちゃんだよね。問答無用で、きみはかわいいなぁ」

限定解除で標準語に戻って、僕は彼女を抱きあげる。
ちゃんとトリートメントしてるらしく、ふかふかしてて、さわり心地も最高だ。

「僕たち、探偵さんに解いてほしい謎があるんだけど、きみの相棒さんはいま、お手隙かな」

「維新ちゃんの謎ならボクでもOKだよ。
また、かわい家さんでなにかあったのかな。ところで歩不くんは、元気?」

「歩不くんは、世界の敵と戦い続けてる。
僕としては、危険なことはやめてほしいところだよ。
とめても、それがボクの存在する理由だからしようがないんだ。とか言ってやめてくれないんだ」

「維新ちゃんのために、他のヒーローに仕事を任せて引退すればいいんだよ。
アベンジャーズもXメンも現役なんだからさ」

「歩不くんの守備範囲は主に日系人がらみだと思う」

「変○仮面もゲゲゲの鬼○郎もいるよ。妖○人間も」

「ゲテモノばっかりだよね。一応、僕の義兄で元恋人は、二の線なのですが」

「歩不っちは日本産の死神さんだから、そっちの仲間だよ。実写映画もそんな感じだったし。特撮ものは好きだから、ボクもケーブルTVでみたことあるんだっ」

ディオちゃんは、パートナーの影響か、けっこうマニアックだ。

「ようこそ。かわい維新ちゃん。私に御用かしら」

僕に抱かれたまま、ディオちゃんが手まねきで呼んでくれて、鹿打ち帽にインバネスコートの少女がこちらへやってきた。
百合園推理研のマジカル・ホームズ霧島春美。
シャルちゃんとは、また違う名探偵オーラでキラキラしてる。
シャルちゃんのが国際的な高級専門店だとしたら、春美ちゃんのは、探偵道一筋の庶民派職人オーラだ。
春美ちゃんのうしろには、シルクハットを頭にのせた目つきの鋭いバニーガールがつきしたがえている。

「春美ちゃん。僕はね」

ディオちゃんを床におろして、お願いを言おうとした僕に、春美ちゃんは手の平を前にだした。

「説明は結構です。
あなたがなぜ、私を必要としているのかは、わかっていますから」
「えっ。そんな春美。維新ちゃんはいま、この部屋にきたばっかりだよ。
ボクと日本製の特撮映画の話をしていたんだ」

「ディオ。ちょっと黙っていて。

ルドルフ・グルジエフ神父を悩ます幽霊探しは、すでに佳境をむかえています。
幽霊を探すのではなく、ルドルフ神父にうらみを持つ人物を探す方向性は、ある意味、正解といえるでしょう」

うわわ。
こちらが言わないうちに僕の悩みを言いあてるとか。
この人、本格的にホームズしてるんですけど。
まさかの僕の独白を読んでたってオチはないだろうし、なんで知ってるの。

「仲良しのシャルちゃんに、僕のこと、教えてもらったの」

「いいえ。ありえません。
シャルと私が手を組むと思いますか」

ブラウンの目には挑発的な色まで浮かんでいる。

「美少女天才探偵のキャラクターノベルと宮部みゆきというか、ムリな気がする」

「シャルの万能性は私にはありませんが、it is not really difficult to construct a series of inferences, each dependent upon its predecessor and each simple in itself. If, after doing so, one simply knocks out all the central inferences and presents one’s audience with the starting−point and the conclusion, one may produce a startling, though possibly a meretricious, effect. Now, it was not really difficult」(一つ一つがその前の推理に基づいていて、しかもその一つ一つはシンプルで小さな推理群を、一つながりの大きな推理にまとめるのは、それほど難しいことじゃない。
その後に、もし中間の推理をことごとく消し去って、ただ出発点と結論だけを示すのは、簡単な方法ではあるけれど、とにかく説を聞く相手を驚かせる効果は十分だ)



「僕には意味がわかんないけど、聖典の引用だよね。
あえて、ツッこませてもらうと、あんたは、かわい家おばさんかっ!」

サー・アーサー・コナン・ドイルが残したホームズの冒険譚をホームズのファンは聖典って呼ぶのです。

「かわい家さんもなかなかお好きらしいわね」

「なかなかどころか、あの人はホームズがいなかったら、ミステリがなかったら、生きていけないんじゃないの」

「それは、同情するわ」

春美ちゃんが一瞬、顔を曇らせた。きっと、同病相憐れむだ。
でも、すぐに元の自信に満ちた探偵の顔に戻って、両手の指を組んで三角をつくり、顎のしたへ持っていった。

「ルドルフ神父を脅かしている亡霊がいる。
亡霊は神父の母とそっくりの姿をしている。
そして、亡霊は心霊のたぐいでなく、正体は人間である、となれば、これができるのは、ルドルフ神父の母親の容姿を知っている人物よね。
実際に母親に化けている人物がそうでないとしても、裏には、ルドルフ神父の母親についてよく知っている人がいる。
そして、この館でこんないたずらをするためには、服やメイクの用意があらかじめ必要。
衣裳部屋、メイク室、館内のくわしい地理も頭に入っていないと、いいタイミングで出現できない。
となると、これをできる人は限られてくると思いませんか」

僕の頭にも一人の名前が浮かびあがった。

「アンベール男爵」

「アロンジー。そのまま進んで。
男爵と神父の過去にはそんなに深い結びつきはあるのかしら。神父が地球でどんな生活をしていたのか、なぜ、男爵は知っているの。
私に伝えられるのは、それくらいね」

正直、春美ちゃんの推理はとても役に立った。
誰を調べれば、幽霊事件の謎が解けるのか、はっきりわかった気がする。
マジカル・ホームズ。さすがだね。
これだけ教えてもらって、お礼をしないのは心苦しいよ。
ちょっとマネしてみるね。

「僕からもお返しがあるんだ。
どうして春美ちゃんが、僕が幽霊探しをしているのか、わかったかっていうとね」

「どうしてかしらね」

「それは」

僕は右手でディオちゃん、左手で春美ちゃんのうしろにいるピクシコラ・ドロセラちゃん、首をめぐらせて目線をカリギュラ兄ぃにむけた。

「春美ちゃんには目、耳、手、足もすべて8つずつあるからさ。口と頭、胴体は4つだね」

「それは、ようするにパートナーがいるってことよね。
私に限らず、契約者なら普通じゃない」

「契約者ならパートナーがいるのは当然。でも、多くの契約者は探偵じゃないよ。
さっき気になったんだ。
カリギュラ兄ぃが微妙に薬剤くさいこと。
ディオちゃんの体のあちこちにちょこっと埃がついていること。
僕らこの部屋に入る前、カリギュラ兄ぃがドアを開けてくれた時から、部屋の中からピクシコちゃんが僕らをじっとみていたこと。まるで僕らがくるのを知ってたみたいに。
知ってたんだよね。
ディオちゃんもピクシコちゃんも、僕らがくるのを」

「意味不明だ。わかるように説明できないのか。できなければ、得意の戯言と判断させてもらう」

ステージ以外では、たぶん、いつも不機嫌なマジシャンのピクシコちゃんは、声も言葉も冷徹だ。

「春美ちゃんは、僕の件とは関係なく、探偵として、パートナーのきみたちに館内部の調査を任せた。
ディオちゃんの埃は普通のサイズの人間では入れない天井裏や家具と床、壁の隙間を調べた際についたんだ。
ピクシコちゃんは、ディオちゃんのフォローをかねて一緒に行動した。ディオちゃん一人じゃ危険だからね。
キミたちはその調査で神父の母親の幽霊の件と、その正体を知ったはずさ。
衣裳部屋もみつけたのかもしれない。
ついでに、僕とファタちゃんが幽霊を探している情報も入手した。
本気の探偵の春美ちゃんは、館全体の情報収集もきみたちに命じただろうからね」

「したら、ボクの薬のにおいはなんやねん」

カリギュラ兄ぃは気になるのか、自分のシャツや袖ににおいを嗅いでいる。

「本当に、においがしただけだよ。かすかにね」

「ボクは麻薬製造犯ちゃうで」

「そりゃそやろ。僕かてそないなこと言わへんわ。
やから、そういう臭いのする場所へ調査に行かされとったんやろな、と思ったわけや。
ちゃうか。
ちゃわんやろ。
館以外の現場にいっとったんちゃうの。
春美ちゃんは、パートナーのみなさんをな、自分を代わりに調査にいかしとるんや。
僕は、兄ぃのにおいでピンときたわ。あーどっかいかされてはるなーって。
きっと、兄ぃ以外のみんなもそうなんやろな、って」

「直観的推理や。なかなかのもんやね。
ちなみにボクがいっとったんは、殺人現場やのうてストーンガーデンの製剤工場や。
しっぽを捕まえたで。
これはまた、幽霊とは別の話なんやけどな」

「ピクシコちゃん。僕の説明はこれでいいかな」

「悪くはない、というところか」

ピクシコちゃんの評価は厳しいね。

「維新ちゃんナイス。大正解だよ。名探偵になれるねっ」

ディオちゃんが春美ちゃんに抱えられて、埃を払ってもらいながら、拍手してくれた。

「たしかに、ディオとピクシコからあなたたちの行動について報告は受けていたわ。
幽霊事件の真相もね。
探偵にとって情報収集は基本で、命なの」

「マジカル・ホームズが安心と信頼のブランドだってわかったよ。

忘れてたけど、かわい家おばさんから、春美ちゃんにメッセージがあるんだ。

いつもお世話になっております。
お会いしたことはございませんが、応援していただいて恐縮です。
またどこか、別の事件でお会いできたら、光栄です。

誤解を受けそうな内容だけど、春美ちゃんは、かわい家おばさんとは面識はないよね」

「ええ。ないわ。
でも、ミステリを愛する心がどこかでつながっているのかもね」

「社会不適応者の僕の親戚に優しくしてくれて、ありがとう」

「that for strange effects and extraordinary combinations we must go to life itself, which is always far more daring than any effort of the imagination」
(人生こそ、どんな想像力の産物よりも、思いもよらない、奇妙、不可思議なものさ)