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ゼンゼンマンが通る

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ゼンゼンマンが通る

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一章

 無人のシャンバラ大荒野を護送車が三台走っていく。
 太陽が容赦なく照りつけ、暑い砂塵が舞う。
 その護送車を狙っているかのように車体の上に大きな影が覆う。
 スカルメットに黒のローブ、背に巨大な鎌を持った怪人。ゼンゼンマンが空から降下しているのだ。
 空から警戒していたリネン・エルフト(りねん・えるふと)ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)はゼンゼンマンの姿を捉える。
 ヘリワードがリネンに声をかけた。
「まだ迷っているの?」
「いいえ……気持ちは決めたわ。いくわよ、ネーベル!」
 二人はペガサスとドラゴンを駆ると、一気にゼンゼンマンへと近づいていく。
「……」
 ゼンゼンマンは声を出さずに落下しながら大鎌を構える。
 だが、落ちているのと飛んでいるのでは圧倒的に戦力差が生じる。
 ゼンゼンマンはローブの袖から一枚の黒い紙を取り出すと、その紙は端からチリのように崩れていくと、チリの一つ一つが小型のハエに姿を変えて巨大な霧のようにゼンゼンマンの姿を眩ました。
「そんなことであたしたちから逃げられると思っているの?」
 ヘリワードは飛竜“デファイアント”の身体をポンポンと叩くと、デファイアントは大口を開けると光りのブレスを放った。
 ブレスが直撃するたびにハエは抵抗もせずにボトボトと落下していき、元の紙に戻ってしまう。
 が、光りのブレスが撃ち終わるのと同時にゼンゼンマンはハエの群れを飛び出してヘリワードに接近して大鎌を振るった!
「危ない!」
 そこに割って入るようにリネンがペガサス“ネーベルグランツ”を駆り、ゼンゼンマンの刃をイーダフェルトソードで受け止めた。
 ペガサスの力でリネンは刃を押し返そうとするが、ゼンゼンマンは上半身の力のみでそれを押し返す。
 ゼンゼンマンはかすれた、壊れかけのレコードのような雑音混じりの声でリネンに問いかけた。
「……何故、我の邪魔をする」
「私たちも無法を討つ違法者だから、あなたのやってることに口を挟む権利なんて無いわ……。けど、私はあなたを認めるわけにはいかないわ!」
「もとより、認められるつもりなどない」
「そう……。それは残念だわ!」
 リネンはペガサスごと突進するようにゼンゼンマンを強引に押し返すと、そのままゼンゼンマンの顔に切っ先を突きつけると──刀身が倍の長さに伸びた。
「っ!」
 突然のことにゼンゼンマンも対処が追いつかず、スカルヘルメットの下あごの一部が砕け、白い素肌が顔を覗かせた。
 空中でバランスを失ったゼンゼンマンはそのまま急速に落下していき、なんとか車体の上に落下した。
「待っていたぞ! ゼンゼンマン」
 車体の上で声をかけられ、振り返るとそこには風森 巽(かぜもり・たつみ)が立っていた。
「悪いね、悪人退治は大歓迎だが、例え悪人でも命は命! 人殺しはお断りだ! 変身!」
 巽は叫ぶと変身ベルトに手をかけ、仮面ツァンダーソークー1に変身した。
「例え偽善と罵られ様と、命を護る! その信念を貫くのみ!」
「その命が、なんの罪も無い人を傷つけるとは考えないのか」
「問答無用!」
 巽は叫ぶなり、ゼンゼンマンの懐に飛び込む。
 ゼンゼンマンは背に携えていた大鎌を手に持つと地を払うように鎌を振るう。
「甘い!」
 巽は金城湯池で鎌の軌道を受け流すと、ライトブリンガーを蹴り込む。が、巽の蹴りが胴を捉える直前にゼンゼンマンの手が入る。
「……」
 ゼンゼンマンはそのまま突き出された足を上へ放り投げると、巽は宙で一回転して車体に身体を叩き付ける。
「我の邪魔をするな……。咎人でない汝に我は興味がない」
「そういう訳にはいかないだろう!」
 巽は立ち上がると、人の身体を飛び越すほどの跳躍を見せる。
「その悪を憎む怨念、仮面ごと蹴り砕く! ツァンダー閃光キックッ!」
 巽が放った龍飛翔突をゼンゼンマンは大鎌で受ける。が、全体重の乗った蹴りに耐えきれずゼンゼンマンは体勢を崩し、鎌を車体に突き立てて落下を防いだ。
 と、
「そこまでだ!」
 転がるように車体の上にゼンゼンマンが戻ると、背後から忍び寄っていたマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)がゼンゼンマンを逮捕術と抑え込みで車体の上に押さえつけた。
「ゼンゼンマン……君の主張は刑事として耳が痛い……だが、法が悪を守るというなら。その怒りの矛先を向けるのは俺達警察じゃないのか?」
 そう言いながらマイトは身体を密着させて、戦闘用手錠・改でゼンゼンマンの全身を捕縛した。
「不本意だとは思うが、君には法の裁きを受けてもらう」
 それを聞くと、ゼンゼンマンは初めて、喉を鳴らすように笑う。壊れたテープのように雑音が混じる笑い声は巽とマイトに言いしれぬ不快感を与えた。
「悪手もいいところだぞ、目明かしよ。ここで我を殺せば済む話だ。汝は優しさや情けをかける相手を間違えている」
「なに……?」
「我が涙を流して、謝罪をして、罪が軽くなり再び世に出たときは狼を刈り取るぞ? 汝が真に優しさを持っているのなら、ここで我を殺すべきだ。そうは思わないか?」
「……俺は、警察だ。殺人鬼じゃない」
「……」
 マイトの答えに何も言わず、ゼンゼンマンは力を抜いた。
 すると、ローブが突然ぐねぐねと動き始め、ローブは数十匹の蛇へと姿を変えて、マイトに襲いかかった。
「っ!」
 マイトは咄嗟に飛び退ると、ゼンゼンマンはローブが無くなった分の余白を利用して戦闘用手錠から抜け出した。
 ゼンゼンマンの身体は特殊なパワードスーツをまとっているようで、身体にぴったりとスーツが貼り付いており、華奢な四肢が露わになっていた。
「目明かしよ、次は迷いなく引き金を引くことだ。
 ゼンゼンマンはそれだけを告げると、人間とは思えないほどの跳躍を見せると遠く離れていた隣の護送車の上へと飛び移った。
 マイトと巽は蛇を蹴り落としながら、ゼンゼンマンの姿を睨みつけていた。