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ホテル奪還作戦

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ホテル奪還作戦

リアクション

 4章


 大きく揺れたビルに驚き、慌てふためくテロリスト達。
 その隙に、騎沙良は会場と距離をとろうとする。
(何が起きたのかさっぱりだけど、ラッキー! とりあえず一旦退いて……っと!?)
 しかし、契約者であるヘスティアとデメテールからはそう簡単には逃げられないようで、2人の攻撃が騎沙良を襲った。
「逃がしませんよ!」
 ヘスティアは自動小銃を構え、狙いをつけようとするが、ビルの揺れがまだおさまっておらず、狙いがつかない。
「はわわっ、狙いがっ! あっ!」
 そして気づいた時には、味方であるはずのテロリストに撃ってしまっていた。とんだドジっ娘である。
 対してデメテールは正確にナイフやフォークを投げつけるが、騎沙良は素早く避ける。
「むぅ、当たらないなー。避けないでよ、ちっちゃい人!」
 デメテールはさらに大量のナイフ、フォークを投げつける。
 騎沙良はそれに反応したが、数が多く、とても避けられるものではなかった。
「おっ……、やば、避けられなッ――」
 ザクザクッ! と、騎沙良の柔肌に勢い良くナイフが刺さる。その痛みで、大きく怯む。
「ぐぅっ……」
 思わずうずくまってしまう。そして騎沙良が気づいた時には、自分の頭にナイフと銃口が向けられていた。
 もう駄目かと、強く目を閉じた。その時だった。
 ガガガガガッ!! と、銃を掃射する音が響いた。
 銃はヘスティアとデメテールの2人を狙ったものだった。2人は咄嗟に避ける。
「む! 誰ですか!?」
 ヘスティアは、会場の入り口に立つ男に向かって吼える。
「いやぁ、まぁ、ただの忍者だよ」
 銃を構えている男、紫月は、そう言って悠然と立つ。しかし、彼の状況は決して良いものではない。
(……ヤバそうだったから思わず出て来たけど、こっからどうしよう……。確かこの入り口にはトラップがあるのでしたっけ? このまま進むとボカン、なんてことになりかねません。かといってここで逃げたら、あの娘は殺されてしまうでしょうし。前も後ろもどん詰まりってワケですか。……ど、どうしよう)
 紫月がそんな事を思いながら不安に苛まれていると、突然、テロリストから奪った無線機から音が発せられた。どうやら、近場の無線機全てに通信されるように周波数を調整しているようで、テロリスト達が持つ無線機にも同時に音が聞こえてくる。その音は女性の声だった。
『あっあー、聞こえていますか? テロリスト諸君。私は御神楽舞華と申します。単刀直入に用件を申し上げますが、あの魔法やスキルを制限してしまう妙な装置、私たちがぶっ壊してしまいましたので。武器が無いのが少し痛いところではありますが、あなた方程度ならば、これだけでも十分。そういうわけなので今からそちらへ向かい、あなた達を捕獲させていただこうかと思います。できることならば、抵抗はしないようにしていただきたいと思います。こちらとしても、無闇に死人を増やしてしまうことは出来るだけ避けたいので。それでは、また、後ほど』
 無線機から一方的に声が発せられ、ぶちり、と通信は切れる。
 紫月は無線機から手を離し、試しに1つ、スキルを使ってみる。
「【トリップ・ザ・ワールド】。……おぉ、できました」
 紫月の半径1メートルの範囲に、特殊なフィールドが形成される。それを確認したあと、会場の入り口へ足を踏み入れる。ミネルヴァが仕掛けたトラップの何らかのセンサーが働いたようで、軽い爆発が何回も起こり、会場の入り口は半壊する。その様子を見ていた人質たちは悲鳴をあげる。普通の人間ならば、死んでしまってもおかしくない。
 だが、フィールドにより防御力を増した紫月にはそんなものは通用しない。舞い上がった粉塵と煙の中から出て来た紫月は、全く以て無傷だった。
「よし、じゃ。反撃開始といきましょうか?」

   ■

 御神楽の通信はホテル内の通信機全てに繋がっていたようで、パーティ会場にいなかった契約者達も、様々な通信機器を通して情報を知り、それぞれ会場へ足を急がせていた。
 会場にいた契約者達は、スキル、魔法が使用可能になった、ということで反撃にでる。
 人質として捕まっていた契約者達は、被害がでないように人質を守るのに徹した。
 力を取り戻した契約者たちと、ただ武装しただけのテロリストたちとでは、戦力の差は明白なものだった。
 『契約者』という特別にて異質な存在に、たかが人間が敵うはずもなく、会場にいたテロリスト達は次々と捕まっていく。
 そんな状況を見て、ハデスは、ここまでか、と悟る。ここは一刻も早く逃げた方がいい。そう判断する。
「神崎荒神。ここはすぐに逃げたほうがいい。俺が逃げるまでの時間を稼いで……お?」
 ハデスは神崎に囮を頼もうとするが、神崎が自分に向けたナイフに驚愕し、そして状況を把握する。
「……ふむ。成る程。裏切り……いや、神崎荒神、君はもともとテロリストを殲滅する為にここに来た……そうじゃないか?」
「あぁ、正解だ。飲み込みがはやくて助かるよ」
 神崎はナイフを、ハデスの首に、ぐい、と押し付ける。
「及川がテロリストの計画を嗅ぎ付けてな。実行前に潰してしまうのは容易い事だが、背後に何か大きな存在がいると後々厄介だからな。とりあえず背後関係や組織構造を調べる為に、潜り込んだってわけだ」
「……あぁ、だからさっきの交渉の時、俺の護衛を買って出たのか。情報を聞く為に」
「勝手にべらべら喋ってくれるもんだからな。色んな手間を省いてくれてありがとう。さて、そろそろお縄につく時だ。おとなしくしてもらおう」
「……ふふん。俺が? おとなしく? それは無理だな、神崎荒神。俺はこんなところで捕まってしまう程間抜けではないぞ。何しろ、こんなものを用意しているからな」
 ハデスは、白衣のポケットに手を突っ込み、何か金属質の物を取り出す。
「これが何だかわかるか? 神崎荒神。分からないだろうから特別に教えてやろう。これは……このホテルに仕掛けた爆弾のスイッチだ」
 なに、と神崎は訝しむ。
「こんなこともあろうかとな。このホテルが軽く吹っ飛ぶ程の量のC4を仕掛けておいたのだ。まぁ、ホテルが壊れるのには少し時間がかかるよう、爆弾の配置を調整してある。その間に人質を逃がせばいいだろう。俺も逃げさせてもらうがね!」
 そう言って、ハデスはスイッチに手をかける。
「兄貴! 止めろ! ハデスにスイッチを押させるなッ!」
 及川が叫ぶが、時既に遅し。ハデスはスイッチを押し込んだ。
「いいや、限界だ! 押すねっ!」
 どこかで聞いたような台詞と共に、カチリ、とスイッチが押し込まれる音がする。
 しかし。
「ん……あれ?」
 爆発は起こらなかった。
 ハデスは何回もスイッチを押すが、何も変化はない。
「……あれぇ? な、なんで?」
 ハデスの疑問に答えるように、一人の男の声がした。
「あ、悪いけどC4なら全部解体しちまったぜ?」
 いつの間にかその場にいた柊は、軽い調子で言う。
「そしてその一部を、先程の爆発に利用させていただいたであります。撹乱が起これば、と思いまして。あ、ほら、あなたの欲しがるC4ですよ。差し上げるであります」
 その横に立つ葛城が、ぽい、とC4をハデスに投げつける。ハデスはそれを受け取ったが、雷管無しでは何の役にも立たない。ハデスはだらだらと冷や汗を噴き出し、心底焦った様子で叫ぶ。
「…………。そ、そうだ! テロリスト諸君! この俺を助けたまえ!」
 しかし、次の及川の言葉に、さらに焦燥することになる。
「兄貴。テロリスト全員の捕獲に成功したそうや。ボスのナターシャも、ハデスの付き人の2人も捕まえたで」
 見ると、ヘスティアとデメテールが紫月にがっしりと肩を掴まれている。
「……そういうことだ。ハデス、おとなしく捕まっとけ」
 神崎は、呆然とするハデスを今度こそ捕まえようとする。
 しかしその時、ハデスの背後の窓ガラス、いや、窓の外から、機関銃を掃射する轟音が鳴り響いた。
「――ッ!? うお!?」
 その場の全員が、咄嗟に身を屈める。窓ガラスは機関銃により壊されたようで、ガシャガシャと割れていく。
 そして、壊れた窓から飛行機が飛んでいるような騒音が鳴り響いてくる。実際、その音はの正体は飛行機、武装ヘリのものであった。
「な、何だ……」
 神崎は窓から見える武装ヘリに目を向ける。国軍のものだろうか。それらしき紋章が刻んである。だが、攻撃してきた理由がわからない。こちらには人質もいるというのに。
 だが、その答えはヘリから発せられた声で、すぐに判明した。
『ハデスさん!! はやく乗って下さい! 逃げますよ!』
 ヘリに乗っていたのは、ハデスのパートナーであるミネルヴァだった。
「くっ……、あぁ、要求した武装ヘリを使ったのか! あ、くそ! 待て!」
 神崎が気づいたときには、もう遅かった。既にハデス、ヘスティア、デメテールの3人は、ヘリの乗降扉へ、窓から飛び移っている。
「おのれっ、覚えておれよっ! この借りはきっと返してやるからな! 覚悟していろ!」
 ハデスは大きな声でそれだけ言い残し、さっさと逃げ出した。
 契約者達が逃がすまいと、魔法やスキルで撃ち落とそうとするが、ヘリは遥か上空へ飛び立ち、やがて見えなくなってしまった。
「くそ、逃したか……」
 神崎は一人、悔しそうに呟いた。