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無人島物語

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無人島物語

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「この洞窟には、秘宝を守る“魔女”がいるらしいのよ」
 洞窟を進み始めてほどなく、真理子は言い出した。
「大昔からその『伝説の果実』に執着してて、誰にも渡さないと立ち塞がっているらしいわ。ほとんど持ち帰った人がいないのは、“魔女”にやられているからみたいね」
「吉井、気楽に言ってるけどよ。もし俺たちが来なかったら、どうするつもりだったんだ? その“魔女”とやらを倒して果実を手に入れるつもりだったんだろ?」
 まあ、俺たちが来たからには、相手が誰でも倒してやるけどな、と輝石 ライス(きせき・らいす)は言う。
 真理子は、少し考えて答えた。
「目潰しスプレー使って、相手が視力を失っている間に、犬が盗み出してくるって計画よ。ばっちりでしょ」
「なめてんのか」
 マジでこいつ死にたいのか? とライスは呆れた目で真理子を見た。そんなアホな戦法が通用するなら、誰かがとっくに倒しているだろう。素人同然の上に能天気とは……。
「見ろよ。かなり古いが何人もの冒険者が入っていった痕跡が残ってるだろ。行きの痕跡はあるが、帰りの痕跡はねぇ。言ってる意味わかるよな?」
 足下や壁に人の痕跡が無いか注意深く観察しながら進んでいたライスが、洞窟にかすかに残っていたいくつもの手がかりを見つけ出していた。
「血痕まであるぜ。この洞窟に入って、無事に戻ってきた者はいないってことだろ。……遊びかと思ったが、結構ガチになりそうだな」
 それはそれで大歓迎だぜ、とライスは笑う。
「そうでもないかもしれないわよ」
 分岐している別の道の向こう側から、女の子がひょっこり顔を出す。
「この洞窟、狭いけどもう一つ入り口があるのよ、知らなかった? 案外、他の人はそっちから出たんじゃないかな?」
 別の通路からやってきたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。
 難破し島を適当にぶらついていたら、側面から通じる穴を見つけて、そこから入ってきたらしい。
「全く、ひどい目にあったわよ。パーティに着ていったドレスが波でぼろぼろになっちゃってさ。ちょっと脱いできたけど気にしないでね。変な目でみちゃいやよ」
「……」
 全員は、無言でセレンフィリティを見た。気にするも何も、いつものあのビキニスタイルじゃないか。街中でもその格好なのにどうして今さら恥ずかしそうにアピールしているんだ、この女? と言わんばかりだ。
「奇遇ね、セレンフィリティ? あなたも『ダイパニック号』に乗っていたの?」 
 真理子はセレンフィリティとの遭遇を喜んでいるらしい。セレンフィリティも答える。
「そうなのよ。つくづく自分のくじ運の悪さを呪ってしまうわ。この分だとこの前買ったパラミタサマージャンボ宝くじは全滅だろうなあ」
「逆かもよ? 人生ってプラスマイナスゼロっていうじゃない。遭難したからサマージャンボ当たるかも?」
 当たったら何か奢ってね、と真理子は笑った。
「私も、先月競馬で外れたからこの洞窟に来たの。外した分、お宝が手に入ると思うわ」
「ちょっと待てコラ。吉井、そんな薄弱な根拠でこの洞窟に来たのかよ?」
 ライスは、どうするんだこれ? と小さく首を横に振る。
 お宝、と聞いてセレンフィリティの瞳がキュピーンと光った。
「おっけー、私も手伝うわ。やっぱ無人島と言えばお宝さがしよね。分け前は半分でいいわ」
「これだけ人数がいるのに、なにをちゃっかり二分の一も持っていこうとしているの?」
 セレンフィリティのパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、突っ込んでくる。彼女も洞窟探索を手伝ってくれるようだった。
「そうか……、人数が多いと分け前が減るのよね。……これは、途中で誰かに“消えて”もらおうかしら……くくく……」
 ちょっぴり邪悪な笑みを浮かべて算段を始めるセレンフィリティ。まあ、他にも色々とお宝があるかもしれないし……と考える。 
「さあ、仲間が加わったところで、お宝探しといきましょうか!」
 レッツゴー! と真理子は洞窟の奥を指差す。
「進めないわよ」
 それまでずっと黙っていた紅 悠(くれない・はるか)が、洞窟内を見回しながら言った。
 彼女も最初からいたのだが、出しゃばってもなんだと静かに様子を見ていただけだったのだ。その悠の出番らしかった。
「……喋っている間に取り囲まれてるわ。モンスターよ」
「!」
 真理子は息を呑んだ。
 正面と分岐した通路の項側、そして背後から無数の殺気が迫ってくる。
 洞窟のモンスターたちが気配を察知してやってきたらしい。爛々と光る赤い目と不気味なうなり声。相当数いるようだった。
「来やがったな。……吉井は、荷物見張ってろ」
 ライスはニヤリと笑うと身構える。
「そうも行かないわ! ちゃんと武器も用意してきたし」
 真理子は得意顔で拳銃を取り出してきた。一目でわかるモデルガンに、ライスは困った口調で制止する。
「いやマジで、頼むから引っ込んでいてくれ」
 たちまちにして、モンスターたちとの戦闘が開始される。
 ライスは、狭い場所だから踏み込まれないよう間合いを取りながら銃撃する。
「数的には十分ね。あまり一人で欲張りすぎないでくださいませよ」
 イングリッドが待ってましたとばかりに、指を鳴らす。
「イングリット、あたし達の出番みたい。派手に暴れてあげましょ!」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)はボロボロになったドレスを破いて、ビキニ水着風にして身体に巻き付けておく、といういかにも遭難者の格好になっていた。かなりのセクシー衣装だが、その可愛さに惑わされてはならない。見とれたモンスターは次の瞬間地獄へ落ちているだろう。
「イングリッド、背中の心配はしなくていい。俺がいる」
 マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)も、もちろん黙っちゃいない。イングリッドとタッグを組むように背中合わせになった。
「もう始めていいのよね?」
 セレンフィリティは『ヒプノシス』ですでに、敵の何体かを眠らせていた。
 セレアナは途中で拾った棍棒を手にしている。素手とどちらがマシかわからないような武器だが、ないよりマシだろう。
「“魔女”とやらと戦う前に、軽く準備運動と行くわよ」
 言う前に悠はモンスターに攻撃を仕掛けていた。
 悠は、『肉体の完成』や『護国の聖域』『エンデュア』のスキルを纏っており、『大天使の翼』で仲間たちを動きやすくする。そして、悠の専用スキル『深紅一閃』が敵を仕留めていた。アイテムが流され武器を持っていない設定だったが、その戦闘力の前には関係なかった。
 悠を強敵と見て取ったモンスターたちは、数で押しつぶそうと集団で襲い掛かってくる。
「悠さん、こっちは任せて!」
 パートナーの紅 牡丹(くれない・ぼたん)も素手で十分と割って入ってくる。
 牡丹も強力な戦闘スキルをいくつも装備していた。モンスターの殺気の向きを感知して、悠に殺気を向けているものを狙い狩っていく。
「チアリーディングの動きを格闘技に応用した応援舞闘術をたっぷり味あわせてあげるわ」
 舞香はセクシー衣装のミニスカートを翻しながら跳んでいた。唸り声を上げて襲い掛かってくるモンスターたちに美脚の蹴りを叩き込んでいた。。
『一騎当千』でパワーアップし『神速』で間合いを詰めて、セクシービキニでパワーアップした『裸拳』を炸裂させる。
 攻撃を食らってもモンスターたちはひるんだ様子はなかった。それなり強さの敵ばかりがどんどん突っ込んでくる。だが、舞香には通用しなかった。
 飛び膝蹴りからハイキック、踵落とし、フライングニールキック、トドメの超高度キック! と華麗な足技の連続攻撃が敵を蹴散らしていく。そのたびに翻るミニスカートに気を取られている暇もないほどの早業だ。
 イングリッドと並んで、華麗に舞い踊るような美脚コンボのフルコースで蹴り潰していくさまは壮観だった。
(こっちは薄着ではらはらするよ)
 イングリッドを背後に見ながら、マイトは当たり構わず攻撃してくるモンスターを迎え撃つ。
 イングリッドはTシャツ一枚の姿だ。敵の爪が衣装にかすっただけで、えらいことになるのはわかっていた。もちろん、英国紳士としてそんな懸念などおくびにも見せない。 
 激しい動きだが、マイトとイングリッドは戦闘スタイルも通じる部分があるし、何度か手合せをしている、共闘も何度かしているため、お互い連携を取るのは難しくなかった。
「イングリッドには、指一本触れさせないよ。英国武術タッグと洒落こませて貰おうかな」
 愛用の手錠や電磁警棒といった捕具はないが、『投げの極意』、『逮捕術』、『抑え込み』という徒手空拳の捕縛術なら問題ない。
 マイトはこれらの技術を巧みに駆使し、イングリッドを背後から襲おうとしていたモンスターを的確に処理していく。派手さはないが、着実な仕留めかただ。
 セレアナが、『光術』で目潰しを食らわせ、『タイムコントロール』で十年程老化させてくれているので倒しやすくなっていた。
<ヘッヘッヘッヘッ……>
 ゲルバッキーは、愛想よく尻尾を振る。ただの犬のフリをしてやり過ごすつもりらしかった。
 そんな彼に缶詰と水を与えている、ダリルとカルキノス。この辺は戦うまでもなく余裕だった。
「私だってやればできるのよ!」
 パンパンパン、と真理子はモデルガンを撃っているが全然効いていない。弾がなくなったので慌てて詰め替えているうちに、戦闘は終わっていた。
「美容にかける女の子のパワーを甘く見ると痛い目に遭うのよ。思い知ったかしら?」
 舞香が、最後の敵をしとめて決めポーズを作った。
 洞窟内には、累々と倒されたモンスターが転がっている。ゲルバッキーはその光景を見まわした。
<この世にあるのは勝者と敗者だ。君たちはただ弱かった、それだけのことだ>
「あなた、エサ食べていただけのくせに、ずいぶん上から目線じゃない。一般家庭の犬でももう少し役に立つわよ」
 モデルガンをしまいながら言う真理子に、ダリルがかばう。
「そう責めないでやって欲しい。父の分は俺が働けばいいだけのことだ」
「なんだか、頼りない父親を守ろうとする息子みたいね」
 真理子は微笑んだ。
 洞窟探検は続く。