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王子様とプールと私

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王子様とプールと私
王子様とプールと私 王子様とプールと私

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【王子様VS悪の科学者、戦闘中】

「たくさん遊べたね!」
 プールで遊んでいた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は、泳ぎ疲れてクレープ屋に向かっていた。と、クレープ屋の隅でクレープを食べながら何かをじっと見ているフリューネとユーフォリアの姿に気がついた。
「あれ? 二人ともどうしたの?」
 瀬蓮と一緒に買った可愛い水着を着た美羽は、フリューネたちに話しかけた。
「実は……」
 ユーフォリアから事の顛末を聞いた美羽は、すぐにヴァレリアとキロスの姿を見つけた。一日中遊び尽くしたらしく、ヴァレリアとキロスはのんびりとプールサイドを歩いている。
「キロスが白馬の王子様かあ」
 美羽は、うんうんと頷いた。キロスは粗忽で乱暴で自分勝手だが、それでもヴァレリアを助け出したときは、確かにちょっとかっこよかったかな、と思い返す。
「それじゃあ、キロスを立派な白馬の王子様にして、ヴァレリアとデートしてもらったらどうかな?」
「すごくいい案だと思うー」
 美羽の提案に、瀬蓮が微笑んで賛同する。
「それなら、今連絡して急いで届けてもらうよー。何が必要かな?」
 そう言って、瀬蓮が携帯電話を取り出す。
「ここに白馬を?!」
「? うん、そうだよ?」
 フリューネの突っ込みに疑問符を浮かべて答えた瀬蓮は、どこかに電話をし始めた。
「とりあえず、白馬と王子様の服装と、薔薇の花束でいいかな? すぐに届けてくれるみたいだよ」
「それじゃ、受け取りに行こう!」
 美羽と瀬蓮が駆け出すのを、ユーフォリアとフリューネはクレープを食べながら見ていた。


 さて、驚いたのはキロスである。
「プールに、馬!?」
 突如プールサイドに現れた毛並みの良い白馬に、愕然とするキロス。その元に、衣装を抱えた美羽と薔薇の花束を持った瀬蓮がやってきた。
「ヴァレリアにとって、キロスは白馬の王子様でしょ? だから、キロスを素敵な王子様にしようと思って」
「白馬の王子様、ねえ。んなこといったって??」
 美羽から王子様の衣装を受け取ったキロスはちらりとヴァレリアを見た。??そして、ワクワク感を抑えきれないかのようにウズウズと見上げるヴァレリアを見た。
「……ああ、着ればいいんだろ、着れば!!」
 最早、今日一日いろいろとありすぎて、キロスも無茶ぶりには慣れたようである。
「着る? 馬は、乗るものですわよ?」
「乗ればいいんだろ、乗れば」
 白タイツにかぼちゃパンツ、そしてマントという姿になったキロスは、ヴァレリアに指摘されてプールサイドに佇む馬にひらりと乗った。
「花束は、持つものだよ?」
「持てばいいんだろ、持てば」
 突っ込む気力もなく、キロスは瀬蓮の差し出す薔薇の花束を受け取った。

「わあ……王子様ですわ」
 これ以上ないほど幸せそうな表情を見せるヴァレリア。
「キロス様……颯爽と風にマントを靡かせながらこちらにやってきて、静かに馬から降り立ち、腕に抱えていた薔薇の花束をすっと差し出して、『ヴァレリア姫、お迎えに上がりました……』と静かに告げ、少しの間立ち尽くした後、ようやく花束を受け取ったわたくしの手を優しく引いて馬に乗せ、自身もひらりと馬に乗って『落ちないように、しっかりと掴まっていて下さい』と言い、わたくしが腕を回したのを確認してから馬を走らせて下さいまし!」
「長えよ!」
 といいつつも、ヴァレリアに言われた通りの一連の動作をキロスはこなした。
「さあ、行きましょう!」
 キロスの腰に腕を回したヴァレリアは、早速馬を歩かせてもらったのだった。

「……ヴァレリア。恋愛ってのがどういうものか、大体分かってきたか?」
 周囲の一般客からの奇異の視線を浴びながら、キロスはヴァレリアに問いかける。
「何となくは。でも、一気に色々なものを見たので、まだ頭の中で整理しきれていませんわ」
「急がなくていいぞ。まだまだこういう機会はあるんだからな」
「うふふ。本当にキロス様は優しい方ですのね」
「……そうか?」
 何やら良い雰囲気になっている二人に、忍び寄る影があった。

「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
 馬の前に立ちはだかったのは、トランクスタイプの水着の上に白衣を羽織ったドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「琥珀の眠り姫よ、よく聞け! お前の知っている物語では、こういう展開はなかったか?!」
 ビシッ、とヴァレリアを指差すハデス。
「繰り返しさらわれる姫を、何度でも助けに来る王子! そして、何度も二人で苦難を乗り越えることで二人の絆は強まり、ようやく結婚にいたる!」
「た、確かにそういう展開の話は読んだことがありますわ……」
「……つまり、まだ一度助けられただけのお前の現状では、結婚にはほど遠いのだっ!」
 愕然としたように、目を見開いて息を飲むヴァレリア。
「というわけで、今回は我らオリュンポスがお前をさらってやろう! キロスに助けてもらい、さらに絆を深めるがいいっ!」
「なるほど……!」
「おい、納得すんな!! どう見ても口車に乗せてお前のこと攫う気だぞ!?」
 キロスが叫ぶ間もなく、ヴァレリアは馬から降りた。そして、トコトコとハデスの元へやってくる。
「ふははは! 琥珀の眠り姫は我々がさらった!!」
「いや、今徒歩で歩いて行っただろ!? 帰ってこい、ヴァレリア!! 騙されんな!!」
「ヴァレリアさん、貴女に私怨はありませんが、貴女とキロスさんが一緒にいるところを想像すると、胸が苦しくなるのです……。申し訳ありませんが、おとなしくハデス様にさらわれてください」
 ヴァレリアの元に近寄ろうとするキロスの前に、どう見てもヴァレリアに嫉妬しているアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が立ちはだかる。
「キロスさん……助けた弱みにつけこんで女性に結婚を迫るなんて、最低です!!」
「なぜそうなる!? というかオレが迫ったんじゃねえぞ!?」
「私が、その企みを打ち砕いてみせます!」
「お前もヴァレリアも、俺の話を聞け!!」
 凄まじい怒りのオーラを纏ったアルテミスは、水着姿で剣を構えた。ヴァレリアを助けさせない気満々だ。
「くそ……その気なら、俺も本気で助けに行くぜ!!」

 ハデスとアルテミスは、ヴァレリアを連れてウォーターパーク内を逃げまわった。というより、ヴァレリアは嬉しそうにハデスの後を付いてまわっていた。
 その後を、馬に乗ったキロスが追いかける。帯刀していた剣を抜き、アルテミスと打ち合いながらヴァレリアを追って行く。
「私たちも手助けをしましょう!」
 横から足止めに回ったのは、フリューネとユーフォリアだ。キロスの死角から、アルテミスを足止めにかかる。
「ヴァレリアを返しやがれええええええ!!」
 馬からひらりと飛び降りたキロスは、ハデスを剣の柄で押し飛ばした。
「く、くそおおおおぉぉぉぉ! 我々はそれでも琥珀の眠り姫を手に入れるまで諦めはしないぞおおおぉぉぉぉぉ!!!」
 捨て台詞を吐いてプールに沈んで行くハデス。
「キロス様! 助けに来て下さったのですね!」
「助けに来たも何も、お前が逃げなければ良かったはなしだろうが」
 キロスは無事、ヴァレリアを連れ戻すことに成功したのだった。